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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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7 姉弟なのだから一緒に帰ってもいいじゃない

 放課後、昇降口を出た俺は外の様子を見つめていた。頭上にはポツポツと雨が降り注ぎ、地面を濡らしていた。

 

「傘を持ってきて良かったな」

 

 今日の天気予報では降水確率は40%だった。念の為傘を持ってきたが、正解だった。

 俺の周りでは、同じく雨を見ながら傘を開く人や鞄を傘代わりにして頭上に持ち上げて校門へと走っていく人たちがいた。

 傘を開こうとしたところ、スマホから通知音が鳴った。スマホを開くと、野上からメッセージが届いていた。

 

『まだ学校にいるかしら? もし、いたら、教室まで来て欲しいのだけれど』

 

 俺はまた何かに巻き込まれそうな予感がした。

 

  

***

 

 

 教室に入ると、野上が自分の席に座っていた。俺が来たことに気づいたのかスマホから顔を上げる。

 

「来てくれてありがとうね。お姉ちゃん思いの弟で嬉しいわ」

「何かあったのか?」

 

 野上の後半の言葉には触れず、俺は要件を尋ねた。つい先日、野上が弁当を作ってくれたお礼のつもりで妙なことを口走ってしまった。それからというもの彼女は事あるごとに「姉さん」と呼ばせようとしてくる。

 

「実は傘を忘れてしまったのよ。和哉君の傘に入れて欲しいの」

 

 窓の景色を見ながら野上はそう言った。先程よりも雨足が強まり、傘なしでは到底帰れそうにない。

 

「友達はどうした? 一緒に帰ればいいじゃないか?」

 

 いつもなら野上はクラスの友達と一緒に帰っている。そう思い尋ねると彼女は首を横に振った。

 

「今日の放課後に先輩から呼び出されてね。用事が終わるまで待ってもらうのも悪いし、先に帰ってもらったのよ」

 

 つまり、今の野上は一緒に帰る人はいないという。俺を除いて。

 

「たまには一緒に帰りましょう」

「誰かに見られたらどうするんだ?」

 

 俺と野上が一緒に帰ったところを学校の誰かに見られたら、面倒なことになる。

 

「大丈夫よ。姉弟なのだから一緒に帰ってもいいじゃない」

 

 野上は得意げにそう言うが、周りの人はそう考えないのだろう。そもそも俺と野上の関係を知らないから、姉弟だと思うわけがない。

 俺はもう一度窓の外を見る。雨は相変わらず降り注ぎ、弱まる様子はない。

 このまま傘を差さずに帰ると間違いなく風邪を引いてしまうだろう。それは見過ごせない。

 

「まあ、この雨だしな。一緒に帰るか?」

「そうね。姉弟水入らずで帰りましょう」

 

 そう言いながら野上は嬉しそうに笑った。

 

 

***

 

 

 俺と野上は同じ傘の下に入り、歩いていた。俺たち2人は電車通学のため学校を出て、駅へと向かっているところだ。

 

「ふふっ、相合傘なんて初めてよ」

 

 野上は何やら鼻歌でもしそうなほど楽しげな様子だった。

 

「俺もそうだな」

 

 俺としてはいつ学校の誰かに見つからないか心臓がドキドキしていた。そして、肩が触れてしまうほど近くに女子がいることにも違う意味でドキドキしていた。

 

「和哉君は傘をちゃんと持ってきたのね」

「まあ、念の為だな。野上は天気予報を見ていなかったのか?」

「私も見ていたわよ。けれど、降らないだろうって思ってしまったの」

「確かに俺も持っていくかどうか迷ったな」

 

 こうして雨が降っていれば役に立つけど、もし、雨が降っていない時はただ荷物になるだけだ。野上の気持ちはよく分かる。

 

「そういえば、先輩には何の用事で呼び出されていたんだ?」

 

 ふと気になって尋ねてみたが、失敗したと思った。何故なら俺の問いかけに野上の表情は一瞬固くなったからだ。

 

「言いにくいことなら言わなくていいぞ。少し気になっただけだから」

「いえ、私は大丈夫よ。ただ先輩の方がね」

 

 野上は気まずそうにそう答えた。自分は問題ないが、相手のことを考えると……。そういえば、前に学から野上は先輩から告白されたことがあると聞いたことを思い出した。

 俺はなんとなく事情を察した。野上が自分から言わないなら、俺から無理に聞き出さない。誰にだって人に言いたくないことはあるものだ。

 

「弁当、いつもありがとうな。美味しくいただいてるよ」

「気にしなくていいわ。最近、次は和哉君に何を作ろうか考えるのが楽しくなってきたもの」


 話題を変えるべく、弁当のことを持ち出したところ、野上は先程までと違い明るい表情に変わった。

 

「野上は家でも料理をしているのか?」

「ええ。両親が帰るのが遅い時は自分でご飯を作っているわ」

「それはすごいな」

 

 俺の家も親が帰ってくるのが遅い時がある。その場合、俺はコンビニで弁当やインスタント食品を買って、済ませている。

 

「和哉君は料理をしないの?」

「面倒くさくてな。買ってきたものを食べているだけだ」

 

 俺の答えに野上は呆れた目を向けた。

 

「ちゃんと体に良いものを摂らないとダメじゃない。また授業中に寝るとこになるわよ」

「どうして、それを知っているんだ!?」

 

 野上から告げられた暴露に俺は飛び上がらんばかりに驚いた。まさか寝ているところを彼女に見られているとは思わなかった。

 

「授業は聞いていないといけないわよ。私が和哉君の席の近くにいたら起こしたかったのだけど」

「それは勘弁してくれ」

 

 授業中、野上に起こされる。想像するだけでクラスの奴らから何を追及されるか恐ろしくなる。

 

