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第5話 タナカの勇気



 ふう~、やっとこさ森を抜けたよ。


 と、思ったら何やら騒がしいですよ? 何ですかな?


 森を抜けたところに街道がある、やったと思った矢先に鉄が擦れる音。


 叫び声や怒号、トキの声などが聞こえる。


 ちょっと様子を見てこようかと思い、街道を音のする方へ移動する。


 街道を発見できた事で、まずは一安心。これを辿って行けば町か村へ行ける。


 うきうき気分で移動し、様子を見に行ったが、直ぐに考えが切り替わる。


 「マジか………。」


 人の死体を発見した、刀傷のような痕がある。え!? この人切られたの。


 物騒な事この上ない、この音はやはり戦いの音だったようだ。


 「参ったなあ、俺は平和なところから来たばかりなんだよ。いきなりだろこれ。」


 見た所、かなりの大勢が争っている様だ。一方が馬車を守っている。


 おそらくは、馬車の護衛をしている人達と、それを襲っている人達。


 この二つの陣営が争っている感じだな、怖い怖い、君子危うきに近寄らず。


 「折角人に出会ったのに、戦ってる最中だもんなあ。」


 戦場にぽっと現れた人を見てだろう、両陣営ともこちらをチラ見している。


 静観するつもりだったが、発見された以上は無視できないだろう。


 自分が戦力になるとは思っちゃいないが、状況が掴めない以上どちらに加担するか。


 それによって、今後の自分の生き方が決まるだろう。ここは慎重に。


 ぱっと見、馬車を護衛している方が統率がとれている。


 一方で、襲っている方はバラバラだ。勝手に行動している感じ。


 馬車に張り付いている護衛が一人、女の子が剣を持って果敢に戦っている。


 相手の方は二人の男だ、距離を取りつつ接近し囲もうとしている。


 「うーむ、このまま見過ごすのは寝覚めが悪いな。」


 女の子が必死になって戦っている、顔には悲壮感が漂っていた。


 「よし! 決めた! 俺は馬車の護衛をしている方に加担するぞ!」


 女の子を助けたいという気持ちもあるが、襲っている男達が、まるで遊んでいるかのように武器を振り回しているのが、気に喰わない。


 「ああいう手合いは、虫唾が走る。」


 倒れている男から武器の剣を拾い、手に持って握りしめる。


 「結構重いな、これが本物の武器の重さか。」


 命を奪う武器だ、重くて当然。


 だが、ここで問題が、助けに入っても足手まといにならないか? という事。


 怖いが、折角異世界に来たんだ、このまま何もしないってのは、余りにも臆病だ。


 勇気が欲しかった、この世界でなら、もしかしたらあるいは。


 「しっかりしろ俺! 何の為にここまで来た! このままだったら昔のままだぞ!」


 剣を強く握り、馬車の周りに居る男達を見据え、身構える。


 「怖い、怖いが、それは女の子の方がもっと怖い筈だ。」


 俺にだって、この異世界で何かだ出来る筈だ!


 勇気を出せ! ここで何もしなかったら男が廃るぞ!


 「ええーい! 南無三!!」


 気が付いたら、馬車に向けて駆け出していた。


 大丈夫、まだ間に合う。女の子はまだ戦っている。男達はこっちに気付いてない。


 襲って来た男達に気圧されて、女の子が転倒した。


 「きゃ!?」


 「ぐへへへ、よく見りゃいい女だぜ。」


 「ああ、このまま犯すか?」


 「そうだな、頭たちはむこうでやり合ってる真っ最中だし。ここは俺等で楽しむか。」


 「い、いや!? 来ないで!? 来るな!?」


 「げへへ、どうしたお嬢ちゃん。震えているぜ。」


 「げはは、剣なんか振り回すからこう言う事になるんだぜ。」


 男達が女の子に覆いかぶさろうとした時、忍び足で接近し、一人の首を刎ねる。


 「じゃあ、お前等もこう言う事になるんだな。」


 声を掛け、もう一人の男に剣の切っ先を向けて構える。


 「だ、誰だ!!」


 男が勢いよく振り向き、丁度剣が男の顔に突き刺さる様な位置に置いた。


 そして、そのままブスリといった。


 「げはあっ………。」


 男の目から剣の切っ先が入って行き、深々と突き抜け、絶命させた。


 「ふう~、な、何とかなったか。怖かった。」


 だが、勇気ってのを出してみたお陰か、女の子は無事だったようだ。


 「やれた、俺でもやれたじゃないか。いや、慢心は良くない。偶々相手が弱かっただけだ。油断もしてくれたしな。」


 剣を仕舞い、女の子に手を差し伸べ、起き上がらせようとした。


 「君、立てるかい?」


 「え、ええ、はい。」


 女の子が俺の手を掴み、その場で立ち上がる。


 よく見ると可愛い顔をしている、ポニーテールが似合う十六歳くらいの女の子だ。


 革鎧の上だけを装着していて、鎧下は赤いワンピースを着ている。


 女の子が服をパンパンと叩いて土を払い、こちらの方に向き直って言う。


 「助けてくれてありがとう、貴方は同じ傭兵仲間ですか?」


 「傭兵? いや、俺は。」


 たまたま通りかかっただけだが、話を合わせた方が良い場合もある。


 ここは慎重に対応しなくては。


 「えっと、私の名前はスピナです。あの、貴方は?」


 「俺はただの通りすがりのオッサンだよ。」




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