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八 妖精との再会

「やばい。もうこんな時間だ」


 時間を確認して唖然とする。

 放課後、昨日のリベンジを果たそうと、再度図書館に行こうとしたが、先生に呼び止められたのだ。どうやら転校してきた際に提出した書類を一部修正する必要があるとのことで、そのまま職員室に連れていかれた。しかもついでに書類整理の手伝いに駆り出され、この時間まで作業をしていたのだ。人使いが荒い担任だ。


 思ったより時間がかかってしまったが、まだ図書館は空いてる時間だろう。急いで図書館に向かう。

 

 図書館は相変わらず人がほとんどいなかった。単純に時間のせいなのか、そもそも人気がないのか。

 受付を確認すると、昨日も会った女性がいた。九条エルセさん。周囲に人がいないことを確認して、話しかける。


「すみません。委員長いるかな?」

 

「……」


 九条さんはこちらジッとみると何か思案するような顔をした。もしかして――


「……あ、生徒会の」


 ――思い出してもらえて何よりだ。

 

「そうそう。委員長に届け物があって」

 

「……ちょうど楓さんは出てしまいました。先生に呼ばれていたのでもしかしたら戻らないかもしれませんが……」


 タイミング悪かったか……。


「ありがとう。じゃあ昨日みたいにどこかで待っているよ」

 

「わかりました。ではもし戻られたらお呼びします」

 

「え? いやわざわざ大丈夫だよ。仕事の邪魔してしまうし」

 

「いえ、もう誰もいませんので」


 周りを確認する。

 ちょうど一人図書館から出たところでそれ以外は誰もいなかった。

 この図書館過疎っているな……。


「ごめん。ではお言葉に甘えて。お願いしてもいいかな?」


 九条さんが頷くのを確認して、受付から離れる。

 少しテンションが上がる。早く書類を提出したいから残ったというのもあるが、図書館を散策してみたかったのだ。昨日行けなかった二階にも興味があるし、まだ見ぬ本を探しに行きたい。

 

 まずは二階に向かう。巨大な螺旋階段を登ると二階は自習室がメインとなっていた。長机と椅子が綺麗に並べられているのみで殺風景だ。

 

 ブラブラ歩き回ってみるが、長机と椅子以外何もない。勉強するには誘惑がないから最高の環境だろう。まあ、誰もいないけど。

 

 部屋の角の端にひっそりと本棚があったので近寄ると、資格取得の参考書が並べられていた。簿記検定、秘書検定、ファイナンシャルプランナーなど様々な種類が用意されていた。

 簿記検定を手に取る。傷一つなくすごい綺麗だ。使用の形跡がない。最近発行されたのだろうか。発行年を確認すると十年前だった。

 

 ………………。

 

 見なかったことにして本を戻す。

 

 特に他に見るところもなかったので一階に戻る。

 ついでに受付を確認すると、変わらず九条さんが一人でいた。本を片手に席に座っている。まだ委員長はいなそうだ。

 

 昨日訪れた本棚の近くに行こう。昨日借りた「緑川の歴史」が入っていた場所は大きな空白となっていた。空いたスペースには隣の寄りかかっていたと思われる本が倒れていたので、なんとなく直す。

 

 ふらふらとあたりを回る。誰もいないので気にせず色々見れて嬉しい。気になった本を頭にメモしながら一階を一周する。昨日はあまり回れなかったが広いな。

 メモした気になる本を本棚から引っ張り出して、席で読む。


 ………………。

 …………。

 ……。


 人の気配を感じてふと目を上ると、目の前には九条さんがいた。

 

「……もしかして委員長戻ってきたかな?」


 九条さんは首を振り、

 

「いえ。楓さんからは返信はないのですが、もう閉館時間でして戻ってこないと思います」


 壁時計を確認するとだいぶ遅い時間になっていた。来るのが遅かったとはいえ、思ったより長居してしまったらしい。


「そうなんだ。連絡とってくれてありがとう」

 

「いえ。……明日は楓さん、いえ、委員長はいる予定ですが、書類はどうしますか? 明日また来られますか?」


 明日渡せればいいけど、もし渡せなかった場合、休みを挟んでしまうな。流石にそれは避けたい。

 

「……お手数おかけして申し訳ないけど、書類渡してもらってもいいかな?」


「はい」


 感謝の言葉とともにバッグからクリアファイルを引っ張り出す。九条さんはそれを受け取ると、


「あの……お名前はなんて言いますか?」

 

「……ああ、自己紹介がまだだったね。麻倉、麻倉麻胡と言います」

 

「……生徒会の麻倉さん。楓さんにはそう伝えておきます」

 

「ありがとう。とても助かるよ」


 九条さんに再度感謝を伝えて帰り支度をする。


「あ。今日も本借りたいんだけど……。昨日も借りたけど、同時に複数借りることはできるかな?」

 

「はい。同時に最大十冊まで借りることができます。……では受付にいます」


 九条さんは一礼して受付に戻っていった。

 昨日みたいに待たせてはいけないので、急いで準備してすぐに追いかけた。

 受付の机に、借りたい本と一緒に生徒手帳も置く。

 九条さんは生徒手帳をスキャンし、本も同じように専用の機械にスキャンした。


「……」


 モニターと本の表紙を交互に見比べていた。


「……」

 

「……」


 デジャヴを感じる。転校してきたからなにかシステム的に生徒手帳が上手く反応しないのだろうか。

 

「……もしかして本を借りれないかな?」

 

「……いえ。問題ないです。返却期限は二週間後です」


 生徒手帳と一緒に本を受け取り、バッグにしまう。

 九条さんに再度お礼を言ってその場をあとにした。

 昨日借りた本と今日借りた本、どちらを夜読もうか悩む。嬉しい悩みだ。

 

 ちなみに、翌日も図書館に行ってみたが図書委員長には結局会えなかった……。


 

 




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