第1章 第5話『青森ラビリンス ― 消えた一人の謎 ―』
函館港を出た参加者たちは、次なる目的地・青森へと渡った。
だが、その空気には奇妙な緊張が漂っていた。
フェリー名簿から“ひとり”の名が消えた――その噂は、朝日より早く拡散していた。
神原翔は青函連絡バスの窓際に座り、スマホのニュースを見て眉をひそめた。
《参加者・高森一真、行方不明》
「昨日まで隣にいたのに……?」葵が小さくつぶやく。
翔は短く息をついた。「この規模のイベントで、一人消えるのは不自然だ」
一方その頃、岩永蓮は青森駅前の特設ステージにいた。
「ここが“人生アクション:青森ラビリンス”会場!?」
周囲には迷路のように配置された駅ビルとバスロータリー。
参加者はそれぞれに“ルートカード”を受け取り、ゴール地点を探し出すという。
桐谷美羽がカードを見て首をかしげた。「“光は人の影に隠れる”……? なにこれ、謎解き?」
隣で葉山玲奈が笑う。「ええやん。直感で行こう!」
だが玲奈の行く手を、ボロボロのスーツ姿のマスコット――**ワンダーボンビー**が遮った。
「ハッハー! 運を信じた者から、リセットボン♪」
ルーレットが回り、玲奈のスコアが半減。観客の悲鳴と笑いが交錯する。
一方、慎重派の御影慎は静かに観察していた。
「これは運の試練というより、“判断力”の選別だ」
背後から唐沢陽介が声をかけた。「確率で考えれば、出口は三箇所。中央通りが最有力。」
「……いや、罠だな」慎は迷わず裏路地へ入った。
路地裏には誰もいない。だが、壁に光るサインが一瞬だけ現れた。
《FOLLOW THE GHOST》――ゴーストを追え。
「ゴースト推理か……まさか、青森で来るとは」
その頃、結衣は別ルートで“消えた高森”の痕跡を探していた。
監視カメラの映像を解析し、彼が最後に写った地点を突き止める。
それは、イベントとは関係のない旧駅舎跡地。
そしてその背後に、映り込む“影”。
「……この影、まさかプレイヤーじゃない」
夜。全員がゴール地点に辿り着いたとき、司会の橘レオンが声を張った。
「青森ラビリンス、脱出成功者は……8,742名! しかし、残念ながら1名は未帰還です!」
歓声とざわめきの中で、10人の視線が交錯する。
それぞれの胸に、初めての“恐怖”が芽生えた。
この“人生のゲーム”――どうやら、**誰かが見ている。**




