【第1章第49話 記録の街角・失われた声】
金沢の朝靄が晴れた時、街の景色は微かに違っていた。
道路標識が別の文字列に変わり、カフェの看板の色が違う。
「……現実が、昨日とズレてる。」
翔が端末を開き、マップを確認する。
金沢駅前の地図は“第二区画:改変済”の警告を点滅させていた。
「レゾナンス値、異常上昇中!」結衣が叫ぶ。
御影慎が低く答える。
「記憶の干渉が強すぎる。誰かがこの街で“別の記録”を再生している。」
玲奈は目を細めた。
「昨日見た工藤夏海……本当にあれ、過去データだったのかな?」
翔が短く息をのむ。
「確認しよう。もう一度、同じ場所へ行く。」
一行は近江町市場の路地へ向かう。
しかしそこには、昨日の屋台の代わりに古びた旅館が建っていた。
入口の暖簾に書かれた文字――“旅宿 なつみ”。
玲奈が小さく震える声で呟く。
「……思い出した。夏海って、私が最初にこの旅で出会った子。」
「じゃあ、あの姿は……」蓮がつぶやく。
「再生じゃなくて、救済だ。」慎之介が答える。
その時、路地の奥から女性の声がした。
「見つけてくれて、ありがとう。」
風の中から現れたのは、確かに工藤夏海の姿だった。
しかし彼女の輪郭は透け、データノイズのように揺れている。
翔が前に出た。
「君はまだ、この街に残っていたのか。」
夏海は微笑み、静かに首を振った。
「違うの。残ってたんじゃなくて……“誰かが忘れなかった”の。」
玲奈の瞳が潤む。
「私……忘れられなかった。」
夏海が手を伸ばす。
「それで十分。記憶の旅は、誰かの想いで続くの。」
次の瞬間、街全体が揺れた。
端末に“レゾナンス完了/記録安定率95%/消失処理:1件”と表示される。
夏海の姿は光となり、空へ溶けていった。
蓮が深く息をつく。
「消えたのか……」
御影が答える。
「彼女は“データ”としてではなく、“記憶”として残った。
それが、このステージの真のクリア条件だ。」
玲奈は空を見上げ、静かに呟く。
「じゃあ、次に行こう。忘れないうちに。」
翔が頷く。
「記録は進む。旅も、まだ続く。」
橘レオンの声が重なる。
「金沢レゾナンス・フェイズ完了! 残響率95%、感情値高水準!
次なる目的地は――能登半島、“記録の境界線”!」
列車の汽笛が鳴り、朝日が再び街を包み込む。
そして、ひとつの声が風に溶けていった。
『ありがとう、みんな。』
(第1章第49話 了)




