【第1章第30話 北の遺言状】
夜明け前の秋田港。
吹雪の中、青森行きの臨時フェリーが静かに出航する。
甲板に立つ十人のプレイヤーたちは、誰も言葉を発しなかった。
“記憶の分岐点”で見たものが、まだ心に刺さっている。
MC橘レオンの声が低く響く。
「秋田を越え、青森へ――“北の遺言状”編、開幕です。
ここでプレイヤーたちは、これまでの選択の“遺産”を受け取ります」
港を離れると同時に、船内のスクリーンに封筒の映像が現れた。
【遺言状・受信者:神原翔】
神原は驚きに眉を動かす。
「俺宛て……? 誰がこんなものを」
封筒が自動で開き、文字が浮かび上がる。
『あなたの理論は正しかった。しかし、正しさは人を救えない。
“翔”――次に裏切るのは、あなた自身です。』
沈黙。
千堂葵が神原の肩に手を置く。
「……これは、試されてるのよ。あなたの“信念”が」
神原は視線を落とし、ただ小さく頷いた。
一方、船の下層では唐沢陽介がデッキを覗き込んでいた。
「これ……見ろよ。波の下に何か光ってる」
彼が指差す先、海中に文字列が浮かび上がる。
【FOLLOW THE GHOST】
桐谷美羽が息を呑む。
「また“フォロワー”のサイン……」
日比野結衣がすぐに解析に入る。
「信号源は青森港。到着と同時に何かが起きる」
そのとき、船内アナウンスが流れる。
「ご乗船の皆様へ――次の停泊地“青森・ワンダーハーバー”にて、“遺言の開封儀”を行います」
御影慎が静かに言う。
「これは……誰かの遺した“物語”そのものだ。生きたまま、ゲームの一部にされた人の――」
フェリーの窓外に、雪の切れ間から灯りが見える。
青森湾のほとり、幻想的な光で照らされた港。
その中央には、巨大な透明カプセル――“記憶保管装置”が設置されていた。
MC御堂エマの声が重なる。
「青森ステージ、“北の遺言状”――
あなたが守るか、暴くかで、過去の真実が決まります」
レオンの実況が続く。
「次回、津軽海峡の夜を越えて、“函館トライアル”へ!
裏切りと信頼の最終局面、北海道が呼んでいる!」
(第1章第30話 了)




