第7話 傭兵団VS盗賊団 ②
自分は傭兵団の仲間じゃないから、まずはテックさんに説明しないと。
「しまったな、スピナにテックさんの特徴とか聞いときゃ良かった。」
ここはもう戦場だ、どこを見ても乱戦状態。
混沌としている、戦いってのはこういうモノらしい。
人を容易に狂気に駆り立てる、恐ろしいがそれが生きるという事かもな。
「まあ、善悪の区別くらいは付けたいところだがな。」
自分の信じる正義に従って行動しようと決めた、スピナを助けた時のように。
戦場を駆ける、オッサンだがそうも言ってられん。
「頼むから俺の身体よ、動いてくれよ。」
自分を奮い立たせ、傭兵団のリーダーっぽい人を探す。
リーダーなら、戦場全体を見渡せるような位置取りをしているだろう。
傭兵の味方に指示を出している人を探す。
それは直ぐに見つけられた、あれか? メガネを掛けた優男風の出で立ち。
岩の上に立っていて弓を装備している、傭兵仲間に指示を出しながら盗賊を射ているな。
アーチャーか、戦場を見渡せる場所に居て、弓矢の攻撃範囲で戦っている。
切れ者っぽい、メガネのせいか?
テックさんらしき人物に向けて、大声で叫んでみた。
「テックさん! 俺は敵じゃない! あんた等に味方するつもりだ!」
すると、テックさんも応えてくれた。
「どこの部隊の者ですか!」
「俺は傭兵じゃないが! スピナさんを助けた者だ! 加勢するから撃たないでくれ!」
「今は戦闘中です! 隠れてください!」
ふーむ、一応スピナの名前を出したからか、信用はしてくれたみたいだ。
だが、俺が戦闘へ参加するのは拒否された、それはそうだな。
乱戦になっているし、余計な事は回避したいだろうし。
だが、テックさんのところへ来るなとは言われていない。
テックさんの居る場所へ向かい、移動を開始した。
その途中、テックさんがこちらを向き、溜息っぽい仕草をしていた。
どうやら来ても良いらしい、歓迎はされていないだろうが。
「そっちへ行きます!」
「好きにしてください!」
離れているので、大声でお互いに応答しあっているが、余計に目立つだろう。
当然、盗賊もこちらに気付き、向かって来る。
だが乱戦な上に戦いで疲弊しているのか、動きは鈍い。
余裕でテックさんの元まで近づける、と思っていたが自分自身が鈍かった。
そうか、こっちがオッサンだからテックさんは気を遣った訳か。
悪い事しちゃったな、まあ隠れる場所とか無いし。いいか。
テックさんのところへ移動し始めてから、直ぐに事態は急変した。
「うわあああああ!?」
「きゃあああああ!?」
突然誰かの叫び声が聞こえたと思ったら、人が吹っ飛ばされてきた。
まさか、人があんなに宙を舞って吹っ飛ばされるとは!?
軽く10メートルは飛んできたであろう人は、大怪我を負っていた。
直ぐ近くに落ちて来て、息も絶え絶えといった状態だ。
飛ばされて来た方を見ると、獣がそこには居た。
「あれは!? キリングパンサー! 魔獣だ!」
間違いない、ゲームにも登場した魔獣だ。
ヒョウの様な見た目だが、大きさが全然違う。並の大人が軽く撫でられただけで吹っ飛ばされるくらいデカい。
デカい牙もある魔獣だ。モンスターっぽいがそれとは区分が違う。
まあ、細かい事は今はどうでもいい。今は目の前の事態にどう対処するか。
自分はプリーストじゃない、回復魔法なんてものも使えない。
回復薬などのポーションも持って無い、拾った剣のみ。
目の前の怪我を負った人を治療出来ない、そんなスキルは持って無い。
やはり俺は無力なのか? いや、役割が違うのか?
立ち尽くしていたところで、テックさんが大声で叫ぶ。
「みんな気を付けて! 盗賊団の頭目です!」
ここからでは見えないが、盗賊たちの向こうに誰か居るらしい。
テックさんには見えてるみたいだ、岩の上の高い場所に居るからだろう。
そのテックさんが敵の親玉を見つけたらしい、警戒しているのが分かる。
「まあ、所詮寄せ集めだ、こちらの戦力が上でも苦戦するわな。」
余裕の態度で戦場に現れたのは、禿頭の大男。
手には鞭を持っていて、その隣に魔獣のキリングパンサーがうろついている。
キリングパンサーは大男を攻撃しない、寧ろ従っている様に見受けられる。
「鞭を持った大男、その隣に魔獣、まさか。」
慌ててスキルの「鑑定」を大男に向けて使った、やはりか。
気が付いたら、周りに聞こえる様に叫んだ。
「気を付けろ! ヤツはビーストテイマーだ!」