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孤独は夜空で星を結ぶ  作者: 最下真人
【奥村蒼空】
40/42

空は夜を纏い、星を掬う②

 日曜日は晴天に恵まれた。青が広がる世界に白い雲が漂う。

 待ち合わせしていた駅には少し早めに行ったが、すでに千星が来ていた。

 その姿を見たとき思わず息を呑んだ。

 いつもよりおしゃれをしていて、すごく可愛かったから。

 そのことを伝えようかと思ったが、恥ずかしかったので代わりに冗談を言った。


 最初に行ったのはカフェだった。

 そこで食事をとった後、コーヒーを頼む。

 千星はクリームソーダだった。アイスとクッキーで作られたくまが乗っかっている。

 服装を褒めるタイミングを計っていた。やっぱり可愛いと伝えたい。

 いつもと違うからにはきっと理由があるだろうし、何より本当に可愛い。

 だけど普段はあまり言わない言葉だったから、少し照れ臭かった。


「可愛いね」


 千星を見ていたら目が合ったので、思わずそう言ってしまった。


「え?」


 時間が止まったように茫然としたあと、千星は急にあたふたし始めた。

 それを見ていたらこちらまで恥ずかしくなり「くま、可愛いね」と小さな声で誤魔化した。

 何故だか分からないが、アイスのくまの脳天にスプーンを入れ、怒っていた。

 

 水族館でクラゲを見ている千星は子供のようだった。

 その姿がとても愛おしく感じる。

 今度はちゃんと言おう、そう思い「可愛い」とクラゲを見ながら言った。

 千星はクラゲのことだと思ったみたいだったが、服装のことだと伝えると頬を赤らめて照れ始める。

 そして訳の分からない独り言を言いはじめると、周りの人が笑いながらこちらを見てきた。

 少し恥ずかしかったが千星らしいなと思い、自分も頬を緩めた。

 クラゲを見終わると千星は小さな声で「ありがとう」と呟いた。

 たぶん俺には届いていないと思っているだろうが、ちゃんとお礼は耳に入った。


 街に施されたイルミネーションは、夜の底に幻想的な光を散りばめていた。

 木々を伝う青い電飾が幻想的に足元照らしている。

 人波で溢れる大通りを千星と歩いていた。

 このあと俺は気持ちを伝える。

 隣で歩く千星は、今なにを思っているのだろう。

 もし「好き」と伝えたら驚くかな?

 そのときはどんな顔をするだろうか。

 絡み合う思考が心臓まで締め付ける。


 駅前に着くと、ロータリーの中央にある大きな木が、LEDによってクリスマスツリーになっていた。

 告白するタイミングは何度もあったが、この関係性が壊れるかもしれないと思うと、言葉が喉元から落ちていった。

 でも、ここを逃したらもう言えないような気がしたので、胸臆の言葉を拾い集め、慎重に縫い合わせる。


 最初で最後の告白になるかもしれないから。


 横断歩道を渡り、駅の出入り口の手前まで来た。

 まだ覚悟が決まっていなかったため焦っていたが、千星が立ち止まってツリーを見始めた。

 運が良いと思った。

 この隙に心の準備ができる。

 何度も深呼吸して、鼓動の速度を緩めた。

 ツリーのてっぺんに光輝く星があり『想いが届きますように』と願いを込める。

 もし叶うなら、すべてを賭けて千星を幸せにする。


「今日は楽しかった。ありがとう」


 千星がこちらに体を向けて言ってきた。


「俺も楽しかった」


 思わず笑みが零れた。本当に楽しかったから。

 千星は大きく息を吸ったあと「あのね、蒼空……」と、目を見てきた。

 だが、そこから言葉が止まった。

 待っていたが千星は俯いたまま何も話さない。

 なので俺から先に話そうと思った。


「千星、ずっと言おうと思ってたことがある。俺、好きな人がいて……」


「ちょっと待った」


 千星は息を整えながら、自分を落ち着かせようとしている。

 もしかしたら気づいたのかもしれない。俺が好きなのは千星だと。

 この反応を見る限り、上手くいきそうにないと思った。

 あたふたしているのは、どう断るかで悩んでいるからかもしれない。

 ごめん、迷惑をかけて。

 きっと辛い思いをさせてしまうかもしれないけど、それでも言わせてほしい。


「千星、聞いてほしい。俺、好きな人がいて……ずっと言えなかったけど……」


 この先の言葉を伝えたら、もう今までのようにはいられないかもしれない。

 なら、仲の良い幼馴染のままの方が……


 こんなときに臆病が顔を出す。

 あの頃となんにも変わってない。

 大事なときほど勇気は背を向ける。

 そして立ち止まっている間に、その背中は離れていってしまう。

 振り向かせるためには、自分も前に進まないといけない。

 それを教えてくれたのは千星だった。

 もし断られても、二人の関係性は変わらい。

 この五年で積み重ねてきたものは簡単に崩れないはずだ。

 信じよう、これまで歩んできた道を。

 覚悟を決めて言おうとしたとき、空から雪が降ってきた。

 夜空に舞う白い花は、ゆっくりと二人の間に落ちる。


「雪……」


 俺がそう言ったとき、千星が走り出した。

 理由は分からない。でも追いかけないとと思い、その背中を追った。 

 横断歩道の手前で追いつけそうだったが、視界に二つのものが目に入る。


 一つは空を見上げながら渡る女の子、もう一つは速度を落とさず横断歩道に向かってくる車だ。


「千星」


 危ないと思い叫んだが、一向に止まる気配がない。

 そしてそのまま横断歩道に入った千星は女の子を抱き寄せた。


――守らなければ


 その想いだけが足を動かし、俺は千星の背中を押していた。

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