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謀反でございます

掲載日:2025/10/19

【過去の栄光】


ウオオオオ!!!


ウァァァァ!!!


バルバロフ帝国は戦争と言う手段で国土の拡大や人材(奴隷)の確保により、国内の安寧を図っていた。

その手口は些か強引過ぎるところがあり、他国から非難囂々であったが、バルバロフ帝国は弱者の戯れ言と言わんばかりに侵攻を止めることはしなかった。

そして、その魔の手はオーランド国にも忍び寄ってきていた。


オーランド国とバルバロフ帝国との間にはもう一つ別の国が存在していたが、バルバロフ帝国の侵攻により滅び、今ではバルバロフ帝国とは大河を挟み隣国となっていた。


オーランド国のユーグラント領はバルバロフ帝国と繋ぐ唯一の大橋がある。

今、その対岸を納めるバルバロフ帝国のサーミュラー将軍に難癖を付けられ戦の真っ最中であった。


軍事力で圧倒的に劣っているオーランド軍は劣性に経たされていた。

しかし、オーランド国では誰も諦める者はいなかった。

オーランド国には賢王と三公爵がいるからであった。


賢王。

オーランド国を二十代の若さで治める事になったが、見事な国政によりオーランド国内に平和をもたらした。

そして、それを支えたのが三人の公爵であった。


「まだ落とせないか?こんな小国に戸惑っては帝王様にお叱りを受けてしまう。早く落とせ!」


「ですが、オーランド軍の劣勢は確かなのですが一向に引こうとしません。普通の国なら白旗を上げているはずです」


「言い訳はいい!早く打ち落とせ!何ならオーランドの民も含め皆殺しにしてしまえ!」


そうだ。皆殺しにしてしまえば逆らうことなど出来んはずだ。何が賢王だ!悪足掻きしたことで民を苦しめる愚王として塗り替えてやる。

バルバロフ帝国の将軍サーミュラーは帝国の勝利を確信していた。後は如何に早く落とすかで焦っていた。だが、油断をしていた訳ではない。


「至急、報告致します。西と東からオーランドの軍が突如現れ今にも城に、ぐわっ!」


伝令に来た兵士が最後まで伝令をいい終わる前に斬り倒された。そこにはオーランドの鎧を纏いし騎士が立っていた。

オーランド国公爵の一人アスタリオスであった。


「将軍サーミュラー覚悟!」


帝国の将軍サーミュラーは慌てて逃げようとしたが間に合わずアスタリオスの一撃をくらい絶命した。


「サーミュラー将軍を討ち取ったり!全軍直ちに引け!」


挟み打で攻めていたオーランド軍は目的であったサーミュラー将軍を討ち取った事で全軍が国に引き返す。

サーミュラー将軍の援護に来ていたハーベント将軍はサーミュラー将軍の訃報の報告を受ける。


「オーランド軍を逃がすな!今、逃がしてしまえば我が軍の恥としれ!」


バルバロフ帝国の兵は突如後ろから現れたオーランド軍に不意を突かる形となった。意表を突かれたバルバロフ帝国の兵士達はオーランド軍の突進を止めることは出来ず国境の橋に近付きつつあった。

そこへ援軍に来ていたハーベント将軍が逃がすまいと攻め混んで来た。


「どけどけどけい!我はオーランド国公爵の一人、怪力のモンドリューとは我の事なり!憚るものは皆薙ぎ倒してやるわ!」


オーランド軍の先頭を走るモンドリューが槍を一振すればバルバロフの兵士達が軽々とはね飛ばされ、誰もモンドリューの突進を止める事は出来なかった。

だが、ハーベント将軍の軍が後ろから徐々に近付いて来ている。

オーランド軍の最後の兵が橋を渡りきると突如橋が爆発つし崩れ落ちた。橋に爆撃を仕掛けていたのは最後の公爵ダルタニアスであった。


バルバロフ帝国とオーランド国を唯一繋がっていた大橋が崩れ落ちた事によりバルバロフ帝国がオーランド国に攻めいる事が出来ない。

オーランド国に残された兵士達は自軍の勝機は失せたことをしり白旗を上げていた。


この戦は戦の首謀者であるサーミュラー将軍を討ち取られたバルバロフ帝国の敗戦となった。

戦が終わり三公爵が自軍と共に城に戻ろうとしていた時、モンドリュー公爵がフラついているのをアスタリオス公爵が気付いた。


次の瞬間、モンドリュー公爵が騎馬から崩れ落ちた。

アスタリオス公爵はモンドリュー公爵に駆け寄るとモンドリュー公爵の足に1本の矢が刺さっていることに気付く。

だが、強靭なモンドリュー公爵が矢1本ごときでこのような状態になるのはおかしい。

もしかして毒か?


