カラ・カリア
窓に目を戻す、眼前に山が迫ってくる
青みの混じった灰色の岩石の山、表面に深く刻み込まれた急流の痕跡
今は枯れ、黒の川床が幾筋にも分岐して山裾へと、その向こう側へと
つまりこちら側の大湿原へと稲妻のような形を示している
機は再び上昇する、目を凝らせば所々に緑があるのがわかる
薄く小さな森、アデンの木の群生、その薄い枝の控えめな茶色と葉の緑
高くそびえる山肌に張り付くようにして細い根をのばし
小さく疎らに散らばっているのだ
山が落ち込む、突然に
視界にあるものが向こう側へと傾斜しながら落ち込んでいる
目を上げて辺りを見回す、向こう側にも山がある
そこから円形に地形が落ち込んでいる、山体は漏斗状に穿たれている
カラ・カリア大噴火口、6千年前の破局の元凶
底面に出来た湖の反射、中ほどにある正方形は明らかに人工物
冷却装置の地上部分であり、マグマはエネルギーを取り出され
冷えている、この山が噴火することは二度とないだろう
再び視界は拓け遠くなる、地上への距離が長くなっていく
離れていくように感じられる、山肌の灰色、その向こうの黒い帯
エフィメラ森林地帯、黒々とした森の連なり、何時までも続く単調な景観
どれほど飛んだだろうか、地平線に黒の途切れるが見える
赤い河、デシェ・ロン、それを境目として向こう側の赤い土の大地
それは眼前へ迫ってくる、飛行機は高度を下げ河の上を超える
赤の大地の平面の僅かな奥行き、そして整然と並ぶ無数のソーラーパネル
その青の上を飛んでいく、このときホンが手を振っていたらしいが
私はそれに気づかなかった
「まもなく着陸します、衝撃にお気をつけください」
向こう側にハラフ・ロシュの青々とした山林が見える
その手前に曲がりくねるのがハラフ川だ
飛行機は大きく回り込むように旋回し川に沿って飛ぶ
次第に高度が下がり、水面に吸い込まれるように
衝撃は全くなかった、その何もなさに呆気に取られる
窓を隔て手の触れんばかりを水は流れていく
連絡機はゆるゆると水上を進んでいく
波のうねりと水面のキラキラとした照り返し
そして桟橋へと横付けする
「お降りの際には足を踏み外さないように十分に注意してください」
窓を含めた枠が上に跳ね上がる、陽光の眩しさと共に外気は流れ込んでくる
気候制御装置によってハスナ・グナの温度は24度
大気の組成も標準に保たれている、機内と全く同じはずだ
だが、違う、やはり違うのだ、僅かな砂の微粒子とその匂い
陽光の煌めきと其の匂い、私は大きく息を吸い、軽く伸びをする
よくよく気を付けて翼に足を乗せ、それから桟橋に降りる
少し歩いて身をひるがえせば5式連絡機の銀色は桟橋の側に光っている
軽い音と共に機体は傾ぎゆるゆると桟橋を離れ下流へと流されながら
川の中ほどに至ると180度むきを変える
力強いモーター音の高鳴り、無人の連絡機は徐々に加速する
水流を2つに割りながら上流へ、胴体下のエンジンポッドが水面に現れる
離水、水しぶきに陽光は散乱し
天克4型の描く青緑色の軌跡を真っ直ぐに空の彼方へ消えてゆく




