第1章第23話 山口編 ― 橋の向こうの選択 ―
海風が潮の匂いを運んでくる。
フェリーが角島大橋へと近づくにつれ、エメラルドブルーの海がきらめきを増していった。
その絶景を前に、岩永蓮は両手を広げて叫んだ。
「見ろよ、この景色! もうゴールでもいい気がする!」
千堂葵が苦笑する。「まだ予選半分も行ってないでしょ」
山口ブロックのミッションは《二者択一の橋》。
角島大橋の中央に設けられたチェックポイントで、挑戦者たちは“運命の選択”を迫られる。
Aルート:知識クイズで勝ち抜く。
Bルート:即興チーム戦で他者を導く。
唐沢陽介がタブレットを覗き込みながらつぶやく。
「チーム戦、確率的には成功率37%。けどクイズルートは強敵揃い……」
蓮がニヤリと笑う。「悩むな。俺ら、流れで行こうぜ!」
「流れって……」葵が肩をすくめた瞬間、ワンダーボンビーが橋の欄干から顔を出した。
「選ばなきゃ、どっちも地獄ボン♪」
結局、三人はBルートを選択した。
だが、他の挑戦者たちも続々と集まり、橋の上は即席の“人生ステージ”と化す。
地元ラジオ局の特別生中継が入り、実況が響く。
「さぁ、角島大橋の上で繰り広げられる“導きの試練”! リーダー役は誰だ!?」
蓮は自然と一歩前に出た。
チームメンバーには、看護学生の**小松玲(20)**、釣りガイドの**坂田光司(34)**、主婦の**三谷美香(39)**らが加わる。
それぞれが互いの意見を出し合い、目的地までの課題を解いていく。
「チームで動くと、責任も楽しいんだな」
蓮の言葉に葵が頷く。「一人だと見えない景色があるってことよ」
最終問題。
“あなたは全員を救うために一人を犠牲にできますか?”
沈黙のあと、蓮は答えた。
「できねぇ。けど、全員で助かる方法を探すのがリーダーだ」
橋の上を風が抜けた。
その瞬間、スコアボードに金色の光が走る。
《角島ミッション:クリア》
歓声の中、葵がふと遠くを見た。
橋の向こう――下関の港には、別ルートを進んでいた神原翔の姿が見えた。
そしてもう一方、フェリー乗り場の影に立つシルエットが一つ。
見覚えのある形――葉山玲奈の帽子が風に揺れていた。
誰もまだ気づかない。
その出会いが、運命の糸を少しずつ手繰り寄せていることを。




