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ある日、勇者の剣を抜いた。  作者: N.ゆうり
第二章 彫刻家の孤独
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点検口とパレード

 アサヒとニアは、紫が蹴り破っていった点検口をじっと見つめていた。

 静まり返った室内には、エアコンの風切り音だけが機械的に響いている。

「……やっぱり、入れないよね。点検口」

 アサヒがぽつりとつぶやく。

 ニアは少し間を置いてから答えた。

「誰かが入ったら、誰かは待つしかないの。構造上、しょうがない」

「でも、その“待つ人”が自分だと、こんなにしんどいんだね……」

 思い返せば、紫は点検口の前で一言「待ってろ」と言ったかと思えば、あっという間に中へ消えていた。アサヒはその小さな点検口を見上げながら、かつて三人で並んだ時のことを思い出した。そして、思わずこぼす。

「紫ってさ……もしかしなくても、ちいさーーー」

「それ、言ったらダメ」

 ニアの鋭い返しと同時に、隣の部屋から爆音が鳴り響いた。

***

 その音は、裏路地を歩くレイと焔羅にも届いた。報告のため戻る道すがら、焔羅が眉をしかめる。

「…ええ?もうなになにー」

 焔羅が眉をしかめながらも、気の抜けた声を漏らす。だがその声の奥には、わずかに警戒心がにじんでいた。音のした方角は――あきらかに、作業場のほうだ。

「表通りから回った方が早い。ちょうど今、サーカスのパレードで人の流れが分散してる」

 レイは昨晩確認していた前夜祭の資料を思い出す。外部から来たサーカス団のパレードが、この時間に通りを練り歩く予定になっていた。

「さすが賢こちゃん、道覚えるの早いねえ」

 焔羅が軽口を叩く。その一言に、レイはほんの一瞬だけ殺意を覚えたが、黙って焔羅を先導する。表通りに抜けると、ちょうどパレードの真っ最中だった。音楽と歓声が入り混じる中、あの爆音さえ演出の一部として紛れてしまっている。

 ふたりが駆け抜けようとした、カッと乾いた音とともに、足元に黒く細長い物体が突き刺さった。

「……っ!」

 反射的に足を止めたレイは、それが短剣か何かのような形をしているのに気づく。視線を上げた先―― 表通りに面した建物の屋上。その縁に、紙袋をかぶった男が立っていた。

「こんなところで暴れられたら、ちょーっと困っちゃうねえ」

 男は待つことなく、次の一投――黒い影のようなクナイを振りかぶる。

「この前のクナイ使った仕返しかよッ!」

 飛んでくる影をかいくぐりながら、ふたりはパレードのざわめきを縫うように走る。何本か投げつけたあと、男は一瞬だけ攻撃の手を緩めた。が、次の瞬間――

 彼は、パレードに夢中なひとりの子どもに狙いを定め、腕を振り上げた。

「……くそ意地の悪いやつだなッ!」

 レイが声を上げ、次に放たれたクナイを剣で弾き飛ばす。黒い影は、ガキンと鋭い音を立てて空中で砕け、宙を舞った。男は再びクナイの雨を投げつけ、レイは剣で応戦する。

 だが、このままでは――埒があかない。その瞬間、風のように声が割り込んだ。

「ごめんね?二回も蹴っちゃって」

 ――気づけば、焔羅が紙袋の男の懐まで踏み込んでいた。次の瞬間、鈍い音とともに、男の身体が隣の通りへ吹き飛んだ。


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