1章 第8話交錯する列車 ― それぞれの夜明け ―
夜の帳が下り、列車の窓に映るのは、見知らぬ誰かの顔。
神原翔は新幹線の座席で地図アプリを開きながら、独り言のように呟いた。
「このルート……合理的に見えて、運命的でもあるな」
斜め前の席では、葉山玲奈が缶コーヒーを片手に笑う。
「運命ってのはな、計算できんから面白いんや。神原くん、そろそろ寝ぇや」
車窓の外を流れる夜景に、彼の視線が沈んだ。
一方その頃、関西方面行きのフェリーでは岩永蓮が甲板で風を切っていた。
「次は淡路か。踊りで勝負したら一発逆転やな!」
周囲の観客から拍手が起こる。だがその中で、彼の背後に妙な影が立っていた。
「……ワンダーボンビー?」
ボロスーツの男が、にやりと笑う。
「君のテンション、上げる代わりに“運”をちょっともらうボン♪」
「は? マジでやめろって!」
風と笑いが渦巻く。蓮の運勢は、少しだけ傾き始めた。
同じ頃、東北ルートを進む千堂葵は、吹雪の中で停車したローカル線に取り残されていた。
乗客の一人、少年が震えているのを見て、彼女は自分のコートをかける。
「大丈夫、次の駅まで一緒に行こう」
その行為が彼女に“マイナスポイント”をもたらしたことを、彼女はまだ知らない。
そして車内のモニターには、実況の御堂エマが映し出された。
『各地で脱落者が続出しています! しかし、夜明けと共に新ステージ“分岐の選択”が始まります!』
スクリーンに映る地図には、日本列島を縦横に走る光の線が描かれていた。
誰もが自分のルートを進みながらも、どこかで誰かと再び交差する――
そんな予感だけを残して、長い夜が明けていく。




