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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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6/11

6 姉として当たり前のことをしただけよ

 野上と一緒に英作さん夫婦の家を訪れてから次の日、俺は学校に来ていた。相変わらず学校では彼女と関わることはない。

 一昨日と昨日で野上といたため、少し不思議な気分だ。いや、よく考えると、今日がいつも通りで、土日が非日常だった。

 

 「そういえば、和哉の昼ご飯はいつもパンなんだな」

 

 昼休みに学食で買ったサンドイッチを食べていると、学から声をかけられた。

 

「まあな。昼ご飯はいつもこれだよ」

 

 俺の両親は朝早く出かけるため、昼ご飯は自分で用意するのが常だ。料理するのが好きではない俺にとって、弁当を作るより買ってきた方が断然楽だ。

 

「パンだけで午後からもつのか?」

 

 学は不思議そうな顔を俺に向けていた。彼は二重構造の弁当箱を広げていて、一方にはご飯が、もう一方にはおかずがぎっしりと詰まっていた。

 

「俺は帰宅部だから。これで大丈夫だ」

「そうなのか。俺ならそれだけじゃ部活で倒れちゃうな」

 

 バスケ部に所属している学は肩をすくめた。確かに運動量が多い彼の場合たくさん食べないと動けないだろう。

 

「学の弁当は美味しそうだな」

 

 俺の問いかけに学は顔を綻ばせた。満面の笑みである。

 

「そうなんだよ! 沙優が作ってくれる弁当は相変わらずとても美味しくてさ!」

 

 学は西村が作ってくれた弁当がどれほど素晴らしいのかを笑顔で語る。学は彼女である西村からいつも弁当を渡されている。

 

「そうなんだな。美味しそうで何よりだ」

「ふっ、そんなに欲しくてもやらないぞ。俺が全部食べるからな」

 

 ドヤ顔で惚気る学に俺は「いや、要らないが」と言いそうになるのを必死で抑えた。ここでそんなことを言ってしまえば、たちまち学はヒートアップするだろう。

 

「和哉も早いところ彼女を作ってみろよ。可愛い彼女から弁当をもらえるなんて彼氏冥利に尽きるぞ」

「そんな予定は今のところないな」

「ほら、野上さんとかはどうだ?」

 

 友達から唐突に自称姉の名前を出されて、俺は思わず咽せる。

 

「どうして、そこで野上が出てくる?」

「この前、彼女のことを見ていただろ? 今日だって時々野上さんへ視線を向けていたよ」

「えっ!? いや、あれはだな」

 

 野上を見ていたことが学にバレて俺は動揺した。野上を目で追っていたのは学校での姿とこの前の休日での彼女を頭の中で見比べてしまったからだ。

 

「俺がたまたま視線を向けた方向に野上がいただけだ」

 

 当然そんなことを学に言えるはずもなく、俺は顔を逸らして苦しい言い訳を並べた。

 

「どんな偶然だよ。そんなことあるかよ」

 

 俺の言い訳に学は苦笑していた。これからまた友達から野上のことで揶揄われるに違いない。

 自業自得なのだが、俺は半ば八つ当たり気味で野上へ視線を送る。

 その時彼女と目が合った。今まで野上を見ていたことがあったが、こうして彼女と目を合わせるのは初めてだ。

 そして、野上はというと。俺に向かって微笑んでいた。その笑顔は土日に見せたものと全く同じだった。

 


***

  

 

 その日の夜、俺は自分の部屋にいて、スマホで動画を見ていた。

 動画を見ながら考えていたのは、今日学校で野上が見せた笑顔のことだった。あまりに綺麗で忘れられなかったのではない。

 あの顔は明らかに何かを企んでいる時の顔だ。俺はまた何かに巻き込まれるのかもしれない。その確信が俺にはあった。

 その時、とある通知がスマホの画面に表示された。それはSNSアプリからで野上からメッセージが届いたというものだった。

 俺は動画を一旦停止させて、SNSアプリを起動した。野上からのメッセージが表示された。

 

『明日のお昼ご飯は学食で買わなくて大丈夫よ』

 

 それを見て、野上がまた何かを始めようとしていることを悟った。

 

 

***

 

 

 次の日、学校の教室に着いた俺は辺りを見回した。教室には大体のクラスメイトがいて、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。

 俺の前の席には誰もいない。学はまだバスケ部の朝練だろう。教室の誰も俺に視線を向けていない。

 俺は椅子を引いて、席に着いた。そして、机の引き出しの中を覗き込んだ。

 そこにはランチマットに包まれた弁当箱があった。

 

 

***

 

 

「おっ、今日は弁当なんだな」

 

 昼休みになって、机の上に弁当を広げた俺に向かって学はそう言った。

 

「ああ、母さんが休みだったから作ってくれたんだ」

「それは良かったな。俺はてっきり彼女に作ってもらったんだと思ったよ」

「昨日の今日で彼女ができるか」

 

 俺からツッコミを受けた学は自分の弁当箱を広げる。恐らく今日も西村に作ってくれたものなのだろう。

 

「和哉が持ってきたのはどんな弁当なんだ?」

 

 学は期待を込めた目を向けていた。俺が弁当を持ってくるのが初めてのため、どういうおかずが入っているのか気になるのだろう。

 俺も弁当の中身を知らないため、興味はある。そんな気持ちを抱きつつ俺は弁当箱を開けた。俺の目に飛び込んできたのはちゃんとした弁当だった。

 弁当箱の左側には白いご飯が敷き詰められいて、ご飯の上にはふりかけがかかっていた。

 右側には色々なおかずが並べられていた。ハンバーグや唐揚げ等の肉系のおかずもあり、ドレッシングがかかったサラダやひじきの煮物といった副菜も添えられていた。

 

