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ある日、勇者の剣を抜いた。  作者: N.ゆうり
第三章 奪われたプリマ
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猛獣が徘徊する校舎で

日常は唐突に奪われた。もう、幸せだった時のことは思い出せなかった。

気付いた時には荒ぶる猛獣たちの、檻の中だった。檻の外では、たくさんの大人たちが歓声をあげていた。ぼろぼろになったテオを、ただ見つめながら。

もう動かない足を引きずりながら、檻の入り口を目指した。だが、それ以上のスピードで猛獣の牙がテオに迫っていた。

「テオ!!」

そのとき、クララは爛れた顔の男を制して、檻の中へと飛び込んだ。たった一人の姉は、弟を救うため、自ら狂気へと足を踏み入れた。

ーー思えば、姉を狂わせてしまったのは、僕だったのかもしれない。

そんな遠い昔のことを思い出しながら、廊下を歩くテオはピエロの姿で、鞭を鳴らした。



-----------------------------------------

アサヒとニアは静かな教室で、息を殺していた。廊下の向こうには、徘徊する猛獣。見つかれば終わりだ。外の異常に、バレリーナたちも気づいていた。彼女たちの無表情な瞳の奥には、はっきりと絶望が見えていた。

アサヒは焦っていた。今、彼の手には肝心の剣がない。

先ほど、紙袋の男の触手が飛び出したとき、アサヒは思わず手を離してしまったのだ。

隣にいるニアも、どこか申し訳なさそうな顔をしている。

「アサヒ、ごめん」

小さくつぶやいたニアに、アサヒは首を傾げた。

「僕が逃げる時、変な方に誘導しちゃったから」

ニアは俯き、前髪で顔を隠した。アサヒは、以前からニアと自分が似ていると感じていた。どこか自信がなくて、でも諦めが悪い性格。

なぜ似ているのか不思議だったが、メアの話、家族の話を聞いて気づいた。 ニアの母親は、アサヒの母にとてもよく似ていたのだ。

「謝らないといけないのは僕のほうだよ」

そう言ってアサヒは両手をひらつかせて、剣がないことを伝えた。

「……なんか、僕たちって似てるよね。ダメダメなところがさ」

唐突なニアの言葉に、アサヒは思わず吹き出した。

「上のきょうだいは出来がいいし?」

それにつられて、ニアもくすっと笑う。

「……僕、ニアと友達になれて嬉しいよ。恥ずかしがり屋のニアも、わがままなニアも」

その言葉に、ニアは目を丸くして、それから小さく意地悪そうに笑った。

「……僕も、割と空気読めないアサヒと友達になれてよかったよ」

その瞬間。 廊下の外から、猛獣の荒い息遣いがすぐそばに迫っていた。鼻を鳴らしながら、アサヒたちの気配を探っている。ニアは、おびえるバレリーナたちに目をやると、いつものたどたどしい言葉で、アサヒに声をかけた。


「アサヒ…ぼく、は…その…走るのはあまり得意ではない、ので…できるだけ早く、来てくれると、うれしい、です」

そう言って突然立ち上がると、ニアは後ろの窓をガラリと開けて、外へ飛び出した。


「こっち、だぞおおお…ッ!!!!!」


その声は、ニアのものとは思えないほど大きく、鮮やかに響いた。その声に反応し、猛獣の赤い瞳がニアをとらえた。ニアはウィッグを脱ぎ捨て、走り出した。猛獣は、その背を追って、アサヒたちの教室を通り過ぎた。


「ニア…ッ!!」

アサヒは、その背を見送りながら、昨日のキサラギの言葉を思い出した。



『あいつはーーーーーーーいざって時、一番カッコいいからな』

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