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さらわれた友情

作者: 口羽龍
掲載日:2025/10/12

 春香はるかは中学校の卒業アルバムを見て泣いている。どうして泣いているんだろう。誰にもわからない。ただ、この卒業アルバムには何か悲しい思い出があるようだ。だが、誰にもそれを言えないようだ。


「どうしたの? 卒業アルバム見て」


 春香は振り向いた。そこには会社の同僚、理恵りえがいる。理恵は同じ日に入社した。入った時から春香と仲が良く、よく一緒に居酒屋で飲む中だ。


「悲しい過去を思い出してね」


 悲しい過去を思い出してか。春香は宮城の海沿いの中学校を卒業していて、2011年に卒業した。卒業式は3月10日にあった。ひょっとして、その翌日に起こった東日本大震災だろうか? あの地震は衝撃的だった。大津波が押し寄せ、あらゆる町ががれきの山になった。


「ふーん・・・」

「3月10日に卒業式があって、その後の卒業写真なの。だけど、その翌日は・・・」


 やはりそのようだ。春香にも、この日は忘れられないんだな。あまりにも悲劇的だったからな。この卒業アルバムの卒業生は、どうなったんだろうか? この中に、犠牲者はどれぐらいいるんだろうか?


「忘れられないよね。あの日、全てが奪われたもん」

「うん・・・」


 春香は、大切な友達を奪われたあの日を思い出した。




 2011年3月11日はいつものような日を迎えていた。卒業式の翌日、春香と幼馴染の万津子まつこは春香の部屋でテレビゲームをして遊んでいた。高校受験で全くやっていなかったテレビゲームが久々にできて、本当に嬉しい。高校受験を頑張っていて、よかったなと思っている。これから、2人は中学校まで一緒だったけど、それぞれの道へと進もうとしている。


「万津子ちゃん、これからどうするの?」

「私立高校に通って、東京の大学を目指そうと思うの」


 春香は驚いた。こんな所を目指すのか。すごいな。地元に進学して就職しようとしている自分とは全然違う。目標が高いな。こんな万津子に見習いたいものだ。


「ふーん・・・。いいじゃん! 私は地元で就職して、家族を支えたいから、県立高校に進むの」

「そっか・・・」


 万津子は残念そうに思った。一緒に私立高校に進んで、東京に行こうと思ったのに。だけど、ここが好きだから、地元の高校に就職して、ここで就職したいんだな。春香はこの町が好きなんだな。


「お互いいい未来を築けるといいね」

「うん」


 それは14時46分の事だった。体験した事のない大きな地震が起こった。2人は驚いた。まさか、この町で大きな地震が起こるとは。


「わっ、何だ?」

「地震! 隠れて!」

「うん!」


 3人はダイニングのテーブルに隠れた。その後も大きな揺れが続いている。どれだけのマグニチュードだろう。かなり大きいと思われる。


「大きい! 何だこれ!」

「怖い! 怖い!」


 2人はおびえている。いつまでこの大きな揺れは続くんだろう。早く収まってほしい。海に近いので、津波が襲ってきそうで怖いよ。


 ようやく揺れが収まった。だが、まだ安心できない。これから津波が襲い掛かってくるだろう。早く逃げないと。


「収まった・・・」

「早く逃げよう! 津波が来る!」

「うん!」


 2人は外に出て、高台を目指した。津波から逃げるには、高台に逃げるのが安全だ。だが、多くの人がいて、なかなか進まない。まだ見ていないけれど、津波が来るのは確かだ。早く逃げよう。


「早く早く!」


 だが、なかなか2人は進まない。早く逃げないと、津波が来るのに。


「春香ちゃん先行って!」

「うん!」


 春香は先に高台に向かった。すでに両親は逃げている。早く逃げないと。高台には多くの人が向かっている。両親の姿は見当たらない。だが、その中にいるだろうと思っている。


 10分歩いて、ようやく高台に着いた。春香はほっとした。これで何とか大丈夫だ。早く両親を探そう。


「大丈夫だった?」


 春香は振り向いた。そこには母がいる。それに、その隣に父もいる。春香はほっとした。両親は無事だったようだ。


 だが、春香は気になっている事がある。万津子がいないのだ。どこに行ったんだろう。全く見当たらない。まさか、まだここに来ていないんだろうか?


「うん。あれっ、万津子ちゃんは?」

「いないな・・・」


 春香の父も見渡した。だが、見当たらない。


「どこに行ったんだろう」

「わからない」


 ふと、春香は海の方を見た。津波が襲ってくるのが見える。とても大きくて、民家を飲み込むほどだ。民家は津波に飲まれていく。それを見て、春香はますます不安になった。もしかして、万津子は津波にさらわれたのかな?


「まさか、津波にさらわれた?」

「わからない・・・」


 だが、まだわからない。奇跡を信じよう。ここに来ていると信じよう。


「万津子ちゃんは?」


 春香はその後も見渡したが、見当たらない。どこに行ったんだろう。徐々に焦ってきた。津波にさらわれたのではと思えてきた。だが、まだわからない。


「わからない。どうだろう・・・」


 春香は両手を握り締め、祈った。どうか、万津子が無事でありますように。


「どうか、無事であってほしい・・・」


 と、そこに1人の男が現れた。その男は、悲しそうだ。どうしたんだろうか? まさか、万津子が津波にさらわれたのを知っているんだろうか?


「万津子ちゃん・・・」


 その声を聞いて、春香は近づいた。隣に住んでいる、斎藤さんだ。斎藤さんなら、万津子がどうなったのかわかるだろう。


「どうだった?」

「さらわれてもうた・・・」


 それを聞いて、春香はその場に崩れ落ちた。万津子が津波にさらわれて、死んでしまった。どうしてこんな事で死ななければならないんだろうか? どうして自然の脅威の前に死ななければならないのか?


「そんな・・・」


 春香の父は、春香の肩を叩いた。だが、春香は泣き出した。あまりにも悲しいのだろう。


「つらいよな・・・。つらいよな・・・」

「どうしてこんな事にならなければいけないんだろう・・・」


 その日、春香と万津子の友情は津波に引き裂かれた。




 理恵はその話をじっと聞いていた。こんな過去があったのか。ふと、春香は立ち上がった。どこに行くんだろうか?


「どうしたの?」

「海を見に行こうと思って」


 春香は家の近くにある海に向かった。理恵もそれにつられるように向かった。あの日を思い出したからだろうか?


 春香は海の前にやって来た。海はいつものように穏やかだ。だが、あの日は海が大津波となって襲い掛かってきた。海が民家を飲み込む怪物のように見えた。そして、万津子をはじめ多くの人々が亡くなった。あの日はまるで地獄を見ているかのようだった。忘れたいと思っても、忘れられない日だ。そして、その日をこれからも私は語り継がなければならない。万津子はもちろん、死んでいった人々のためにも。


「あの日、津波が襲い掛かって来た・・・」


 理恵は思った。海は穏やかだけど、時として牙をむくんだな。怖いものだ。


「海って、きれいだけど、時に怖いんだな・・・。あの日は大変だったね」

「うん」


 2人は海を見ている。そして、町は何事もなかったかのように穏やかな日々を送っている。だが、あの日を忘れてはいない。多くの人々の命が奪われたあの日を。


「いつまでも、その記憶、忘れないでほしいな」


 これからも、いつまでも、あの日の記憶が語り継がれていきますように。

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