アスタリオス公爵はモンドリュー公爵の傷口から毒を吸い出すと自信の騎馬にモンドリュー公爵を乗せ城への帰路を急いだ。


「モンドリュー!死ぬな!城はもうすぐだ!」


オーランド国王城には賢王キュベレイが公爵達の帰りを待っていた。今回の采配は全てキュベレイ国王によるものであった。

賢王と言われる歴史的な勝利となったが、アスタリオス公爵が帰るや否やモンドリュー公爵の状態を見て直ぐに状況を把握して医師に解毒の治療を指示した。


「モンドリューよ!死ぬではない!此度の勝利の美酒を共に味わおうではないか!」


これは20年前の話であった。

この戦はオーランド国内に語り継がれていた。

そして、オーランド国にはこの当時の面影は今はなく過去の栄光となってしまった。



【綻びぶ絆】


あの戦により常勝続きであったバルバロフ帝国の勢いは衰え、国王が代替えしたこともあり戦による国土の拡大は行われなくなった。

世界は表向きでは平和が訪れていた。


「これはアスタリオス公爵様、本日は王城にどのようなご用でしょうか?」


「本日は我が領の定期報告に来た」


「それはご苦労様でございます。今すぐ門を開けますのでお待ち下さい」


アスタリオス公爵は領地の報告へと王城に訪れていた。この領地の報告は定期的に行っており、公爵は定期的に王城に訪れては門番といつも同じやり取りをしていた。


「アスタリオス殿、報告が終わったらお手合せ願いないだろうか?」


この男は騎士団員フォースト。今ではオーランド国一の剣の達人と言われている。


「こんな老い耄れで良ければお相手致します。訓練場で待っていて下さい」


フォーストはアスタリオス公爵の返事を聞いて感謝の言葉告げ訓練場に向かっていた。

アスタリオス公爵も報告を済ませようと王の広間まで向かう。

王に会う。

この行為は今のアスタリオスは憂鬱であった。

今のキュベレイ国王はあの頃の面影もない。

賢王と呼ばれていた国王はいなくなってしまった。


「キュベレイ国王様、アスタリオスでございます。領地の報告に参りました」


王の間に入るとむせ返るような甘い匂いが充満している。王の両脇にはほぼ裸の女性が両脇に控えており、キュベレイ国王は両腕で二人の女性を抱き抱えていた。


脳の病気らしい。脳に何か悪いものが出来ると人格が変わってしまうと言うのは聞いたことがあるが、ここまで変わるものだろうか。

キュベレイ国王がおかしくなったのは1年前からであった。


「なんだ、詰まらん奴がきたな。何のようだ?」


「領地の報告に参りまして」


「そのような報告は他の者にしろ!私の楽しみを奪うではないわ!」


キュベレイ国王は酒杯を投げつけるとアスタリオス公爵の額に当たる。アスタリオス公爵の額から血が滴り落ちてた。

アスタリオス公爵の額から血が滴る姿を見てキュベレイ国王の両脇にいた女性達の笑顔がひきつっていた。


「申し訳ございませんでした。宰相に報告をして参ります」


アスタリオス公爵は王の間を出ると宰相が控える部屋へと向かった。本来、宰相は王の隣で政の補佐をするものなのだがキュベレイ国王は男が部屋に入るのを嫌うため別の部屋で政務を行っていた。


「久しぶりでございますアスタリオス公爵様。そのご様子は本日も国王様の機嫌が悪かったのですね」


「私もそなたのように諦めれば良いのだが、城に来たからには国王様のお顔を拝まずには入られなくてな」


私は軽い挨拶程度の会話を宰相と行うと領地の報告を行った。報告が終わり部屋を後にしようとしたとき宰相から信じがたい話を告げられた。


「アスタリオス公爵様、この老い耄れでは手に終えそうもない報告が入りまして、少々頭を悩ませております」


「どうした?宰相に解決出来ない事などあったか?」


「実はここ最近、国内に麻薬が流出している事はアスタリオス公爵様もご存じかと思いますが、その大元がモンドリュー公爵様ではないかと報告が入りましてな」


モンドリューはあの毒矢から懸命な治療により一命を取り止めていた。

しかし、毒による影響で片足は壊死し始めていたため、切り捨てるしかなかった。

それ以来、怪力の公爵はただの酒に酔いつぶれた男となっていた。


そのモンドリューが麻薬を!?

