【第1章第51話 境界フェイズ・ゴーストβ】
七尾の街は霧の海に沈んでいた。
電線が途切れ、建物の輪郭が歪む。
まるでこの場所そのものが、記録の断層に飲み込まれていくようだった。
「……ここは、現実じゃない。」
翔が小声でつぶやく。
結衣が頷く。
「境界の内部領域よ。能登半島の地形データが“上書き”されてる。」
霧の中、赤い光がまたたく。
再び、男――UNKNOWN-βが現れた。
「この場所は、お前たちが置き去りにした記録の墓場だ。」
その声は、過去に消えた複数の旅人たちの声が混ざったように聞こえた。
蓮が一歩前へ。
「つまり、アンタは“みんなの残響”ってことか?」
「違う。俺は、続きたかった声そのものだ。」
慎之介が警戒を高め、御影が短く言う。
「接触フェイズ、始まるぞ。」
地面が波打ち、霧の中にカードのような光が浮かぶ。
【ルール提示:記録再編バトル】
“旅の記録”を一枚選び、再構成できる過去を示せ。
過去を偽れば、現在が崩壊する。
翔は端末を操作しながら呟く。
「俺の最初の記録……東京駅、あの出発の日だ。」
画面に出た映像は、出会いの瞬間。
玲奈が初めてマップを開き、蓮が笑い、慎之介が声をかけた。
UNKNOWN-βが嗤う。
「記録は美しいが、それは幻だ。
君たちは何度も同じ出発を繰り返している。」
玲奈が強い声で言い返す。
「幻でも、心は嘘をつかない。私たちが歩いた道は本物。」
「……本物?」βがわずかに揺らぐ。
その瞬間、空の裂け目から光が降り注いだ。
レオンの実況が響く。
「おおっと、ゴーストβの構造が崩壊! 感情共鳴値、規定を突破!」
結衣が数値を読み上げる。
「共鳴率120%突破――過去と現在の境界が反転します!」
霧が一気に消え、静かな海岸線が現れる。
βは笑みを浮かべた。
「……これでいい。記録が続く限り、俺たちも“存在できる”。」
男の輪郭が光の粒になり、風に溶けた。
翔が目を閉じる。
「もう消えた?」
御影が首を横に振る。
「いや、内部データは残ってる。
彼はどこかのルートで、また姿を変えて出てくる。」
玲奈が微笑む。
「じゃあ、また会えるね。」
慎之介が空を見上げる。
「この旅は、出会いと再会でできている。」
レオンの声が締めくくる。
「境界フェイズ完了! 能登ルート、突破おめでとう!
これにて北陸再巡行編、後半ブロックへ突入!」
霧が晴れ、遠くに富山の山並みが見えた。
列車の汽笛が鳴り、旅が再び動き出す。
(第1章第51話 了)




