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ある日、勇者の剣を抜いた。  作者: N.ゆうり
第二章 彫刻家の孤独
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孤独な彫刻家

 学生のころから、クラリッサはずっと――孤独だった。

 私はいつも普通にしていたのに、なにをするにも、周りは私を好奇な目でみた。私はただ作品を作っていただけだった。けれど、どんな場面でも“特別”の烙印が押された。記憶の奥で、誰かの声が呼応する。

「クラリッサって、教授たちにめっちゃ好かれてるよね」

「この前も大きな作品作って、いろんな人が手伝ってたよね」

 私はある日、長かった髪をばっさりと切った。誇りでもあったのに、なにかを断ち切るように。

「クラリッサさん、どうしてそんな作品が作れるんですか?」

「やっぱり、技術とかそれだけじゃ語れない生まれつきの才能ね」

 違う、私はずっと石を削って、ただ作り続けてきた。生まれたときからずっと、そうしたくて、やってきただけ。それだけなのに。

「…アートみたいな高尚なもんはよくわからないよ。まぁ、君が相手してくれるなら展示の件も考えてあげなくもないけど」

 私の作品は言葉だよ。ただ伝えるための手段で、そんなものではないの。そうやってある意味見下してるんだ。

「みんな、お前の持ってるもんが喉から手が出るほどほしいんだよ」

 持ってなんか、ない。ずっと――持ってなんかいない。

 私はよく知っている。意識された悪意も。

「先生、でもそうやって、褒められて、認められることって、誰も損しないでしょ?」

 無意識の悪意も――よく、知っている。

 まばゆい光が放たれた、その瞬間。私は、冷たい水の中から解き放たれた。そして、自分の作品が音もなく崩れ落ちていくのを、ただ見ていた。

 ――わかってほしいなんて思ってなかった。

 でも、私は、たった一度でいいから、私の声を、聞いてほしかった。

***

 石膏の匂いがむせ返るほどに充満した、広大な展示会場。ニアはこの光景をよく知っていた。起きてほしくない、少し先の未来がとうとう目の前に来てしまった。

「ねえ、クラリッサ…なんで…?」

 届かないと知りながら、声が漏れた。これまでも、これからも。僕の声は、届いた試しがない。

 彫刻の前に立つその女性が、ゆっくりと振り返る。夢で見たままの、美しい姿――。赤く塗られた唇が、静かに開いた。


「あなたが見ているのは、私じゃない。あなたが信じたい“女神”でしかないわ」


 瞬きの間に、その姿は――いつか見た、ツインテールの少女へと変わっていた。



***



 『先日行われた国内最大規模の芸術展にて有名なアーティスト達の展示が行われました。その中でもクラリッサ・ノアールさんの作品が注目を集めています。展示されたのは完成された彫刻を自ら破壊し、会場内に砕かれた断片としてちりばめたというインスタレーション。要所要所に、黒く美しい石が混ざっているのも印象的です。それでは芸術評論家のエリオットさんにお話をお聞きしましょう。』

 『いやあ……素晴らしいですね。これぞ“アート”。言葉を失いましたよ……』


 静かな部屋に流れるラジオの音を、ニアは音もなく――消した。


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