まさか麻薬に手を出すはずがないと信じたい。

信じたいが、今の荒ぶれてしまった彼ならばあり得る話であった。


「その話の信憑性は?」


「なければ頭を悩ませたりしておりません」


「私の方からも調べてみよう」


「ありがとうございます」



【世代交代】


「お待ちしておりました、アスタリオス殿下」


アスタリオスはフォーストとの約束を果たすため訓練場に顔を出した。

アスタリオスとフォーストの試合が行われると、城内に噂が広がり見物人が訓練場に溢れかえった。


剣聖と言われる侯爵とオーランド国随一と言われるオーランドの試合。

歴史的瞬間が拝めると集まったものの興奮が鎮まらない。


「参ったな。出来れば静かに試合をしたかったのだけど」


アスタリオスは白々しく思う。

おそらく、この人集りの原因がフォーストである事は明確である。

そうでなければ、先程約束したばかりなのにここまで広がるはずがない。たいした自信である。


「皆は世代交代の瞬間を見たいのだろう」


「貴方は戦う前から諦められるのですか?」


「自身の力量を認める事は戦場では必須だからな」


「へぇー」


フォーストの顔は自信に満ち溢れていく。


試合開始の合図が行われた。

合図と共にフォーストが一気に畳み掛けてくる。

アスタリオスは防戦一方であった。

そして、10分程続いた攻防の末、アスタリオスの腕にフォーストの一撃が入る。

勝負はフォーストに軍配が上がった。


「ありがとうございますアスタリオス殿下」


「ああ。あの鋭い剣の猛攻は全盛期の頃でさえ敵わないだろう」


野次馬がフォーストの元へ駆け寄るとアスタリオスは訓練場から出ていく。

アスタリオスは城を出ると、モンドリュー公爵邸へと向かった。



【落ちぶれた友】


「おう!アスタリオスよ良くきたな!お前も一杯付き合え!上手い酒が手に入ったのだ!」


「ああ、付き合おう」


あの筋骨隆々であった面影は今やない。酒太りした腹がだらしなくさらけ出され、無精髭が余計に過去の面影を打ち消していた。

彼には妻子がいたが、あまりにもの荒れように離縁されている。


「しかし、お前が顔を出すとは珍しいな」


「ああ、城への定期報告に来るようがあってな」


「キュベレイ陛下は相変わらずか?」


「ああ」


「そうか」


荒れ果てたモンドリューでさえ、今のキュベレイ陛下には思うところがあるのだろう。酒の席には会わないしんみりとした話をしてしまった。

これから更に酒に会わない話をしなければならないのだが。


「そこで宰相殿が悩んでいるところに出くわしてな。どうやら国内に麻薬が流出しているらしい」


アスタリオスの口から『麻薬』と言う言葉が出るとモンドリューの酒を飲む手が止まる。

しかし、アスタリオスは構わずに話を続けた。


「私も宰相殿に頼まれてな麻薬の調査をすることとなったのだが、モンドリューは何か・・・」


「ワシが犯人だと言うか!」


興奮したモンドリューは盃を握り割ると、破片が刺さり血が滴る手でアスタリオスを指差すと、凄い剣幕で怒りを露にした。

その姿を見てアスタリオスは解った。

犯人はモンドリューで間違いないと


「いや、モンドリューの方で何か知っていればと思って寄ってみたのだ」


「知らん。用は済んだだろ。おい!客人のお帰りだ!」


「そうか。何か思い出したら教えてくれ」


「うるさいわ!早く消え失せろ!」


アスタリオスは思う。

昔に戻れないだろうかと。

しかし、それは叶わぬ願いであることだと理解していた。



【もう一人の公爵】


アスタリオスはもう一人の公爵であるダルタニアスの屋敷に向かった。

屋敷に入ると一人の青年が出迎えてくれた。


「アスタリオスよ!久しぶりだな」


この青年はヘルメス殿下。

キュベレイ陛下のご子息だ。

王妃は3年前に病に倒れ亡くなられてしまった。

そして、今の荒ぶれようから王子の身が危ないとダルタニアスが王子を保護していた。


「珍しいなお前が顔を出すとは」


ヘルメス殿下の後ろからダルタニアスが姿を現す。

アスタリオスも剣の稽古を欠かさず行ってきたが、ダルタニアスには敵わない。

鍛えられ引き締まった身体、漆黒の髪に整った顔はアスタリオスよりも10歳は若く感じられる。


「ちょっと宰相に頼まれ事をしてな」


「モンドリューの件か?」


流石は『闇の公爵』だ。

既に情報がダルタニアスにも入っていたようだ。


私達、公爵には各々の通り名がある。

