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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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9/10

9 お姉ちゃんは光栄だわ

「……いただきます」

「いただきます」

 

 俺と野上はリビングのテーブルを挟んで向い合わせで座っている。テーブルには餃子がたくさん載せられた大皿が鎮座していた。さらに、俺と野上の正面には白いご飯が入ったお茶碗とお椀が置いてあった。

 俺は目の前にある大皿から餃子を箸で取って、口の中に入れた。

 

「美味しいな」

 

 俺は素直に気持ちを出した。餃子の皮はパリッとした食感で、中身の餡も豚肉と野菜の旨みが相まって美味しく感じる。

 

「ええ、本当にそうね。和哉君が頑張ったからよ」

 

 俺の言葉に野上は優しく微笑んだ。自分の頑張りが認められて、気恥ずかしい。

 

「俺だけじゃない。野上が教えてくれたからだ」

 

 実際今回の料理は彼女の言った通り手を動かしただけだ。俺1人では餃子を作ることはできなかっただろう。

 そう思っていると、俺の頭に手が置かれた。顔を上げると、野上が身を乗り出して、手を伸ばし、俺の頭を撫でていた。

 

「それでも貴方が頑張ったのに代わりはないわ。よくできました」

「何をやっているんだよ」

 

 同い年の女子に再び頭を撫でられて俺は恥ずかしさで顔が熱くなる。しかし、初めての時よりも拒否感が薄い気がした。

 俺はお椀に手を伸ばして、その中身を口に含んだ。

 

「野上が作った中華スープだって美味しいぞ」

 

 俺がそう言うと、野上は俺の頭から手を離して、椅子に座り直した。

 

「そう言ってくれて、嬉しいわ」

 

 餃子を作ろうと決めた時、野上はもう1品欲しいと言い出した。そこで冷蔵庫を探したところ、中華スープの素を発見した。

 そのスープの素と冷蔵庫にあった余り物の野菜を使って、野上が中華スープを作ってくれたのだ。

 

「そんなに難しくないわ。和哉君にも今度教えてあげる」

「おう。って、『今度』があるのか?」

「もちろんよ」

 

 俺の問いかけに野上は心底不思議そうな顔をした。

 

「餃子だけじゃなく、色々なものを作れるようになった方がいいでしょう? これからも定期的に教えに来るわ」

「そ、そうなのか? 何か申し訳ないな」

「私は貴方の姉なのだから当然よ」

 

 野上は胸に手を当てて背筋を伸ばしていた。何が姉だからなのか分からない。

 けれど、学校の男子から人気がある彼女が俺の家に何度も来るなんて目立つだろう。最悪誰かにバレたりしたらあとが怖い。

 

「それに和哉君のご両親に挨拶をしたいし」

「やっぱりそれが目的か!」

「そんなことないわ。あわよくばご両親からも姉として認められたいなんて考えてないわ」

「全部口から出てるぞ」

 

 そんなやり取りを交わしながら、俺は自分が作った餃子と野上が作ってくれた中華スープを食べた。

 助けがあったとはいえ、初めて自分で作った料理は美味しく感じた。

 

「さて、お楽しみのデザートね」

 

 昼ごはんを食べ終えた俺と野上は後片付けをし、再びリビングのテーブルに席をついた。

 テーブルの上には野上が言う"デザート"はどこにも見当たらない。必然的に彼女が言っていることは1つに絞られる。

 

「俺がどう褒めるのかそんなに楽しみか?」

「当たり前でしょ。この時のために私は頑張ったのだから」


 餃子を作っている時に発生した野上との勝負は、彼女の勝ちで終わった。その結果、敗者である俺は、野上に良いところを言わないといけない。本当に勘弁して欲しい。

 

「言っておくが、俺は女子を褒めたことなんてないぞ」 

「それなら、私が和哉君の初めてなのね。お姉ちゃんは光栄だわ」

「その通りだけど、その言い方はやめろ」

 

 先程から野上は楽しみで仕方がないと言った様子だ。学校での冷静で大人びた姿はどこへやら、今の野上はケーキを前にした子供のようだ。

 

「さあ、いつでもいいわよ」


 得意げな顔をしている野上を目の前にして、俺は必死に頭を働かせた。先程彼女に言ったように、俺は女子を褒めたことがない。だから、何を言えばいいのか分からなかった。

 

「大丈夫かしら?」

 

 そう言った野上は心配そうな顔で俺を見つめていた。その顔を見た瞬間、俺は覚悟を決めた。野上にそんな顔でいて欲しくなかったからだ。

 

「野上の作る料理は全部美味しい」

 

 俺の声が聞こえたのか野上は一瞬だけ目を見開いた。やがて嬉しそうに微笑んだ。

 

