第6話 傭兵団VS盗賊団 ①
「通りすがりのオジサマが、どうして私を助けに?」
理由? 理由か、まあ女の子がひどい目に遭っているのを見過ごせないだけだが。
「俺は男だからね、男ってのは女を守る義務があると思っているんだよ。」
この言葉を聞き、スピナはポ~っとした様子でこちらを見つめている。
「い、今時そんな事を平気で言う人を初めて見た気がします。」
「そうかい?」
「はい、女の子だって戦えますから。」
まあ、一人に一つスキルを持ってる世界だし、剣を持って振り回してたんだから、そうだろう。
技量はともかくとして。
剣道や柔道の国際試合をテレビで観てると、この人は強いとか、この人の動きは機敏だなとか、色々分かるようになるモノだからね。
伊達に五十まで生きてない。人生経験はそれなりだ。
「私を助けたという事は、味方で良いんですよね。えーっと、貴方は?」
「ああ、申し遅れました、俺の名はタナカと申します。」
「タナカさん、貴方は私達の傭兵仲間の方ですか?」
傭兵? そうか、馬車の護衛をしているのは傭兵団って事か。
「いや、俺はただの通りすがりの人だよ。」
いや~傭兵団を味方して良かった、襲ってる方は盗賊団か何かって事だよな。
自分の信じた正義に従って行動して、正解だったかもな。
転移初日から盗賊の味方なんてしたら、犯罪者になるかもしれなかった訳か。
女の子を助けられて良かった。
「とにかく、今の状況を説明します、我々は商隊の護衛をして………。」
スピナの話を纏めると、こう言う事だ。
王都から食料を届けに、町までの馬車の護衛依頼の仕事を引き受けたのが、傭兵団「鉄の牙」という事。
スピナはその鉄の牙のメンバーで、まだ新入りらしい。
今盗賊団と戦っているのは、鉄の牙の第三部隊「テック隊」という事。
鉄の牙のサブリーダー、テックさんがこの隊の部隊長で、襲って来た盗賊団に対処している。
王都から町までの最初の依頼を達成したが、その場で他の仕事を引き受けて別の町まで荷馬車の護衛するというもの。
町まであと少しという所で、待ち伏せされ襲撃されたらしい。
スピナはまだ実戦経験が不足しているので、馬車の護衛に専念する事になったそうな。
で、二人の盗賊に挟まれてピンチだったところを、俺に助けられたと。
このまま戦いの様子を見て、テック隊に加勢するか、このまま馬車を護衛するかと言った次第。
と、言う事らしい。
「タナカさんはどうしますか?」
「俺か、そうだな。」
このまま静観しても良いが、折角ならテックという人に加勢するのも悪くはない。
とにかく情報が欲しい、傭兵団の分隊長クラスなら、何か知っているかもな。
まあでも、加勢して戦力になるのか? という問題はあるが。
このまま何もせず、大人しくしている方が、まあ安全ではあるけど。
「スピナはここに居て、俺はテックさん達の様子を見に行ってくるよ。」
「え、良いんですか? タナカさんは私達鉄の牙とは全く関係が無いじゃないですか。」
「だが、このまま俺がここを離れて町へ行っても、盗賊の生き残りに後ろからバッサリ、なんて事もあるかもしれないし。」
「確かに、盗賊団の正確な数は分かっていませんけど。」
「だから、俺はこのままテックさんの支援に向かおうかなと思うんだよ。」
「それは、ありがたい話です。こちらとしても戦力は多い方が良いですから。」
「じゃあ決まりだ。」
よし! 覚悟は決まった、やるべき事は、戦場でテックさんを探して支援。
可能なら、盗賊団の情報を得る事。あとは、自分の身の安全。
こちらから戦場に向かう訳だが、決して無理はしない。
さっきの男達は、こちらの存在に気付いて無かったし、油断してくれたから勝てた。
次もそうなるとは限らん、慎重に行動するに越した事はない。
「よし、じゃあ行くぞ。」
「お気を付けて、タナカさん。」
スピナの言葉を聞き、俺は気を引き締めて事に対処する。
馬車の陰からこっそりとのぞき見、見つからない様に観察した。
馬車から少し離れたところで、傭兵団と盗賊団が争っている。
「スピナと同じ様な革鎧を着ている方が傭兵団だな、で、全く統率が執れていない方が盗賊団と。」
なんて分かりやすく動いているんだ、こっちが混乱しなくても良いのは助かる。
「年甲斐も無いが、そんじゃまあ、おっぱじめますか!」