モンドリューは『怪力の公爵』

アスタリオスは剣の実力から『剣聖の公爵』

そして、ダルタニアスは破壊工作や情報収集など裏工作を専門として動いていることから『闇の公爵』と呼ばれていた。


「ああ。間違いなくアイツが犯人だろう」


「そうか」


ダルタニアスも何とも言えない顔で庭を見つめる。

庭には千年樹が植えられている。

千年に1度しか開花しないと言われているが実際は20年に1度で、前回拝めたのが出陣前に三人でここに集まった時であった。


あの時に開花した千年樹と満月の夜はこの世のものとは思えない神秘的なものを感じさせ、あの時ほど酒が美味く感じた事はなかった。

思わず「亡骸はこの樹の下で眠りたいものだな」と呟き、戦前だぞと二人に怒られた事を思い出し、懐かしさに笑みを浮かべてしまう。


「もうそろそろ開花しそうなのだが、三人で今一度見ることは難しいそうだな」


「ああ」


暫く二人で千年樹を見つめ沈黙が続いていたが、ダルタニアスがため息をついたあと、アスタリオスの方を見る。


「お前がここに来たと言う事は証拠集めを俺に頼みに来たのだろう」


「ああ。どれくらいで出来そうだ?」 


「一月後にまた来てくれ」


「解った」


アスタリオスはダルタニアスの屋敷を後にする。

しかし、アスタリオスは直ぐに動かなかった事を後悔する事となる。

オーランド国の腐敗がここまで大きくなるとは思っていなかったのだ。



【腐敗した国】


一月後、アスタリオスはダルタニアスの屋敷に訪れる前に王城に訪れていた。

アスタリオスの耳に信じられない噂が飛び込んで来たからだ。


「メデューヌ婦人の件は真か?」


アスタリオスは宰相に詰め寄る。

宰相の返答は信じがたいものであった。


メデューヌ婦人はユーグラント領領主の奥方で中睦まじい事で有名であった。

そのメデューヌ婦人をキュベレイ陛下が拐い手篭めにしてしまった。助けられた時にはメデューヌ婦人は麻薬により薬漬けにされてしまっていた。

そして、正気を取り戻した時に首を括って自殺をされたと言う。


ユーグラント領はバルバロフ帝国との間に新しく橋が架けられている。大人しくなったバルバロフ帝国だが、ユーグラント領が寝返ってしまうと話は違って来る。

腐敗した国に滅びの足音が聞こえ始めていた。


「ユーグラント侯爵のところに顔を出さねば・・・」


アスタリオスは城を後にする。

ユーグラント侯爵の元に向かう前に腐敗の要因の一つである麻薬の証拠を得るためにダルタニアスの屋敷に向かった。


「不味いことになったな」


メデューヌ婦人の事は既にダルタニアスのところにも届いているらしく、ユーグラント侯爵以外の貴族からも反旗の声が上がっていると言う。

屋敷の奥にはヘルメス殿下が何とも言えぬ顔で俯いて座っており、手は膝の上で握りしめられていた。


「ユーグラント侯爵のところに行くのか?」


「ああ。だが先ずはモンドリューのところに行かねばならない」


「今、貴族界は二手に別れている。このまま衝突すると国力は衰え、ユーグラント侯爵の無念に便乗したバルバロフ帝国の攻めに耐える事は出来ず、この国は滅びる事になるだろう。そうなれば、ヘルメス殿下の命が危なくなる。私は成り行き次第ではヘルメス殿下と共に国を出ようかと思っている」


「国を見捨てるのか?」


「殿下を守るためだ」


ダルタニアスが国を見捨てる発言をしたことにショックが隠せず、思わずダルタニアスを責めてしまったアスタリオスであるが、ダルタニアスの意見も理解していた。

理解していたが納得出来ない。

もう、この国は滅びるしかないのだろうか。


「これは約束していたものだ」


ダルタニアスがアスタリオスに手渡してきたのはモンドリューの腐敗の証拠であった。

これでモンドリューは言い逃れすることは出来ない。

アスタリオスはモンドリューの屋敷の元に向かう。



【滅びの元凶】


「また来たのか?」


モンドリューは長年の友の来客を鬱陶しく感じ、股間を掻きながら横柄な態度でたっていた。


「いいか?」


「好きにしろ!」


モンドリューは顎でアスタリオスを屋敷内に招き入れる。応接間へと向かうモンドリューは松葉杖を着いていた。


「足の具合はどうだ?」


「どうもこうしたもないわ。今も痛くて痛くてしょうがないわい。こうして毎日酒で痛みを誤魔化しているわ。国王様があんな無謀な作戦を立てるものだから、わしが貧乏くじを引かされてしまったわい。まー国王もバチがあたったようじゃがの」


