【第1章第48話 金沢レゾナンス・記憶の街】
北陸本線の列車が金沢駅に滑り込む。
鼓門をくぐる朝の光が、雪解けの町をやさしく照らしていた。
しかし、街の空気にはどこか既視感が漂っている。
「ここ……前にも来た?」
葉山玲奈がつぶやく。
翔が頷く。
「確かにデータ上は初訪問扱いだが、内部記録に“既読フラグ”がある。」
端末の表示には“再巡行ルート:記憶重複エリア”の文字。
結衣が小声で言う。
「つまり、誰かがこの街を先に通ってる。
その“記録”が、街のデータに混ざってるの。」
岩永蓮が軽く笑う。
「要するに、俺たちの影がもう一度ここを歩いてるってわけだ。」
慎之介がうなずく。
「旅の残響――だが、時系列が壊れ始めている。」
その時、駅前広場に設置された大型ビジョンが突然点灯した。
『金沢ステージ・レゾナンスイベント発動』
橘レオンの声が響く。
「今回の課題は“記憶と現実の調和”。
過去に見た光景を再現し、街の共鳴値を安定させろ!」
御影慎が画面を見上げ、冷静に分析する。
「街全体が記憶の投影場になっている。
つまり、心に残る“風景”を思い出すほど進行度が上がる仕組みだ。」
玲奈は歩き出した。
兼六園の並木道、雪の残る石畳。
「確かに、見た気がする。けど、あのとき隣にいたのは……翔じゃなかった。」
翔が立ち止まる。
「誰と?」
玲奈は首を横に振った。
「わからない。名前が、霞んでる。」
蓮が叫ぶ。
「おい、見ろよ!」
街角に映し出されたホログラムの中に、かつて脱落したはずの参加者の姿があった。
“相沢玲央”“工藤夏海”“成瀬晴香”――いずれもモブ扱いの旅人たち。
しかし、彼らは笑顔でこの街を歩いている。
結衣が息をのむ。
「過去のデータが、再構成されてる……!」
御影が即座に反応する。
「つまり、金沢は“記録の再生都市”。過去と現在が同時に存在している。」
その時、空に微かなノイズが走った。
滝口空の声が重なる。
「気をつけろ。この街では“思い出した瞬間”に現実が変わる。
誰かの記憶が強すぎると、別の誰かが消える。」
玲奈が拳を握る。
「じゃあ……忘れないために、誰かが犠牲になるってこと?」
翔は深く息をついた。
「それでも進むしかない。旅の記録は、残すためにあるんだ。」
金沢の街が、ゆっくりと光に包まれていく。
風景と記憶が重なり合い、幻のようなもう一つの街が浮かび上がった。
“レゾナンス・フェイズ開始”の文字が空を横切る。
(第1章第48話 了)




