【第1章第37話 流氷ライン・網走ブリザードゲーム】
列車が網走駅に滑り込む頃、窓の外は白と青の境界だった。
オホーツク海を覆う流氷が、風で軋みながら押し寄せてくる。
唐沢陽介は息をのんだ。
「……現実でこんな景色見られるとか、やばい。」
千堂葵が帽子を押さえる。
「凍った海って、音があるのね。パキパキって、まるで息してるみたい。」
構内アナウンスが流れる。
『網走ステージ“ブリザードゲーム”開始。制限時間は90分。
脱出条件:ゴーストシグナルを解析し、“出口座標”を再構成せよ。』
御影慎が手袋越しに端末を操作する。
「これは単なる推理イベントじゃない。座標再構成……つまり“現実空間の書き換え”だ。」
日比野結衣が頷いた。
「滝口空のデータ、また反応してる。青森側から残響が届いてる。」
唐沢が眉を上げる。
「またあいつか。幽霊でもいいから、ヒントくれよな。」
雪の中に、薄い光の柱が立つ。
葵が指をさす。
「あれがゴーストシグナル?」
御影が即答した。
「たぶん。行くぞ、全員で。」
五人は雪をかき分け、流氷の岸辺へと進む。
風が強くなり、地面がきしんだ。
その瞬間、全員の端末が同時に光る。
『再構成開始:座標01 → “氷上の扉”』
唐沢が叫ぶ。
「出口、出た!」
だが、その座標は奇妙だった。
表示された場所――“青森港”。
結衣が息を呑む。
「これ、別ルートと繋がってる……」
御影は冷静に分析する。
「つまり、ゴーストシグナルの出口は“過去の場所”。時間軸が逆流してる。」
氷上に、ぼんやりと人の形が浮かぶ。
滝口空。
彼はゆっくりとこちらを見つめ、口を動かした。
「出口は……“記憶の中”にある。」
次の瞬間、氷が砕け、白い霧が辺りを包んだ。
唐沢が叫ぶ。
「全員、リンク解除だ!」
御影が手を伸ばすが、視界は真っ白に消えた。
気がつくと、彼らは再び駅構内に立っていた。
レオンの実況が響く。
「ブリザードゲーム、クリア扱い! ただし座標異常発生、再構成中!」
エマが告げる。
「出口は“青森港”。これは、北ルートが北陸・東北ルートと完全接続する予兆。」
御影は深呼吸した。
「これで、ようやく“交わる”かもしれない。」
雪の向こう、列車のヘッドライトが二本の光を描いた。
それは、南から延びてくる“別ルート”の合流線。
(第1章第37話 了)