20年前は誰よりもあの作戦に乗り気だったはずだが、年月が経つに連れあの戦を恨むようになっていた。

また、国王を侮辱するものは真っ先に立ち向かい私達が止めに入っていたのだが、今はその本人が侮辱している。


「今日は前に話した麻薬の件について色々と証拠を掴むことが出来てな」


「ふん。どうせダルタニアスの力を借りたのだろう。お前ら二人はそんなにしてまで俺を仲間外れにしたいか!」


「モンドリューよ話をすり替えるな。そして、もう終わりだ。

先日、密輸組織をダルタニアスが壊滅した。そこに残された書類にお前とのやり取りが載っていた。証拠は揃っている」


モンドリュー公爵は証拠を突き付けられると強気だった態度が一変し一瞬で年老いた老人のように覇気が消え失せていた。だが、モンドリュー公爵は覇気を失せても悪足掻きをした。


「そうか、証拠があるのか。

だかな、ワシは後悔していないぞ。これはワシの復讐だわい。ワシの足をこんな状態にしたこの国へ復讐してやっている。なぜワシの足がないのだ!誰が貴様に助けてくれと願い出たか!ワシはあの時に死んでも構わなかった!ワシはあの作戦で死も覚悟していたのだわい。それをお前達が勝手に助けてワシをこんな憐れな姿にさせおった。ワシは恨んでいる。この国にも国王も貴様もだ!」


「モンドリュー・・・」


「ワシは最後まで罪を認めんぞ。認めてなるものか!

この国はもはや滅びかけている。この国が滅びればワシは無罪じゃわい。こうなれば国が滅びるのが先か、ワシが滅びるのが先か勝負じゃわい!」


モンドリューの言う通りキュベレイ国王より国は滅びかけている。民はモンドリュー公爵が流したと麻薬で荒れ狂い、ユーグラント侯爵の件次第ではこの国の未来はない。


「まーユーグラント侯爵の件もあるしワシよりこの国が滅びるのが早いだろう」


「お前も、ユーグラント侯爵の件を知っているのか?」


「知っているのか。知っているのかか。

フハハハ。誰が国王にユーグラント侯爵のご婦人が美しいと告げたと思う?誰が御膳だてしたと思う?誰が薬を打ったも思う?」


「ま、まさか・・・」


「お前も悠長にワシと所にいて良いのか?早くしないと既にこの国が滅んでいるかもしれぞ」


まさかモンドリューがここまで腐っていたとは?

この国は本当に終わってしまうのか・・・



【亡き妻への復讐を望む男】


「何しにきたアスタリオス公爵?」


「宰相よりご婦人の訃報を聞き駆け付けた。迷惑と思うが餞をさせてはくれないだろうか?」


私の言葉を聞き中に案内された屋敷内は薄暗く、全く生活感が感じられない。ご婦人の部屋に案内されるとご婦人が沢山の花に囲まれて静かにベッドに横たわっていた。


「アスタリオス公爵よ。私は許せぬ。許すことは出来ぬのだ。妻が辱しめを受けどんな気持ちでいたのか、どんな気持ちで自ら命を絶ったのか、忠義ならこの想いを捨てよと言うのなら私は忠義を捨てよう」


「ユーグラント侯爵待たれよ!」


「アスタリオス公爵よ。この想いが罪と言うなれば今すぐ、今すぐ私をお斬りになさるといい。ですが私は忘れることが出来ないのだ。妻と出会った時の事を、妻と過ごした思い出を、薬漬けにされた妻の顔を、吊り下がった妻の姿を!私は謀反を起こすと今貴殿に宣言致す、さー私を殺すなり好きにするが良い!」


