第1章第18話 京都クロスロード ― 縁と策略の五条坂 ―
夜明け前の京都駅。新幹線のホームに漂うコーヒーの香りが、旅人たちの眠気をやわらげていた。
全国予選の中盤、各地から勝ち抜いた数百名が次の指令を受け取る。目的地は「五条坂 ― 清水寺へ通じる道」。
人々のざわめきの中で、神原翔はポケットの中の切符を指先で転がした。
「京都……ここは情報戦の匂いがするな」
隣を歩く葉山玲奈がにやりと笑う。「人の流れ読める人が勝つんよ。静けさの中にチャンスはある」
午前九時、参加者たちはJR奈良線・京阪本線・市バスを使ってそれぞれのルートを選択。
渋滞と観光客で混雑する道を抜けながら、岩永蓮がリュックを背負って笑った。
「舞妓さんより先にゴールしちゃ悪い気がするな!」
するとその背後で、ボロスーツの“ワンダーボンビー”がにゅっと現れた。
「アッハーン! お前のチャンス、いったんお預けボン♪」
その瞬間、蓮の乗る市バスがまさかの車両故障。観光客の笑い声に紛れて、彼は徒歩で坂を登る羽目になった。
一方、別ルートを選んだ千堂葵と御影慎は、地元の喫茶店「六花珈琲」で休憩中。
壁に貼られた古地図を見ながら、慎がぼそりと言う。
「清水坂、昔は“縁切り坂”とも呼ばれたそうだ」
「へぇ……じゃあ、ここでの出会いは“縁結び”になるかもしれないわね」
穏やかな会話の裏で、カウンターに座る見知らぬ青年――参加者番号3127番・鶴見和哉がスマホを覗き込み、誰かと連絡を取っていた。
「ゴーストイベント、京都で発動だ。観察対象は“翔”と“玲奈”」
午後、五条坂の頂上では突発イベントが発表された。
《人生アクション:信頼の選択》
ルールはシンプル――見知らぬ相手とチームを組み、清水寺までの道中で互いの“信頼コード”を交換する。
だが、裏には“ゴースト”が混じっている。正体を見破れなければポイントは消滅。
夕暮れ、朱色の光が清水の舞台を包む。
誰かの笑い声、誰かのため息、そして誰かの裏切りが静かに交錯していた。
京都の風が、次の物語の幕をやわらかく揺らした――。




