【第1章第45話 日本海フェリー・海霧の方舟】
金属の響きとともに、視界が白い海霧に包まれた。
目を開けると、全員が巨大フェリーの甲板に立っていた。
波の音も、風の音も遠い。
ただ、船体の中から時折、低い振動が伝わってくる。
「強制移動イベント……また派手にやるね。」
葉山玲奈が肩を抱え、海風に顔を向ける。
翔はすぐに端末を確認した。
“ルート更新:日本海フェリーライン/区間=新潟―敦賀―舞鶴(変動)”
御影慎が眉を寄せる。
「変動ルートか。行き先が固定されていない。」
岩永蓮が笑いながらも、甲板の手すりを叩く。
「まぁ、動いてるってことはまだゲーム続行ってわけだ。」
結衣は船の側面を覗き込み、海面に浮かぶ小さな光点を見つけた。
「……誰か、落ちてる?」
光点が近づき、やがて海面から一人の影が浮上する。
黒い外套をまとい、顔を覆った人物。
端末が自動解析する――
“参加者データ:不明/記録欠損/モブID再召喚中”
「再召喚? でも誰だ……?」唐沢陽介が息を呑む。
慎之介が静かに言った。
「“モブ”という名の旅人だ。時に俺たちより運がある。」
レオンの声が海霧の上から響く。
「各位、注意! 本イベントは“ゴースト推理フェイズ”。
フェリー内部に紛れた“ワンダーフォロワー”を特定せよ!」
甲板の明かりが一斉に赤く点滅する。
玲奈がすぐに動いた。
「聞いた? “推理フェイズ”よ。誰かが正体を隠してる。」
翔は冷静に応じる。
「つまり、プレイヤーの中に“ゴースト代理人”が潜んでいる。」
蓮が冗談めかして言う。
「オレじゃないぞ。泳げねぇしな。」
結衣が睨む。
「それは証明にならない。」
船内のスピーカーが再び鳴った。
『各自、30分以内に推理を提出せよ。
失敗した場合、該当者は“海上リセット”処理となる。』
御影が端末を閉じた。
「つまり、全員の行動履歴を照合しろってことだ。」
翔は頷き、言葉を絞り出す。
「この海霧の中では、誰も完全に同じ時間を過ごしてない。
“どこで何を見たか”を思い出すしかない。」
霧が濃くなる。
波打つ音の中、遠くで鐘が鳴った。
その音に重なるように、誰かが囁いた。
「――次に目を覚ます時、ここに全員がいるとは限らない。」
翔が振り向いたが、そこには誰もいなかった。
ただ、海霧の向こうでフェリーの航跡が、二重に揺れていた。
(第1章第45話 了)




