四 帰宅後の日課
「ただいま」
五月にしては寒い空気を背に玄関の扉を開く。
洗面台に向かい、手を洗い、口をゆすぐ。そして自分の部屋に向かい、荷物を置く。引き出しから部屋着を引っ張り出すと、浴室に入りシャワーを浴びる。身体を乾かし、リビングに向かう。冷蔵庫から水をとり、朝洗ったばかりのコップに注ぎ、身体に流し込む。飲み終えた後、椅子にもたれかかる。
ここまでが帰宅時のルーティンだ。
「ふう」
思わず声が出る。
しばらく休んでいたが、ご飯をまだ食べていなかったことを思い出したので、冷蔵庫から長期休み中に作った野菜炒めと冷凍したご飯を電子レンジに移す。
そうえば電子レンジっていつから回らなくなったのだろうか。
昔家にあった電子レンジはターンテーブルだったこともあり、温め中は回転していた。しかし、最近購入した目の前の電子レンジは回らない。
なぜ変わったのだろう。温めムラを改善した結果なのだろうか。昨今の技術の発展はすごい。
ゆくゆくは電子レンジなんてものは無くなり、冷蔵庫が冷凍・冷蔵から食材の温めまでやってくれるかもしれない。ただその頃には生きていないだろうな。
……いやそもそもそんな機能がつくわけないか。
そんなくだらないことを考えている間に、ご飯が温まったので野菜炒めと入れ替える。
野菜炒めが温まったのを確認して、手を合わせて夕食を食べる。
再度手を合わせて、空になった皿を流し台まで運び、スポンジを片手に擦る。
皿洗いを終え、時計を確認すると、時間は九時も半ばが過ぎようとしていた。
スクールバッグから教科書を取り出すと、今日の復習と明日以降の予習を始める。仮にまた転校になった際、転入試験を通過するために、毎晩勉強は欠かさない。中学から続けているルーティンだ。数学、英語、歴史と今日の授業を振り返る。
音のしない静かな空間に時計の秒針の音と時々ノートがシャーペンに擦られる音が響く。
勉強が終わったのは十時半だった。
勉強道具を片付けると、台所に立つ。空いているコップに黒い粉末を入れ、ポットからお湯を注ぐ。香ばしいビターな香りが広がる。スプーンで一度混ぜた後、一緒に用意していた蜂蜜を適量入れる。再度スプーンで混ぜる。特製蜂蜜ココア、略してココミツの完成だ。
「ふふふ。一日の終わりはこれを飲まないとな」
席に座り、ゆっくり口をつける。
うん。美味しい。
今日も問題なく美味しいことを確認して、寝室から飲みながら読む予定の本をとってくる。
題名は「犬でも猿でも雉でもわかる将棋」。なぜか某昔話が関係してきそうな題名だが中身は至って普通の初心者向けの将棋本だ。最近テレビでふと目にし、将棋にハマったのだ。
「なになに、今日の戦法は……右四間飛車か。よし読んでみよう」
特製蜂蜜ココア、略してココミツを飲みながら本を読み進める。
この時間が至福だ。この瞬間のためだけに生きていると言っても過言ではない。
日付が変わる頃まで堪能し、ベッドに入って一日を終えた。
もし本作品について、少しでも良いなと思いましたら、ブックマークや評価、感想などしていただけますと大変幸いです。投稿の励みにさせていただきます。