「今日作ってくれたスープもそうだけど、いつも作ってくれる弁当もどれも美味しい」

「和哉君はどれが1番好きなの?」

「ハンバーグだ。なんなら毎日食べたいぐらいだ」

「そう。気に入ってくれて嬉しいわ」

 

 野上は温かい目で俺を見ていた。一方、俺の体温は段々と上がっているような気がする。

 チラリと目の前にいる自称姉を見るが、期待を込めた目で俺を見ていた。どうやらまだ足りないようだ。

 

「野上は優しい。俺に弁当を作ってくれるし、今日だって俺に料理を教えてくれた。改めてになるけど、ありがとうな」

 

 俺は野上に本日何度目かになるお礼を告げた。教室で見る彼女は冷たいようには見えないが、ここまで親身に接してくれるとは思わなかった。

 

「ふふっ、お姉ちゃんだから、当然のことをしたまでよ」

 

 お礼を言われた野上は胸を張ってそう答えた。その姿を見た時、俺の中である感情が芽生えた。

 

「野上はいつも芯がある。そこもすごいところだと思う」

 

 クラスの女子から頼りにされるのもそうだけど、俺に対しても姉らしく引っ張ってくれる。俺にはない野上の良いところだと思う。

 ふと俺の頭に何か置かれた。顔を上げると、野上が身を乗り出して、俺の頭に手を置いていた。

 

「いきなり何だよ?」

 

 抗議の意味を込めて、目の前にいる彼女を見ると、野上は優しく笑っていた。

 

「だって、和哉君が元気なさそうに見えたから。姉として弟を元気付けようと思ってつい」

 

 そう弁解する最中でも野上は俺の頭を撫で続けていた。どうやらこの自称姉は俺の頭を撫でるのを気に入ったようだ。

 

「もう大丈夫だから」

 

 強く拒絶するのもどうかと思ったので、俺はやんわりと言葉を言い換えた。野上は俺のことが心配でしていることだから、その想いを無下にしたくなかったからだ。

 

「そう、分かったわ」

 

 そう言った途端、野上は俺の頭から手を離して、椅子に座り直した。

 

「これで十分か?」

 

 やれるだけのことはやったからもういいだろう。そう伝わるように野上の顔を見た。

 

「そうね、お姉ちゃんとしては朝が来るまで聞きたかったのだけれど」

「おい」

「冗談よ」

「それもそれでおい」

 

 野上が楽しそうで何よりである。

 

「和哉君、褒めてくれてありがとう。お姉ちゃんは感無量よ」

「そうかよ。満足していただけたようで良かったよ」

 

 俺は手で体を扇いだ。真冬なのに俺の体は風呂上がりのようだった。

 

「でも、お姉ちゃんの良いところを何個も言ってくれて嬉しかったわ。私は1個で十分だと思っていたけれど」

「は?」

 

 野上の言葉に俺は思わず彼女を見つめる。

 

「だって、私は『相手の良いところを言う』と言っただけで、何個までなんて指定はないわよ」

「そんなことは……」

 

 野上の言葉を否定しようと記憶を探ったが、確かに彼女の口から言われた覚えはない。

 

「でも、俺が1個目を言った時、お前はまだ欲しがっていたみたいだったから」

「あれは和哉君がまだ何か考えていたから待っていただけよ」

 

 野上はしれっとそんなとこを言い退けた。俺としては不服だったが、今更過ぎたことを言い争っても仕方がない。

 

「一生懸命私の良いところを言ってくれる和哉君は良い子ね。またぜひやりましょう」

「2度とやるか!」

 

 俺は抗議の声を上げた。

 


***

 

 

 あの後、野上は帰っていった。その際、「また来るわ」と俺に告げた。強い意志を感じる目だった。絶対にまた来るつもりだ。

 

「はあ」

 

 皿を洗いながら俺はため息を吐いた。皿洗いは当初野上がやるつもりだったが、流石にそれぐらいは俺がやると主張して、何とか彼女に認めてもらった。野上は皿の洗い方も俺に教えたそうにしていた。

 皿洗いが終わり、リビングに戻る。客人がいなくなったリビングはとても静かに感じた。

 俺は2階に上がった。そのまま自分の部屋に入る。

 

「良かった」

 

 部屋に入るなり、俺はそう呟いた。俺の部屋に入る流れにならなくて本当に良かった。もし、野上を部屋に上げたら、俺の大事なものが見つかる恐れがあったからだ。

 俺はクローゼットを開けた。そこには俺の宝物が入っていた。

 それは、どれも手芸で使う道具だ。他には作りかけのニット帽も入っている。それと道具を取り出すと、机の上に並べた。そして、作業の続きに戻った。俺の趣味である手芸の時間だ。

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