【第1章第43話 影の旅人・時間の重なり】
山形の空がひび割れた。
時計台の鐘が三度鳴ると同時に、街中に薄い霧が流れ込む。
人々の影が二重に揺れ、映し鏡のように重なり始めた。
「……見える?」
葉山玲奈の声が震えた。
視界の向こう、同じ服を着た“自分たち”がゆっくりと歩いてくる。
その表情には感情がない。記録の断片だけをなぞるように、静かに。
御影慎が端末を操作する。
「映像じゃない。時空データの重複。過去の私たちの行動記録が、実体化してる。」
岩永蓮が口笛を吹く。
「つまり、ゴーストどころか“自分がゴースト化”ってことか。」
唐沢陽介が笑いながらも目を離せない。
「こりゃ相手に勝ち筋あるのか?」
翔は拳を握った。
「勝ち負けじゃない。どっちが“本当の選択”をしたか、試されてる。」
そのとき、滝口空が現れた。
「影の旅人――それは、過去の“未確定ルート”。
放置すれば、どちらかが上書きされて消える。」
「つまり、選ばなかった時間の自分たちか。」結衣が低く言った。
空は頷いた。
「このステージは、“統合試験”。お互いを理解し、重なりを消すんだ。」
レオンの実況が響く。
「影の旅人イベント、フェイズ1開始!
条件:過去の選択を語り、記憶を共鳴させよ!」
街の中央広場、二組のチームが向かい合う。
同じ顔、同じ声。
翔は自分の“もう一人”に問いかけた。
「お前は、あの時どのルートを選んだ?」
影の翔がゆっくりと答える。
「東京に戻った。安全な方へ。」
「……俺は、前に進んだ。怖くても。」
光が一瞬走る。
街の時計台が共鳴音を立て、二つの記録が干渉を始めた。
玲奈が目を閉じ、声を重ねる。
「私たちの選択は違っても、想いは同じ。
“旅を終わらせたくない”って気持ちだけは。」
空が指を鳴らす。
霧が波打ち、影たちが微かに笑った。
やがて、その姿は光の粒となって空に溶けていく。
レオンの声が重なった。
「統合成功! 影の旅人、記録更新!」
広場のモニターに新たな文字列が浮かぶ。
『山形ステージ:クリア 次地点=新潟』
御影が小さく息をつく。
「やれやれ、ようやく“過去の自分”と決着か。」
蓮が笑う。
「お前の過去は説教くさいな。」
「お前のは軽すぎる。」
雪が静かに舞い、夜の帳が下りていく。
翔は空を見上げ、呟いた。
「次は、海だな。」
霧の向こう、越後の灯が淡く光った。
(第1章第43話 了)