ユーグラント侯爵への説得はもはや無理であった。

この国に残された道は一つしかない。

いや、アスタリオスに残された選択肢は一つしかなかった。


「ユーグラント侯爵、私に一月くれないだろうか?一月して貴殿の望む結果にならなければ私もそなたの謀反に手を貸そう。だから私に一月時間をくれないか?」


「・・・良かろう。一月で我が怒りが治まると思われる貴殿の望みを打ち砕いてくれよう」


アスタリオスは覚悟を決めなくてはならない。

そして、再度ダルタニアス侯爵の元へ向かった。



【忠義ある覚悟】


「どうしたアスタリオス突然に訪れて」


ダルタニアスの屋敷に入ると荷物の整理がされている。国外へ逃げる話は本気らしい。


「突然すまないな。今日はお前と酒を交わしたくてな」


突然の酒の誘いにダルタニアスも一瞬戸惑ったが、アスタリオスの顔を見て直ぐに理解した。


「そうか。その道を選ぶ事にしたか・・・」


ダルタニアスは何を察したか解らないが、アスタリオスを屋敷に招き入れた。


「アスタリオス、突然の訪問だから対したものはないぞ」


「構わない」


ダルタニアスと酒を交わす。

二人とも良い気分になってきた。


「それでアスタリオスよ、私に何のようだ?」


「ああ」


「もう少し酔いが必要か?」


「いや話そう。私は・・・」


私の話を聞きダルタニアスは一気に酔いが醒めた。

ダルタニアスは話を聞く前から大体の予測は着いていたが、本人から直接伝えられ予測が的中してしまった事がショックで酔いが醒めてしまったのだ。


「あれから20年・・・戦に出向く前に交わした酒杯。あれが三人で交わした最後の酒であったな」


「ああ、あの時は良かった。お前が橋を壊すのが早かったらと疑っていたがな」


「何を言う。お前がトロトロとゆっくり走っているから点火を調整するのにどれだけ大変だったか」


「あれはお前が・・・」


ああ、何て楽しいのだろうか。

友と交わす酒がこんなに楽しかったのは久しぶりだ。

さあ、覚悟を決めよう・・・


翌朝、ダルタニアスの屋敷を出ようとすると、ヘルメス殿下がアスタリオスを出迎えていた。


「アスタリオス殿、我が父が不甲斐なく申し訳ない」


おそらくヘルメス殿下はダルタニアスからアスタリオスの覚悟を聞いたのだろう。


「ヘルメス殿下、これも忠義でございます」


アスタリオスはヘルメス殿下に一礼をすると、ダルタニアスの屋敷を後にした。

ヘルメスはアスタリオスの姿が見えなくなるまで深々と頭を下げていた。



【冥土の盃】


アスタリオスは今モンドリュー公爵の屋敷に来ていた。


「どうしたアスタリオスこんな時間に?」


「昨日、ダルタニアスと酒を交わしてな、そしたらお前とも酒を交わしたくなってな」


「・・・」


「駄目か?」


「いや、そうか酒か・・・それも一興か・・・」


モンドリューはアスタリオスを屋敷の中に招き先ほどまで喰らっていた酒を私にも注いでくれた。


「いやダルタニアスと話会ったのだが昔、皆で女湯を覗いた時にモンドリューがトロくて皆で捕まった話で盛り上がってしまってな」


「おいおい、あれはお前達が興奮して俺を前に押し倒したんだろうが」


「フハハハ。それと三人で肝試しした事を覚えているか?あの時、お前震えて動けなくなっていたよな?」


「あの時は武者震いで固まっていただけだ!お前だって『人魂が出た!』って寺の坊主の提灯にビビり一人で逃げ出したではないか」


モンドリューと昔を思い出しながら酒を交わす。

酒を交わして何時間経ったろうか。もう宵をふけたが思い出が多く話が途切れる事はなかった。


「いや、だからお前がだな・・・」


「あー久しぶりにお前と酒を交わせて楽しかったぞ」


「何を言っているまだまだ夜は長いぞ」


「なーアスタリオス、ワシはもう終わりか?」


突然、モンドリュー公がシリアスな顔でアスタリオスに問いかけてきた。

アスタリオスも先ほどまでの酔いが嘘のようにシリアスな顔に戻る。


「ああ、終わりだ」


「そうか。お前、折角ならダルタニアスも誘ってこい!貴様のせいで三人で酒を交わす事が出来なくなったわい」


「ダルタニアスはダルタニアスで仕事があるからな。今日は来ることが出来ない」


「そうか。まー最後が貴様と酒を交わしながらも良いものだわい」


「あの時、叶えられなかったお前の望み今叶えよう」


「たく、遅いわい。20年も待たせおって!お前がチンタラしているから民も迷惑掛かる羽目になる」


「そうだなすまない」


「ワシと共にこの国の膿を早う流せ!」


「ああ、私も直ぐ行く」


アスタリオスは手に持っていた剣の一閃がモンドリューの喉元を捕えるとモンドリューは笑みを浮かべながら絶命した。


きゃーーーー!!!


