第1章 第3話『運命の宿 ― 北の夜に潜む影 ―』
札幌に着いた夜、吹雪が街を包んでいた。
駅前の仮設チェックポイント「雪灯宿」に、挑戦者たちが次々と集まる。
到着順に得点が加算され、最下位数名は脱落――だが、ただ泊まるだけでは終わらない。
この宿では、「ゴースト推理」と呼ばれる夜のイベントが待っていた。
教師の佐久間悠真は、同室の旅人・有馬慎吾と会話を交わしていた。
「ここ、ただのクイズ大会じゃない気がしますね」
有馬は微笑んで頷く。「人の“選択”を試されている。旅というより、人生そのものですよ」
一方、葉山玲奈はロビーでスマホをいじりながら、神原翔と作戦を練っていた。
「ゴースト推理って、誰が仕掛け人か見抜くやつやね?」
「そのはずだ。だが、情報が少なすぎる。――見ろ、あの掲示板」
そこには、宿泊者全員の名前と到着時間、そして謎のマークが並んでいた。
“月印”が付いた者は、翌朝チェックアウトできない――という噂が流れる。
ダンサーの岩永蓮は、雪の外に飛び出して踊りながら叫んだ。
「運試しも推理も、結局リズムや! 自分のビート信じなきゃ負けや!」
その背後で、公務員の御影慎はため息をつく。「寒さで頭まで凍るなよ……」
夜更け、部屋の照明が一斉に落ち、放送が流れる。
『雪灯宿の夜が始まります。ゴーストは、この中に一人――』
参加者たちは息を呑む。
看護師の千堂葵は、部屋のドアを開けると、廊下に足跡を見つけた。
外は雪。なのに、その足跡は――宿の中に続いていた。
彼女はそっと囁く。「やっぱり、ただのゲームじゃないね」
翌朝、ひとりの参加者の名前が掲示板から消えていた。
雪灯宿は、再び静寂に包まれる。
それでも旅は続く。彼らの“人生のゲーム”は、まだ始まったばかりだった。




