空は夜を纏い、星を掬う②
日曜日は晴天に恵まれた。青が広がる世界に白い雲が漂う。
待ち合わせしていた駅には少し早めに行ったが、すでに千星が来ていた。
その姿を見たとき思わず息を呑んだ。
いつもよりおしゃれをしていて、すごく可愛かったから。
そのことを伝えようかと思ったが、恥ずかしかったので代わりに冗談を言った。
最初に行ったのはカフェだった。
そこで食事をとった後、コーヒーを頼む。
千星はクリームソーダだった。アイスとクッキーで作られたくまが乗っかっている。
服装を褒めるタイミングを計っていた。やっぱり可愛いと伝えたい。
いつもと違うからにはきっと理由があるだろうし、何より本当に可愛い。
だけど普段はあまり言わない言葉だったから、少し照れ臭かった。
「可愛いね」
千星を見ていたら目が合ったので、思わずそう言ってしまった。
「え?」
時間が止まったように茫然としたあと、千星は急にあたふたし始めた。
それを見ていたらこちらまで恥ずかしくなり「くま、可愛いね」と小さな声で誤魔化した。
何故だか分からないが、アイスのくまの脳天にスプーンを入れ、怒っていた。
水族館でクラゲを見ている千星は子供のようだった。
その姿がとても愛おしく感じる。
今度はちゃんと言おう、そう思い「可愛い」とクラゲを見ながら言った。
千星はクラゲのことだと思ったみたいだったが、服装のことだと伝えると頬を赤らめて照れ始める。
そして訳の分からない独り言を言いはじめると、周りの人が笑いながらこちらを見てきた。
少し恥ずかしかったが千星らしいなと思い、自分も頬を緩めた。
クラゲを見終わると千星は小さな声で「ありがとう」と呟いた。
たぶん俺には届いていないと思っているだろうが、ちゃんとお礼は耳に入った。
街に施されたイルミネーションは、夜の底に幻想的な光を散りばめていた。
木々を伝う青い電飾が幻想的に足元照らしている。
人波で溢れる大通りを千星と歩いていた。
このあと俺は気持ちを伝える。
隣で歩く千星は、今なにを思っているのだろう。
もし「好き」と伝えたら驚くかな?
そのときはどんな顔をするだろうか。
絡み合う思考が心臓まで締め付ける。
駅前に着くと、ロータリーの中央にある大きな木が、LEDによってクリスマスツリーになっていた。
告白するタイミングは何度もあったが、この関係性が壊れるかもしれないと思うと、言葉が喉元から落ちていった。
でも、ここを逃したらもう言えないような気がしたので、胸臆の言葉を拾い集め、慎重に縫い合わせる。
最初で最後の告白になるかもしれないから。
横断歩道を渡り、駅の出入り口の手前まで来た。
まだ覚悟が決まっていなかったため焦っていたが、千星が立ち止まってツリーを見始めた。
運が良いと思った。
この隙に心の準備ができる。
何度も深呼吸して、鼓動の速度を緩めた。
ツリーのてっぺんに光輝く星があり『想いが届きますように』と願いを込める。
もし叶うなら、すべてを賭けて千星を幸せにする。
「今日は楽しかった。ありがとう」
千星がこちらに体を向けて言ってきた。
「俺も楽しかった」
思わず笑みが零れた。本当に楽しかったから。
千星は大きく息を吸ったあと「あのね、蒼空……」と、目を見てきた。
だが、そこから言葉が止まった。
待っていたが千星は俯いたまま何も話さない。
なので俺から先に話そうと思った。
「千星、ずっと言おうと思ってたことがある。俺、好きな人がいて……」
「ちょっと待った」
千星は息を整えながら、自分を落ち着かせようとしている。
もしかしたら気づいたのかもしれない。俺が好きなのは千星だと。
この反応を見る限り、上手くいきそうにないと思った。
あたふたしているのは、どう断るかで悩んでいるからかもしれない。
ごめん、迷惑をかけて。
きっと辛い思いをさせてしまうかもしれないけど、それでも言わせてほしい。
「千星、聞いてほしい。俺、好きな人がいて……ずっと言えなかったけど……」
この先の言葉を伝えたら、もう今までのようにはいられないかもしれない。
なら、仲の良い幼馴染のままの方が……
こんなときに臆病が顔を出す。
あの頃となんにも変わってない。
大事なときほど勇気は背を向ける。
そして立ち止まっている間に、その背中は離れていってしまう。
振り向かせるためには、自分も前に進まないといけない。
それを教えてくれたのは千星だった。
もし断られても、二人の関係性は変わらい。
この五年で積み重ねてきたものは簡単に崩れないはずだ。
信じよう、これまで歩んできた道を。
覚悟を決めて言おうとしたとき、空から雪が降ってきた。
夜空に舞う白い花は、ゆっくりと二人の間に落ちる。
「雪……」
俺がそう言ったとき、千星が走り出した。
理由は分からない。でも追いかけないとと思い、その背中を追った。
横断歩道の手前で追いつけそうだったが、視界に二つのものが目に入る。
一つは空を見上げながら渡る女の子、もう一つは速度を落とさず横断歩道に向かってくる車だ。
「千星」
危ないと思い叫んだが、一向に止まる気配がない。
そしてそのまま横断歩道に入った千星は女の子を抱き寄せた。
――守らなければ
その想いだけが足を動かし、俺は千星の背中を押していた。