「昨日はちょっと夜更かししていたんだよ。それで日中眠くなってな」

「漫画とかゲームしていたの?」

「……まあ、そんなところだ」

「急に顔を背けてどうかした?」

 

 野上は俺の顔をじっと見つめた。整った顔立ちがすぐ近くにあり、俺は思わず後退りしてしまう。

 

「いや、なんだか、本当に姉さんみたいだなって」

 

 俺は顔が熱くなるのを感じながら、そう答えた。以前、姉がいるという友達から姉とは口うるさい存在なのだと聞いたのを思い出したからだ。

 

「何を言っているのかしら? 私は貴方の姉よ」

 

 至極当然のことを口にするように野上は手を自分の胸に当てていた。言っている内容はさておき、堂々とした振る舞いである。

 

「なんだったら、今度の休みの日に和哉君の家で料理を教えてあげてようかしら?」

「突然何を言っているんだ?」

「ほら、将来のことを考えると、自分で作れるようになった方がいいわよ。それに」

 

 野上は俺の肩に手を置いた。彼女はとても楽しそうな笑顔を浮かべていた。

 

「和哉君の家に一回行ってみたかったし」

「それが本音だろ」

「弟に家事を教えるのもお姉ちゃんとして大事なことよ」

 

 野上は俺の言葉を否定しないでそう言い放った。今更だが、彼女の中で姉というのはどういう存在なのだろうか。

 

「というわけで、今度の休みだったら、土日のどちらがいいかしら?」

「いや、俺はまだ了承していないんだが!?」

 

 その後、俺は野上に言いくるめられて、次の土曜日に彼女から料理を教わることになった。

 弟にとって姉とは敵わない存在である。これも姉がいる友達から教えてもらった言葉だ。

 

 

***

 

 

「もう着いたのね」

 

 野上の言葉に俺は顔を前に向けた。正面に目的地である駅が見えた。時間帯のためか多くの人々が吸い込まれるように駅へと入っていく。

 

「あっという間だったな」

 

 俺の口から自然とそんな言葉が溢れた。野上となんのこともないやり取りをしていたためか全然気づかなかった。

 

「和哉君はどの路線だったかしら?」

「俺はこっちだ」

 

 駅の入り口には様々な路線の看板がある。その中で俺は自分が乗る電車の路線を指差した。

 

「そう。私とは別々ね」

 

 隣から野上の気を落とした声が聞こえた。その声は楽しい遠足が終わってしまった子供の声に似ていた。

 

「まあ、仕方ないだろ」

「それもそうね。流石に今から貴方の家にお邪魔するのは迷惑よね」

「どれだけ俺の家に行きたいんだよ」

 

 そんなやり取りをしつつ、俺は傘を閉じた。建物の中に入ったため、傘はもう必要ない。

 傘を閉じたため、俺と野上は近くにいる必要もない。けれど、俺たち2人は距離を取ることはなかった。

 

「今日は傘に入れてくれてありがとうね」

「大したことはしてないぞ。それよりも駅を降りてから家に着くまで大丈夫か?」

 

 野上は傘を持っていないため、それが心配だった。

 

「平気よ。いざとなれば全速力で帰るわ」

「そこはコンビニかどこかで傘を買ってくれよ。風邪を引いたら大変だ」

「それもそうね。弟に心配かけないようにお姉ちゃんは頑張るわ」

 

 野上は何故か気合を入れていた。一体何を頑張るというのか。

 

「でも、風邪を引いても和哉君がお見舞いに来てくれるから大丈夫ね」

「何も大丈夫じゃないわ」

「けど、私は看病されるよりも看病したい派だわ。和哉君、悪いけど、風邪を引いてくれるかしら?」

「とても理不尽なお願いだな!?」

「冗談よ」

 

 もう別々の道に行くことはお互い分かっているのに俺と野上は話し続けていた。適当なところで切り上げてもいいはずだが、何故かそんな気にはならなかった。

 

「あっ、もうこんな時間ね」

「え? マジか?」

 

 スマホで時計を確認すると学校を出てから随分と時間が経っていた。いつもならとっくに部屋で寛いでいる頃だ。

 

「ごめんなさいね、引き留めてしまって」

「俺も気づかなかったし、お互い様だ」

 

 初めはチラチラと時計を確認していたが、途中からそんなことを忘れて、野上と会話を続けていた。

 

「じゃあ、そろそろ帰るか」

「そうね」

 

 先程まで続いていた会話は唐突に終わりを告げて、俺と野上はくるりと半回転し、互いに背を向けた。後ろから彼女の歩く音がする。その音が段々と遠ざかる。

 俺は後ろを振り返った。野上の背中が離れていく。

 その瞬間、なんとなく何かを言わないといけない気がしてきた。これほど時間の早かった下校は初めてだったからだ。

 

「野上」

 

 俺は大した大きくない声で彼女を呼び止めた。それでも野上には届いたようで、彼女は足を止めて、振り返った。

 

「どうしたの?」

「今日は楽しかった。またな」

 

 俺は思ったまま口に出した。俺の言葉に野上は一瞬目を見開き、そして、優しく笑った。

 

「私も楽しかったわ。また一緒に帰りましょう」

「ああ、分かった」

 

 俺の言葉を聞いて、満足気な野上は前を向き、歩き始めた。その背中を見送った後、俺も歩き出した。

 ただ家に帰るというだけなのに随分と充実した気持ちになっていた。

 駅のホームで電車を待つ間、外の雨の様子を見た。雨足は大分弱まり、まもなく止みそうだ。

 野上とまた一緒に帰る約束を交わしていたことに気づいたのは、部屋のベッドで横になった時である。

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