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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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4/11

4 恋人ではなく、姉弟です

 トイレから戻ってみると、自称姉のクラスメイトがナンパされていた。

 野上は目を引く美人のため、そういうやつらを引き寄せてしまうのだろう。迂闊に彼女から離れるべきではなかった。

 

「なあ、俺たちと行こうぜ? 良いところを知っているからぞ」

「退屈はさせねえよ」

 

 ナンパ男たちはニヤニヤと笑いながら、彼女の方へ手を伸ばそうとしていた。

 

「だから、私は人を待っているだけなので」

 

 野上はというと、一見動揺した様子がなく、冷静だ。けれど、彼女の内心がどうなのか分からない。もしかしたら、怖がっているのかもしれない。

 俺は足早にテーブルへと向かう。そして、野上とナンパ男たちの間に入るように立ち塞がった。

 

「あ? 誰だよ、お前?」

 

 ナンパ男1は俺を鋭く睨めつけていた。その目から敵意しか感じられない。

 

「お前には関係ないから、引っ込んでいろ」

 

 ナンパ男2もまた俺を剣呑とした目で見ていた。拳を鳴らし、何やら準備を整えている。何の準備か考えたくもない。

 一方の俺は体から飛び出るほど心臓が激しく鼓動していた。こういう輩とは縁がなく、こうして向かい合っているだけでも足が震える。

 しかし、今は泣きごとを言っている場合ではない。なんとかして、このナンパ男たちを追い払わないといけない。

 俺は自分が好きなものを頭に思い浮かべて、気合いを入れた。

 

「俺は彼女の連れだ。無関係じゃない」

 

 声が震えないように精一杯虚勢を張りながら、ナンパ男たちに言い張った。

 今俺の後ろにいる野上はどんな顔を浮かべているだろうか。心配してくれているだろうか、それとも、無謀だと呆れているだろうか。後ろを向けないため、彼女の顔が分からない。

 

「へー、お前みたいなのがな」

 

 ナンパ男1は俺の頭からつま先まで眺めていた。その顔は軽蔑した様子を隠そうとしていなかった。大方俺と野上が不釣り合いだと考えているのだろう。

 

「それがどうした? お前は邪魔だからとっとと消えろ」

 

 ナンパ男2は虫でも追い払うかのように手を振った。こいつらは明らかに俺を見下している。俺のことはどうとでもなると思っているのだろう。

 それはその通りだ。俺は喧嘩が強い方ではないし、今だってここから立ち去りたい気持ちもある。けれど、野上をこのまま放っておくわけにもいかない。

 

「和哉君……」

 

 背後から野上の声が聞こえる。いつもの彼女とは打って変わって元気がなさそうな声だ。それは俺への心配を含んでいるように聞こえた。

 俺は拳を固く握りしめた。足の震えはいつの間にか止まっていた。

 

「あんたたちこそ邪魔だ。迷惑だからどこか行ってくれないか?」

 

 気づけばそんな声が俺の口から出ていた。もっと穏便に済ませるやり方があったはずなのに、自分の口は言うことを聞かなかった。

 

「何だと、てめえ!」

「ガキが調子乗んな!」

 

 店内に響くほど大きな声を発したナンパ男たちは椅子から勢いよく立ち上がった。先程まで俺を侮っていた気配が消え、目が吊り上がっている。

 

「そこまで言うなら力づくでどいてもらおうか!」

 

 ナンパ男1は俺の胸ぐらを掴んだ。男の後ろにいるナンパ男2は腕を振り上げていた。

 俺は少しでも衝撃を和らげようと全身に力を入れた。それでもせめての抵抗に決して目は逸らさなかった。

 

「すみません、店員さん!」

 

 再び店内に響き渡るほど大きな声が響いた。けれど、聞こえたのは俺の後ろからだった。

 俺を殴ろうとしたナンパ男1も、その男の後ろで佇んでいたナンパ男2も呆気に取られた表情を浮かべていた。

 

「お客様、どうされました?」

 

 年配の男性店員さんが俺たちのいるテーブルにやってきた。店員さんは野上の大声に異常を察したのか険しい顔をしていた。

 

「この男の人たちが私の連れに暴力を振おうとしたんです」

 

 野上はナンパ男たちを指さしてそう告げた。

 

「なっ!」

「てめえ!」


 ナンパ男1は俺の胸ぐらから手を離して、野上へと視線を向けた。ナンパ男2も同じく彼女を睨みつけている。

 

「お客様」

 

 野上の前に立ちはだかるように店員さんが身を乗り出した。ナンパ男たちに不審な目を向けている。

 

「他のお客様に迷惑になります。申し訳ありませんが、今すぐお引き取りいただけますでしょうか」

「何を言ってやがる!」

「そうだ。俺たちはただその子と話をしようとしただけだ!」

「失礼ですが」

 

 ナンパ男たちの言葉を遮った店員さんは俺の方へと視線を向けた。

 

「貴方たちは先程こちらの方に暴力を振おうとしましたよね?」

「いや、それはそいつが」

「警察をお呼びいたしましょうか?」

 

 店員さんは営業スマイルをナンパ男たちに向けた。口の端は上がっているが、目は全く笑っていなかった。

 そして、喫茶店にいる他の人も俺たち、いや、ナンパ男たちに視線を注いでいた。そのどれもが男たちへの嫌悪感に満ちたものだった。

 

「うぐぐ」

「くそっ! 行くぞ!」

 

 ナンパ男2は相方を置いて出口へ走っていった。置いてかれたナンパ男1は慌ててその後を追っていった。

 


***

 

 

「お客様にご迷惑をおかけしまして申し訳ありません」

 

 仲裁してくれた店員さんは俺と野上に向かって深々と頭を下げた。

 

