第1章第11話 金沢編 ― 記憶の鼓門 ―
北陸新幹線が金沢駅に滑り込むと、ガラスの鼓門が朝の光を反射して輝いていた。
富良野から夜通し移動してきた参加者たちは、疲れと興奮を抱えながらホームに降り立つ。
「おぉ……これが“鼓門”か!」岩永蓮がカメラを構え、観光客のように叫ぶ。
金沢ラウンドのテーマは“記憶”。
駅前広場には特設ステージが設けられ、MCの橘レオンがマイクを掲げた。
「ここ金沢では、“時の記録ゲーム”を開催します! 昨日までの旅であなたが見た光景を、どこまで覚えていますか?」
どよめきが広がる。単なるクイズではなく、記憶そのものを競う戦いだ。
神原翔は腕を組み、冷静に辺りを観察していた。「人間の記憶なんて曖昧だ。どこまで検証されるかが勝負だな」
「うち、昨日の夜のボンビーしか覚えてへんわ!」葉山玲奈が笑いを誘う。
慎はノートを取り出し、「富良野で見た影……あれが何かの伏線かもしれない」と独り言のように呟く。
近くの観客席では、モブ参加者の一人・成瀬舞が仲間に囁いた。「あの人、公務員って噂あるけど、鋭い目してるね」
金沢城公園を舞台に、記憶を頼りに配置された“謎の写真カード”を探すゲームが始まる。
それぞれのカードには、これまでの旅で通過した場所の一部が写っており、正確に順番を並べ替える必要がある。
千堂葵は慎重に一枚を手に取った。「これ……札幌の時計台? でも角度が違う」
「まさか編集でフェイク入れてる?」結衣がスマホを覗き込み、データ照合を試みる。
「答えは“記憶の中”にあります」副MC・御堂エマの声が響き、デジタル端末が一斉にロックされた。
情報検索禁止。記憶のみが頼り。
一方その頃、別ルートで北陸鉄道に乗っていた数名の挑戦者もいた。
「ここに来なかったら、ポイント落としてたな」大学生の唐沢陽介が笑う。
「でも、記憶戦なら運より冷静さよ」Webデザイナーの日比野結衣が答える。
彼女の目は真剣だった。画面を持たない今、頼れるのは自分の観察力だけ。
夕暮れ、金沢城の白壁が茜に染まる頃。結果発表。
「第一位――桐谷美羽さん!」
ステージの歓声が一気に沸き上がる。女優の卵・美羽は驚いた顔で口を押さえた。
「演技のために人の動きや景色を細かく見てる癖、役に立ったかも!」
「人生、どこで経験が繋がるかわからないもんね」と葵が微笑む。
その夜、ホテル日航金沢のラウンジ。
参加者たちは静かにコーヒーを飲んでいた。
「この旅、普通のゲームじゃない。何かに導かれてる」翔が呟く。
外ではライトアップされた鼓門が、まるで旅人の記憶を守るように光っていた。




