【第1章第50話 能登半島・記録の境界線】
列車が金沢を離れ、北へと進む。
車窓には穏やかな日本海、遠くに白波が光っている。
「ここが……“記録の境界線”か。」
翔が端末を見つめながらつぶやく。
御影慎が静かに答える。
「能登半島は、全国マップの境界に設定されている。
現実の地理上は存在するが、データ上では“繋ぎの端”。
つまり、ここを越えると……旅の構造が変わる。」
結衣が端末をタップする。
【境界観測ミッション開始/記録同期率:50%】
「まだ誰かが、この先で別のルートを動かしてる。」
玲奈が窓の外を見た。
「空が、揺れてる。」
雲が左右に裂け、海の向こうに淡い光のカーテンが現れた。
唐沢陽介が驚きの声を上げる。
「なんだあれ、オーロラ? この季節に?」
蓮が笑う。
「ゲーム的演出だろ。でも、綺麗だな。」
だが次の瞬間、端末が警告音を鳴らした。
【異常検出:ゴーストデータ再接触/識別不能】
慎之介が身を乗り出す。
「ゴースト……つまり、消えたはずの旅人がもう一度現れるのか。」
翔が即座に指示を出す。
「列車を降りよう。七尾で調査を行う。」
七尾駅のホームに降り立った瞬間、霧が街を覆った。
駅前の電光掲示板には奇妙な表示。
『再召喚エリア:過去脱落者データ復元』
玲奈が息を呑む。
「まさか、夏海たちが……?」
結衣が首を振る。
「違う。識別コードが別。これは“未確認の旅人”たち。」
霧の中から、ひとりの男が歩いてきた。
「よう。久しぶりだな。」
翔が息をのむ。
「……君は、誰だ?」
「名前なんて、もう忘れたよ。でも――」
男の瞳は赤く光り、声が複数重なって響く。
「この旅を、終わらせるために来た。」
橘レオンの声が混信する。
「注意! ゴースト・フェイズ突入! 対象コード:UNKNOWN-β!」
御影が拳を握る。
「来たか。境界線を越える“試練”だ。」
玲奈が一歩前に出る。
「忘れられた旅人たちの声……全部、受け止める。」
翔がその背中を見つめ、静かに言った。
「俺たちはまだ、旅の途中だ。境界を超えても――記録は続く。」
霧の向こうで、海の光がひとつ瞬いた。
“ゴースト・フェイズ:境界開始”の文字が空を裂いた。
(第1章第50話 了)