酒を届けにきた使用人が部屋を開けると部屋はモンドリュー公爵の血飛沫で真っ赤に染まっており、血飛沫を浴びたアスタリオス公爵が使用人の前に立っていた。


「モンドリュー公爵は麻薬流通の罪により我アスタリオスが討ち取った。関与しているものは我の前に現れよ。関与してなくば我が行く道からどけい!」


アスタリオスはモンドリューの首を持ちながら屋敷の外に向かった。アスタリオスの言葉によりアスタリオスの前に現れれば同罪で裁かれると思い誰も出て来ることはなかった。

昔のモンドリューの配下ならこんな事はなかったのだが、20年の腐敗は配下の忠誠心も腐っていた。



【謀反でございます】


オーランド王城、今宵の門番は不幸としかいいようがなかった。

暗闇のなか、遠くの方から馬の足音が聞こえてきた。

門番は目を凝らしながら見るとアスタリオス公爵である事が解った。

だが、それと同時にモンドリュー公爵の血飛沫を浴びたアスタリオス公爵を異様な装いに門番は警戒しながらアスタリオス公爵に何用で訪れたのか訪ねた。

門番は警戒していた。

だが、最後の戦から20年が経っている。

門番はアスタリオス公爵の間合いを見誤っていた。

その結果、門番の胴体は真っ二つになり、もう一人の門番も助けを呼ぼうとしたが投げ飛ばされたアスタリオスの剣が門番の胸に刺さり助けを呼ぶ事が出来なかった。


アスタリオスが城内に入るも暗闇のため誰も気付かない。

暫く進むと見張りの騎士がいたが、それも気付かれることなく後ろから斬り倒した。

アスタリオスの歩みは止まらない。


門番が殺されて10分後に交代の時間となり現れた騎士により門番が殺されているのが発覚し侵入者がいる警戒音が鳴らされた。

この門番は10分の時間で命が助かったのである。

そして、この門番は前回アスタリオスと言葉を交わした門番であった。


「侵入者がいるぞ、皆国王を守るのだ!」


騎士達が侵入者を探すと血塗れになったアスタリオスが立っていた。侵入者がまさかアスタリオス公爵だとは誰も思っていなくアスタリオス公爵がいたことに驚く騎士達は動きが一瞬止まってしまった。

その一瞬がアスタリオスにとっては逃すことのない隙であり騎士達は次々と倒されていく。


「アスタリオス公爵様の謀反だ!皆警戒せよ!」


侵入者がアスタリオスだと知らされた。もう驚き油断するものはいないだろう。

だが、アスタリオスの剣技に叶う者は誰もいない。

次々とアスタリオスの剣に倒されていく騎士達。

最後に残ったのはフォーストであった。


「アスタリオス様、なぜこのような事を?」


「退け、フォースト。こうしなければこの国は滅んでしまう。お前は斬りたくない」


アスタリオス公爵の「斬りたくはない」と言う言葉にフォーストは心に濁りが生まれる。

斬りたくはない?

剣の腕は僕の方が上なのに?


「アスタリオス様、剣で僕に叶わない人がどうやって斬ると言うのですか?」


フォーストが一気に間合いを詰め重い一撃を連続で入れてくる。練習試合と同じようにアスタリオスは受け止める事しか出来なかった。

練習試合と同じタイミングでアスタリオスに隙が生まれ、フォーストは躊躇なくアスタリオスの左腕を斬り飛ばした。


どうだ!アスタリオス様より僕の方が強い!

オーランドで一番の騎士は僕だ!