「おー、良い弁当だな」

 

 学は俺の弁当を見てそう言った。見た限り変なものが入っていなくて、俺もホッとした。

 

「沙優の弁当と同じくらい美味しそうだな」

「言っておくが、やらないぞ」

「分かっているって」

 

 人に自分の弁当を取られたくない気持ちが誰よりも分かっている学は苦笑した。

 俺は箸を手に取り、ハンバーグへと箸を向けた。食べやすい大きさに割って、口の中に入れた。

 その瞬間、肉の旨みとスパイスが口の中いっぱいに広がった。我が家のハンバーグに比べると、少しスパイスが強く感じるが、これはこれでとても美味しい。

 他のおかずもどれもとても美味しい。おかずの合間にご飯を食べる。普段はパンばかりなので、学校で米を食べるのは新鮮な気分だ。

 

「美味しそうだな」

「だから、あげるつもりはないぞ」

 

 俺の返答に学は首を横に振った。

 

「いつもより和哉が美味しそうに食べているなと思っただけだよ」

「え? そうなのか?」

 

 俺が首を傾げると、学は頷いた。その目は微笑ましいものを見た時のようだった。

 

「そうそう。いつもはただ口に入れているだけみたいだけど、今日は美味しいって顔に書いてあるよ」

 

 友達の言葉に俺は思わず自分の顔を触る。確かに美味しいと思っていたが、顔に出ているなんて思わなかった。

 

「良かったな。美味しい弁当を作ってくれたお母さんに感謝しないとな」

「……ああ、確かにそうだな」

 

 実のところ、この弁当を作ってくれたのは母さんではない。この弁当を作ってくれた"あいつ"に直接お礼を言いたいとは思った。

 俺は学にバレないように教室にいる1人の女子に視線を向けた。

 

 

***

 

 

 放課後になり、家に帰る人や部活に向かう人、どこか寄り道をする人それぞれが教室から出て行った。

 俺は一旦教室を出て、トイレへ向かった。トイレから教室に戻ると、そこには女子が1人だけいた。

 

「悪い、待たせたな」

 

 明るいベージュの髪の彼女はこちらを振り返った。

 

「別に待ってないわ」

 

 そう言って、野上は俺に向かって笑いかけた。昨日、教室で見せた笑顔と同じだった。

 俺は自分の机からランチマットで包まれた弁当箱を取り出して、野上に渡した。

 

「弁当、ありがとうな。とても美味しかったよ」

「どういたしまして。美味しく食べてくれたようで何よりだわ」

 

 俺から弁当箱を受け取った野上は嬉しそうに笑った。

 昨日の夜に野上から届いたメッセージは彼女が俺に弁当を作ってくれるというものだった。野上曰く俺と学の会話を小耳に挟んだらしく、俺のために自分が作ると言ってくれた。

 

「本当に悪かったな。俺の分まで作ってもらって」

「別に気にしなくていいわ。1人分増えたところで手間も変わらないから」

 

 昨日のメッセージと同じことを野上は言った。俺がいくら断っても彼女は絶対に折れなかったため、最終的に俺が野上に材料費を渡すということで手を打った。

 

「ほら、約束したお金だ」

「別に必要ないのだけれど」

「弁当を作ってもらった身としてはこれぐらいしないと気が済まないんだよ。悪いけど、もらってくれ」

 

 不満そうな野上に俺はなんとかお金を渡した。彼女がここまで頑固なのは理由がある。

 

「姉として当たり前のことをしただけよ」

 

 弟である俺が昼ごはんをパンだけで済ませているという話を聞いて、野上の姉心に火が付き、今回の事態に至ったというわけだ。

 人目に触れないように野上が俺の机の中に弁当箱を入れることにしたのである。昨日の夜に打ち合わせしたことだ。

 

「どのおかずも美味しかったんだよ。本当にありがとう」

「そう。男の子に料理を振る舞うのは初めてだったけど、和哉君が喜んでくれて良かったわ」

 

 男子に料理を作るのは初めて。野上の言葉に俺の胸は高鳴った。


「まあ、なんにせよ、今日は本当にありがとうな」

 

 俺は改めてお礼を言った。実は野上が教室に残っているのは俺が彼女に連絡したからである。何故連絡したかといえば、こうして直接お礼を言いたかったからだ。


「今日の弁当のおかずは全部野上の手作りだよな?」

「ええ、そうよ。と言っても、昨日の夜ご飯の残り物だけどね」

 

 野上は手で髪を耳の上にかきあげた。そう彼女は謙遜しているが、それでもわざわざ俺のために弁当を作ってくれたのに変わりはない。

 だから、少しでも野上に感謝の気持ちを伝えたいと思った。

 

「それでもおいしかったよ。ありがとうな、ね、姉さん」

 

 俺は顔から火が出そうなほど熱くなるのを感じながら目の前にいる彼女にそう告げた。

 自分でも何を言っているのか分からなくなる。けれど、野上にお礼を伝えるのはこれが1番だろう。

 俺は恐る恐る野上の反応を窺った。彼女は目を見開き、そして、輝かせていた。

 

「ええ、私はお姉ちゃんだからね! ふふっ、これからは毎日お弁当を作ってあげるわ!」

「毎日は勘弁してくれ!」

 

 毎日野上の弁当を食べるのは申し訳なさとクラスの人にバレる恐れがあるからやめて欲しかった。

 その後の話し合いの結果、週に2日ほどで野上から弁当をもらうことに落ち着いた。同い年の姉はとても不満気だった。

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