距離
本作は、日常の一場面を切り取った短編です。
現在連載中の「Unspoken…」とは世界観を共有していない、単独作品となっています。
言葉にされなかった感情や、名前のつかない距離感を描いています。
静かな時間を楽しんでいただけたら嬉しいです。
「なぁ、春。今日一緒に帰ろう?」
授業の合間、昼休み。
空き教室の隅、床に座って壁に背をあずける。俺の隣で微睡む春に話しかける。
「あーいいねぇ。あ、やっと受験から解放されたし、夏くんが気に入ってたあのカフェ行きたい」
高校3年生の冬。あと2ヶ月もすれば、俺たちは別々の土地で別々の大学に進学する。
「もうすぐ、こうやってダラダラできるのも終わりなんだな」
春のサラサラな髪を見つめた。
「三年間あっという間だったね。
もう、高校生活やり残したことない?」
目を瞑ったまま問いかけてくる。
「やり残したことか」
教室を見渡し、思い出を振り返った。
俺と春の出会いは、高校に入学して初めてのクラス。たまたま隣同士の席になって意気投合したのがきっかけだ。
文化祭も、修学旅行も、花火やクリスマスも。
気づけば隣に、春がいた。
「俺は……結構満喫したかも」
春がクスリと笑ってこちらを見つめてくる。
「何それ」
「僕は、もっと二人でpictokで動画撮ったり、制服で一日中ドリームマウスランドで遊び回ったりしてみたかったかも。お揃いの耳付きカチューシャなんかつけたりしてさ」
背伸びをして、また壁に寄りかかって目を瞑る。
「それは大事なやり残しだな。
来週、一緒にどう?」
「うん、いいね」
表情は読み取れない。けど、声色は弾んでいた気がする。
「俺ら大学に行っても遊んだりしような」
「それは、どうかな」
春の口元が微笑む。
「人生なんて、何が起きるかわかりませんからね」
春はわざとらしく息を吐いた。
「春が、嫌だって言っても遊びに行く」
「お互いに新しい友達ができたって、春の隣は俺の席だから」
「はは、そんなの今更でしょ」
春の頭が夏の右肩に乗る。
いつもの甘いシャンプーの香り。
夏も体重を預ける。
ーーキーンコーンカーンコーン……
予鈴が鳴る。
次の季節まで、あと5分。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本作と同じく、言葉にしない関係性や心の揺れを主軸にした連載作品
「Unspoken…」も投稿しています。
もし雰囲気がお好みに合いましたら、そちらも覗いていただけたら幸いです。




