【第1章第29話 記憶の分岐点】
雪に覆われた秋田駅。
“沈黙の運転手”のバスが到着した時、車内の空気は凍り付いていた。
御影慎と同じ顔をした“影の御影”は無言のまま降車し、ホームの奥へ消える。
MC橘レオンの実況が流れる。
「秋田ステージ、ミッション“記憶の分岐点”――この地でプレイヤーたちは、“過去に選ばなかった選択”と再会します!」
ホームには古びた駅掲示板。
そこに、十人の名前と二つの行先が表示されていた。
【Aルート:真実を開く】【Bルート:過去を守る】
葉山玲奈が呟く。
「……どっちを選んでも、誰かが傷つく。そんな選択ばっかり」
神原翔は冷静に返す。
「人生ゲームは、常に損益分岐の中にある。感情を除けば――」
「感情を除いたら人生じゃないよ」玲奈は遮った。
雪の中、唐沢陽介が笑う。
「どうせ確率だろ? AとBの成功率、半々ってやつ」
「確率なんかじゃない」と千堂葵。
「これは、信じたい“誰か”の分岐点よ」
全員がそれぞれのターミナルへ向かう。
Aルート側のホームでは、日比野結衣が旧式の通信端末を発見した。
「このデータベース……“金沢宿の影”の記録だ。削除された履歴が、まだ残ってる」
画面に表示された名前――霧生ナオ。
そのファイルにアクセスしようとした瞬間、ノイズが走る。
“アクセス権限:フォロワー限定”。
佐久間悠真が息を呑む。
「つまり、誰かが――まだ内部に“フォロワー”として残っている?」
結衣が顔を上げた。
「このデータ、誰かが今も上書きしてる……! まるで、見られてるみたいに!」
その時、雪を踏む足音。
影の御影が再び現れる。
「君たちが選ばなかった“信頼”が、今もこの地で凍っている」
言葉と同時に、周囲の電光掲示が崩れ落ち、ホームが暗転した。
光が戻ったとき、駅は分断されていた。
AルートとBルートが、異なる現実として存在している。
MC御堂エマの声が響く。
「プレイヤーたちよ、それぞれの“分岐”を選べ。どちらの記憶を信じるかで、君たちの未来が変わる!」
神原は静かに息を吐く。
「ようやく見えたな……ゲームの核心が」
雪は止み、空は淡く光り始める。
しかしその光は、二つの時間を照らしていた。
実況レオンの締めの声。
「秋田ステージ、記憶の試練を越えた先に何があるのか――次回、“北の遺言状”。真実は海峡を渡る!」
(第1章第29話 了)




