【第1章第25話 消えた加賀宿の影】
金沢の夜。宿泊を選んだ十人は、それぞれの部屋で一日の旅路を振り返っていた。
雪混じりの風が、窓を鳴らす。鼓門の明かりが遠くに揺れる頃――廊下の照明が、ふっと消えた。
MC橘レオンの声が、わずかにざらついた通信越しに流れる。
「緊急発表です。現在“亡霊ミッション:加賀宿の影”が発動しました! 宿泊者の中に、正体を隠した“ゴーストフォロワー”が紛れています!」
全員が息を呑む。
「誰かが、私たちのデータを操作してる……?」と日比野結衣。
「いや、演出の一環かもしれない」と神原翔は冷静に分析する。
「部屋の割り振りを考えれば、照明系統をいじれるのは――」
そのとき、ドアがきしんだ。
「……翔くん、推理は後で!」と千堂葵が制止し、非常灯を手に取った。
ロビーでは、岩永蓮と唐沢陽介がモニターを覗き込んでいた。
「おかしい、監視カメラの映像が逆再生になってる!」
「うわ、まるでゲームのバグだな。過去の時間がループしてるぞ!」
そこに現れたのは、黒いフードの影。姿を現したのは、かつて脱落したはずのモブプレイヤー“霧生ナオ”。
「旅は、終わってなんかいない。あの時、置き去りにされた『答え』を取り戻しに来た」
葉山玲奈が静かに言う。
「……ねぇ、ナオさん。あなた、“フォロワー”なの?」
彼女は微笑むだけで答えない。影のように姿を消すと、非常灯が一斉に明るくなった。
御堂エマの実況が重なる。
「このミッションの勝利条件は、“正体を暴かずに朝を迎える”こと。失敗すれば全員のポイントが半減!」
ゲームと現実の境界が、静かに溶けていく。
神原翔が呟く。
「これが……“人生アクション”の真の意味、か」
夜明け前、宿の中庭には雪が積もり始めていた。
そして、誰も知らぬまま――一人の旅人の“履歴データ”が削除された。
実況レオンの締めの声。
「金沢宿の夜、最初の影が動いた! 次回、“新潟フェリー・ラビリンス”――移動と記憶が試される航路です!」
(第1章第25話 了)




