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孤独は夜空で星を結ぶ  作者: 最下真人
【一章 星と空】
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薄命の空②

 手術室付近の家族控室は静寂と緊張に包まれていた。

 ここには私と母、蒼空の家族がいる。

 蒼空の両親は手を祈るようにしながら、息子の帰りを待っている。

 妹の美月ちゃんは鬱ぐように俯いており、意識が抜けているようだった。


 ここに来てどれくらい経つのだろう。

 永遠と言えるほどの時が流れているように感じる。

 私の母は「大丈夫、きっと助かる」と言うが、その言葉は私の心まで届いていなかった。

 蒼空が死んでしまう恐怖が胸に纏わりつき、吐き気を何度も催していた。

 手足が震え、悪寒が背中をなぞる。

 神様なんて信じていないが、このときだけは神様に祈った。


――蒼空の命を救ってくれるのであれば、この命を差し上げます


 何度も何度も頭の中で復唱した。

 神様からしたら都合のいい人間と思われるかもしれない。

 私を嫌悪しているかもしれない。

 それでもこの願いだけは叶えてほしい。

 もう何も望まない、蒼空が他の人と結ばれてもいい、蒼空が自分のことを嫌いになってもいい、ずっとひとりぼっちのままでいいから、蒼空だけは助けて下さい。


 能う限り祈った。

 両手の指が軋むほど力を込めながら、一生の運をすべて使い切るように。

 神への信仰を誓い、契りを結ぶように。

 この瞬間に私のすべてを捧げた。


 幼馴染に、


 救ってくれた人に、


 隣で笑ってくれた人に、

 

 私の大好きな人に――


 控室の扉が開き、担当医だと思われる人が入ってくる。


 私は瞬間的に顔を伏せた。

 表情で結果が分かるのが怖かったから。


「蒼空は助かったんですか?」


 蒼空のお母さんの声だ。

 子の命を案じていたことが声だけで伝わってくる。


 だが言下に振り下ろされた言葉は、


「残念ながら……」


 神への祈りが呪いに変わった。そして絶望へと引き込まれる。


 蒼空の両親はその場に崩れ落ち、慟哭の雨を降らせた。

 医師は言葉を慎重に選びながら二人に声をかけている。

 母は私を抱きしめた。きっと寄り添ってくれているのかもしれない。

 でも、慰めも、同情も、励ましも、気遣いも、何もいらない。

 蒼空の命だけあればいい。

 

 なんで蒼空なの?


 なんで、死んだの? 


 なんで……


 私の大切な人は十七歳という若さでこの世を去った。


 窓の外には、弔うような白い雪が降っていた。

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