フォーストが勝ちを確信しているとアスタリオスの右腕に握られていた剣がフォーストを切り裂いた。


「フォースト、お前の剣は何もかも同じだ。隙をつくタイミングも場所もその後の隙もだ」


「そんな、なぜ?」


アスタリオスは倒れたフォーストの胸を突き刺し止めを刺すと王の間に向かう。王の間にはキュベレイ国王しかいなかった。


「何しに来た!この無礼者が!」


目の前にいるのは敬愛する国王の姿をしているが、アスタリオスがよく知る国王ではない。

だが、アスタリオスの瞳から涙が溢れる。


「謀反でございますキュベレイ国王!」


アスタリオスは涙で霞む先にいるキュベレイ国王を切り裂く。


「アスタリオス良き判断であった。感謝する」


最後の最後に真艫に戻ったのだろうか。もしくはアスタリオスが願望から聞こえた幻聴だろうか。

どちらにしも久しぶりに会うことが出来たキュベレイ国王にアスタリオスの涙が止まらない。

だが、アスタリオスには最後の仕事がある。

キュベレイ国王の首を斬り落とし庭に出るとダルタニアスの兵が待ち構えていた。


「アスタリオス、謀反の罪の裁きを受けよ!」


アスタリオスはモンドリュー公爵が持っていたら酒瓶から酒をキュベレイ国王の頭に掛け酒瓶を月に向けてかざした。


「今宵の月も美しい・・・」


20年前に交わした酒杯の夜も今宵の月のようであった。月を眺めて思わず出た言葉がアスタリオスの最後の言葉となった。


この事件はアスタリオスの乱心と片付けられ、オーランド国はダルタニアス公国と名を変え立て直しを図る事になった。



【千年樹の樹の下で】


「これが今回のアスタリオスの乱心でございます」


ダルタニアス国王はユーグラント侯爵の元に訪れていた。アスタリオスが起こした乱心の報告とアスタリオスが約束した一月の期日を向かえたからである。


「アスタリオス様は一月して私の怒りが治まらなければ謀反に加担して下さると約束して下さいましたが、既に死んでしまっては加担も何もないですな」


「いや、ユーグラント侯爵が謀反を起こす判断をすればアスタリオスの乱心によりユーグラント侯爵の望みの通りこの国は滅びる事となるだろう。だが、逆にユーグラント侯爵が思いを変えて頂ければ、この国はダルタニアス公国としてやり直す事が出来る」


「卑怯ですな。私が復讐したい者を全て奪って起きながら私には選択権しかないだなんて」


「もし、私の言葉を聞いて頂けるなら私と共にこの国を立て直してはくれないだろうか?そなたの妻もキュベレイ国王を恨んだかもしれないが、そなた等の民は恨んでいないはずだ。膿は一掃出来たが、まだこの国は麻薬に悩まされている。そなたの助けが必要なのだ」


「アスタリオス様も卑怯ですがダルタニアス様も卑怯ですな。そのような事を言われれば私が謀反を起こす選択がなくなってしまいます」


「これも全てアスタリオスの策だがな」


「アスタリオス様の・・・」


「私も一人残されてしまった。皆に裏切られた気分だよ」


「ダルタニアス様もですか・・・

解りました。謀反の件はなしとしましょう。ですが最後にお願いがございます」


「何だ?」


「アスタリオス様の墓参りがしたいと思います。アスタリオス様の墓に連れていってくれませんか?」


謀反を起こした者の墓などはない。

本来ならばだ。


「明日、ユーグラント侯爵を我が屋敷に案内しよう。我が屋敷にある千年樹が20年ぶりに開花してな。千年樹の花越しに見る月がとっても綺麗なのだ」


「それは楽しみにしております」



✳アスタリオスと最後に酒を交わした日


「ダルタニアス、私は謀反を起こそうと思う。この国を救うにはそれしか方法はないだろう」


「ならば俺も共に行こう」


「それは駄目だ。ダルタニアス、お前も一緒に謀反を起こしたら誰がこの国を治める。お前はこの国を導きヘルメス殿下をお守りしなければならない」


「ならばユーグラント侯爵に謀反を起こさせれば良かろう、お前が動かなくても・・・」


「お前も解っているのだろう。ユーグラント侯爵は防波堤だ。彼が動いてしまえば帝国が一気に攻め込んで来るだろう。彼はあそこにいなくては駄目だ」


「しかし・・・」


「ダルタニアス、この国には一人の愚か者と一人の英雄が必要なんだよ。私はユーグラント侯爵に一月待つよう約束をした。一月後返答を聞いてくれないか?お前なら説得も簡単だろう」


「ふざけるな、最後の最後に面倒臭い事を頼むな」


「ははは、なー、ダルタニアス」


「何だ」


「私の墓は残すことが出来ないだろう。可能ならお前の庭にある千年樹の木の下に埋めてはくれないだろうか」


「そんな事くらいなら叶えてやれるだろう」


「助かる。お前の庭から千年樹越しに見た月が一番好きなんだ」


「そうだな」


「千年樹の開花をまた見る事が出来ないのが残念だな」


「そうだな」


アスタリオスがダルタニアスの屋敷を後にしたあと、皮肉にも千年樹の花が20年ぶりに開花した。

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