第1章第1話『運命の出発 ― 東京駅9999人のスタートライン ―』
春霞の朝。東京駅丸の内口は、異様な熱気に包まれていた。
ざっと見渡すだけで数千人。いや、正確には――**9,999人の参加者**。
それぞれが色とりどりのリュックと希望を背負い、巨大スクリーンに映るタイトルを見上げる。
《TRANSIT QUEST GRAND VOYAGE ― 人生のゲームとワンダー・フォロワー ―》
橘レオンMCがマイクを握り、笑顔で叫んだ。
「全国から集まった挑戦者の皆さん! ここ東京駅をスタート地点に、あなたたちの“人生”が動き出します!」
隣で副MC・御堂エマが続ける。
「ルールは簡単。公共交通機関だけを使って、日本列島を横断! 各地で待つ“人生アクション”と“ゴースト推理”を突破して、アジアへの切符を手に入れてください!」
列の最前列に、神原翔が立っていた。
「理屈で勝てるなら簡単だが……この人数、完全に確率地獄だな」
隣のバリスタ・葉山玲奈が笑う。「理屈よりも“運”と“人”やで。冷静に構えすぎると足取られるで?」
背後では岩永蓮がリュックを背負い、ノリノリで踊りながら叫んだ。「開幕ダッシュ、フィーリングで決めるしかねぇ!」
ルーレットステージが中央に設置され、最初の命運が決まる。
「第一目的地――札幌!」とスクリーンに映し出される。
全国を北へ、東へ、西へと散る数千人の挑戦者たち。東京駅から新幹線、バス、フェリーを駆使して、己の“人生の旅”を始めた。
その人波の中に、奇妙なマスコットがふらりと現れる。
ボロボロのスーツを着た“ワンダーボンビー”。
「ハッハー! 運も愛も、全部まとめてリセットしてあげるボン♪」
ざわめきと笑い、そして少しの恐怖が会場を包んだ。
日比野結衣はスマホを構えながらつぶやく。
「データ外の存在……これは単なるゲームじゃない」
そして看護師・千堂葵が彼女の肩に手を置く。「人生って、だいたい予想外から始まるのよ」
汽笛が鳴る。9,999人の足が一斉に動き出す。
それぞれの“人生”が、今まさに日本列島を駆け巡ろうとしていた――。