「いえ、私たちは大丈夫です。それよりも助けていただいてありがとうございました」

「俺も危ないところでした。本当にありがとうございます」

 

 店員さんが来てくれなかったら、今頃俺も殴られていたに違いない。それに見事にナンパ男たちを撃退してくれた。俺には感謝しかない。

 

「いえ、それでも私の店でお客様方が不快な思いをしたのは間違いありません」

 

 どうやら店員さんは店長さんだったようだ。ナンパ男たちにも冷静に対応していた姿を見て今更ながら納得した。

 

「お詫びといっては何ですか、お好きなお飲み物とスイーツをサービスいたします。どれにいたしましょうか?」

 

 店長さんはメニューを開いて、俺たちに見せてくれた。その瞬間、野上の顔がパァと輝いた。

 

「そんな気を遣ってくれてありがとうございます。ねえ、和哉君、どれにする?」

 

 ワクワクした様子を隠そうとしない彼女は俺の方を向いた。俺としては飲み物はともかく、スイーツはどれでも良かった。

 

「俺は良いから野上が好きなスイーツを2つ選んでいいぞ」

「そう! 分かったわ! ありがとう」

 

 目を輝かせた野上はメニュー表へ視線を戻した。そんな俺たちを見て、店長さんは優しく微笑んだ。

 

「お2人はとても仲が良い恋人ですね」

「へ?」

 

 店長さんの言葉に俺は呆気に取られた。まさか野上といて、恋人だと間違われるとは思わなかった。

 俺はゆっくりと彼女の方へと顔を向けた。野上がどういう反応をするのか気になったからだ。

 

「いえ、私たちは恋人ではなく、姉弟です」

 

 優しい笑顔を浮かべた野上は当然のごとくそう言い放った。彼女はブレなかった。

 

「それは失礼いたしました」

 

 店長さんは一瞬目を瞬いが、すぐに微笑み返して、お辞儀をした。

 

 

***

 


 喫茶店を出た俺たちはショッピングモールの出口へと向かった。今日1日で様々なことがあったせいか、とても長く感じた。

 モールの外に出ると、太陽は西に傾き、夕陽が差し込んでいた。

 

「今日は本当にありがとうね」

 

 モールに出るなり、野上は俺にお礼を言った。

 

「買い物もそうだけど、喫茶店のこともね。助けてくれてありがとう」

 

 彼女は柔らかい笑顔を俺に向けていた。俺はその笑顔を受けながら居心地の悪さを感じていた。

 

「俺は何もしてないぞ」

 

 俺は視線を落として、そう口にした。ナンパ男たちを追い払ったのは喫茶店の店長さんで、その店長さんを呼んだのは野上だ。

 俺は無謀にもナンパ男たちに立ち向かい、殴られそうになっただけだ。我ながら情けなく思う。

 

「それは違うわ」

 

 野上は力強く俺の言葉を否定した。視線を上げると、彼女は真剣な目で俺を見ていた。

 

「和哉君が来てくれたから、あの男の人たちの前に立ってくれたから私も何かしないと思ったの。貴方がいなかったら私は怖くて震えていただけかもしれないわ」

 

 あの時俺からは冷静に見えていた野上だったけど、怖かったらしい。それを知って俺は自分がやったことに胸を張れるような気がした。

 

「ねえ、和哉君。背を屈めてもらってもいいかしら?」

 

 唐突に野上がそんなことを言った。

 

「急にどうした?」

「いいから。少しの間だけだから」

 

 野上は両手を合わせてお願いした。それは小さい子供がおねだりしているように見えた。

 

「はあ、分かったよ」

 

 俺は背中を丸めた。目の前にいる彼女が何を企んでいるのか不思議に思っていると、俺の頭に柔らかい感触があった。

 

「私を助けてくれてありがとう。お姉ちゃんは嬉しいわ」

 

 野上の嬉しそうな声が聞こえるとともに、俺の頭にあるそれが左右に揺れた。どうやら俺は野上に頭を撫でられているらしい。

 それに気づいた瞬間、俺は羞恥心に襲われた。

 

「おい、何をするんだよ!?」

 

 まさか高校生にもなって、誰かに頭を撫でられるなんて思わなかった。それも姉を名乗る同級生の女子だなんて。

 

「貴方は私よりも背が高いのだからこうでもしないと撫でられないじゃない」

「撫でてほしいなんて言った覚えはないんだが!?」

「遠慮しなくていいのよ。私はこうやって弟を褒めるのが夢だったの」

 

 楽しそうな野上の声が頭上から降り注ぐ。その間も野上の手は俺の頭を撫で続けていた。

 

「いい加減にしてくれ。もう十分だろ?」

 

 俺は恥ずかしさのあまり顔が熱くなるのを感じた。

 

「いいじゃない。もう少しだけお願い」

「どうして撫でる方が延長を要求するんだよ!? もう勘弁してくれ」

「そこまで言うなら仕方ないわね」

 

 俺の頭から柔らかい感触が離れた。俺は解放感を味わないながら姿勢を元に戻した。

 

「もう少し撫でたかったのに」

 

 野上は腕を組んで不満気な顔を浮かべていた。その顔はおもちゃを取られた子供のようだった。

 

「あのまま続いていたら俺は恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだ」

「まあ、弟のお願いを聞くのも姉の役目だからね」

 

 なら仕方がないと言いたげな顔をする野上だった。

 

「おい、俺がワガママを言っているみたいじゃないか」

「実際そうじゃない。次からはもう少し長く撫でさせてくれたらお姉ちゃんは嬉しいわ」

「そんな予定はないんだが!?」

  

 俺の言葉に野上は楽しそうに笑った。

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