【第1章第52話 富山トランジット・記録の繋ぎ手】
能登半島を抜け、列車は富山へ入った。
窓の外には立山連峰。春の残雪が白く輝き、空気が澄んでいる。
「……やっと、普通の風景だな。」
蓮が安堵の息をつく。
翔が端末を開く。
【境界フェイズ完了/データ再構成中】
「能登の記録が安定した。けど……一部のルートがまだ不明。」
結衣が即座に反応する。
「北東ルートと南海ルート、データが断絶してる。
誰かが別のフェイズで行動してる可能性がある。」
その時、通信アイコンが点滅した。
【通信受信:未登録チャンネル】
玲奈が驚く。
「誰? 他ルートから?」
音声が割り込む。
『こちら東北ルート、日比野結衣……って、あれ?』
翔たちは顔を見合わせた。
「結衣……? 今ここにもいるぞ?」
富山駅の電光掲示板が瞬間的にフラッシュする。
映像が二重に重なり、もう一人の結衣が表示された。
「私、向こう側のデータコピー……?」
「いや、これは並行記録通信だ。」御影が解析を進める。
「同一人物の記録が分岐して、別ルートを同時進行している。」
玲奈が真剣な表情で言う。
「つまり、今この瞬間、全国のどこかで“もう一つの私たち”が旅してる。」
「それを繋ぐのが、この富山トランジット・フェイズだ。」翔が頷く。
駅構内に新しい指令が表示された。
『記録接続ミッション:ルート間の記憶を統合せよ』
レオンの声が響く。
「この富山駅は、全国再巡行の“通信ハブ”!
別ルートの記録を繋げ、情報を共有すればボーナス発生だ!」
慎之介が端末を構える。
「これ、単なる通信じゃないな。感情の同期テストだ。」
「感情?」蓮が首を傾げる。
「そう。“誰を思い出すか”で、データが繋がる。」
玲奈が目を閉じた。
思い出すのは――京都の夜、桜の下で笑っていた仲間の顔。
その瞬間、端末が光り、他ルートの通信が次々と接続されていく。
『こちら広島ルート、岩永蓮! 映ってるか?』
『九州ルート、千堂葵! 全員無事!』
『北海道ルート、唐沢陽介! ルーレット再開準備中!』
画面が交錯し、再会の声が重なる。
御影が微笑む。
「全国の記録が、またひとつに戻っていく。」
レオンの実況が続く。
「通信ハブ・富山トランジット、成功!
これで全国各地の旅が再びリンクしました!」
翔が静かに呟いた。
「まだ終わらない。むしろここからが、本当の“全国戦”だ。」
玲奈が笑った。
「なら、次の景色へ――行こう。」
汽笛が鳴り、列車は東へ向かって走り出す。
“全国再リンクフェイズ完了”の文字が空に浮かんだ。
(第1章第52話 了)




