エピローグ 幻影装置
紫が布団に横たわり、額に残る熱を冷ますように吐息をつく。
懐の異物感に顔をしかめる。
枕元の小箱を手探りで引き寄せ、懐から小さな鉄の塊を取り出した。
「……あぁ、これ」
光から渡された小型の幻影装置。
任務の間、結局一度も使わなかったそれを、ぼんやりと指先で転がす。
その瞬間。
背後から低い声が落ちた。
「……なにそれ」
扉の影に立っていたのは焔羅だった。
視線が鋭く、紫の手に握られた装置へと注がれている。
紫は「ああ」と気の抜けた声を出す。
「光にもらった……幻影装置だ」
「……なんの幻影」
「……さぁな」
曖昧に流す紫に、焔羅は一歩踏み出し、乱暴に装置を奪い取った。
視線が文字盤を走り、焔羅は頭の血を沸騰させる。
「……っ、なに考えてんだアイツ……!」
拳を震わせ、装置を握り潰しそうな勢い。
紫は熱でぼんやりした目を向け、肩をすくめた。
「……結局、使わなかった」
「そういう問題じゃねぇ!」
焔羅は声を荒げるが、それ以上言葉が続かない。
嫉妬と苛立ちと、どこか安堵が入り混じった顔で、装置を布に包み直す。
「……まぁ、これは危ないから俺が管理しとく」
焔羅の発言に紫は目を細める。
そして焔羅を後ろから蹴飛ばし、装置を奪い返す。そして軽く宙になげる。
紫の短剣がひと閃。
装置は宙で真っ二つに裂け、鈍い音を立てて床に転がった。
「……お前に渡すほうが危ない気がする」
紫の淡々とした声が部屋に残る。
焔羅は言葉を失い、床に散らばった鉄片を見下ろした。
ただの装置――それなのに妙に胸を締めつけた。
「……チクショウ……」
呟きは熱を帯びて、紫に届くことなく沈んでいった。




