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ある日、勇者の剣を抜いた。  作者: N.ゆうり
第四章 甘い憧れ
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演習開始

演習開始三十分前。

古いコンクリートの建物跡に設けられた仮設ブリーフィング室に、参加メンバーが集められていた。今日の演習は、これまでの座学や模擬戦とは違う。

「では、任務概要を説明する」

「任務形式」の本格的な実地演習——それは、命令、連携、そして“判断”が問われる内容だ。

兆が地図が貼られた白板の前に立つ。鋭い目つき。只者ではない雰囲気に、室内の空気が少し強張った。

「…あれ、南ってどっちだ」

張り詰めた空気をあっさり壊したのは、他でもない兆自身だった。

「地図も読めないなんて、さすが兆さんですね」

すかさず、傍らの光が小声で刺すように返す。そのやりとりを見かねて、キサラギが助け舟を出すように前へ出た。

「本任務は“旧遺跡区画の制圧および端末回収”。いわゆる模擬実地任務だ。目標地点はこの区画――旧・第七研究棟跡。チームで潜入し、“異形データ収集端末”を回収して、無傷で持ち帰ることが目的となる」

説明するはずだったセリフを先に取られ、兆は一瞬だけ口を開けたまま固まる。だがすぐに切り替えて、腕を組み直した。

「途中いろんなトラップがあります。戦闘も、もちろん発生します」

光が淡々と補足する。

「センパイは馬鹿ですが、戦闘力だけはそこそこありますから。攻撃を受けたら、演習中でも“戦闘不能”扱いになりますので、ご注意を」

「え……?」

兆の口から小さく漏れた声に、誰も反応はしない。

「ただし、評価対象は撃破数ではなく――連携、判断力、感情の制御。

暴走や独断行動は減点対象だ」

キサラギが静かにまとめたところで、光が締めくくる。

「“頭の悪い上官にどう従うか”という試験でもありますね」

「えっ……」

再び、兆の困惑が空気に滲む。が、全員がそれに慣れた顔をしていた。

「足手まといのおもりか。……そういうの、お前には向いてそうだな、レイ」

シンが冷たく言い放ち、挑発するようにレイとの距離を詰める。レイは無言のまま、それをただ受け止める。だがキサラギがその空気を断ち切った。

「シン」

一言だけ。その声に、空気が一瞬、凍りつく。

「演習に私情を持ち込むなら、正式な報告書に記載する。……それでもいいなら、続けろ」

シンは苛立ったように舌打ちし、顔を背けた。

「じゃ、チーム編成発表いきまーす」

光があっけらかんとした声で、再び場を回しはじめた。


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薄暗い旧遺跡の廊下に、足音が静かに響いた。

ひび割れたコンクリート。むき出しの配線。壁面に設置された古い警告灯が、チカチカと断続的に点滅している。

「なんでお前と同じチームなんだよ……」

シンがレイを睨みつけながら舌打ちした。きっとこれはキサラギの仕業だろう、とレイは先日シンの話をしたことを後悔していた。

「……喧嘩は任務が終わってからにしてね?」

その間に、やけにのんびりした口調が割って入った。

三人目のメンバー――ノノ。 首を傾げ、花の刺繍が入ったポーチを背にして立っている。一見、ただの優等生か、手伝い係に間違えられそうな気配。レイは小さく息を吐き、通信端末を起動する。

「チッ……ふざけた編成だな。何が“連携重視”だよ、こんな坊ちゃんと行動するより、一人の方が動きやすいんだろ」

「…勝手に動くな。減点になるぞ」

言葉の応酬の間も、レイの視線は前方から外れない。小さな物音。空気の揺れ。何かが、近づいてきている。

「来るぞ」

その一言の直後、通路の先から黒い影が遠くで揺れていた。

レイが前に出ようとしたその瞬間、シンが強引に横から飛び出した。

「邪魔すんなよ。坊ちゃんは隅で震えて待ってろ」

そういい先に進もうとするシン。次の瞬間、通信用タグから光の声が響いた。

『注意。独断行動により評価-2点。連携行動を推奨します』

「……うぜぇ」

シンが毒づく中、レイは深く息を吐いた。



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