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三十八 小鳥の憂鬱

 私の名前は、美濃(みの)小鳥(ことり)

 母に父に、幼い頃から、籠の鳥のように小鳥ちゃん小鳥ちゃんと蝶よ花よに大切に育てられた女の子は、今年高校二年生になった。

 

 好きなものはライトノベル。特にハーレムもの。一人の男を巡って可愛い女の子が争うのが好き。可愛い女の子が頑張ってアタックするのをニヤニヤしながら見るのが特に好き。


 でも、最後に誰か一人を選ぶハーレムものは嫌い。みんな幸せになるのが好き。男なら全員を幸せにしなさいよ!


 ……こほん。


 てっきり現実世界でもそんな色恋沙汰が見れると思ったらそんなことはなかった。

 中学、そして高校にあがってもそんなラノベみたいな恋愛はなく、強いて言うなら浮気とか修羅場はあったけど、そういう話は好きじゃないし……。


 でもきっといつか実際に見ることはできるはず! との思いで、恋愛イベントが発生しがちな体育祭(緑風祭)委員になったのだが……。


「やっぱり現実は違うのかな」


 怪我した女の子をお姫様だっこして保健室に運ぶとか、告白をかけて勝負するとか、そういうイベントは残念ながらなさそう。


「はあ……」


 ため息が口から漏れる。


 仕方ない。仕事に集中しよう。


 借り物競走のゴール係。ゴールした人のお題カードを受け取り、問題なければ、待機エリアに案内する係だ。

 特に大変ではない。昨年は変なお題があったらしいが今年は厳しくなったそうで気が楽だ。


 今はちょうど二年生女子の番だ。


 手を繋いでゴールに向かってくる男女が見える。女性が男性の手首を掴んで走ってきていた。

 よく見るとその女性は私の代の入試首席だ。入学式の際に新入生代表で壇上に立っていた。話したことないけど、名前は深澄ちゃん。ちっさくて日本人形みたいでとても可愛い。


 お題カードを受け取り内容を確認する。

 「気になる異性」と書いてあった。


 ……ほうほう。


 思わず口元が綻ぶ。


 深澄ちゃんの方を見ると、顔を赤くしていた。走った影響もあるかもしれないが、きっとそれだけではないだろう。

 男性の方はきょとんとしていた。この様子だとお題の中身を知らない?


 いいね、いいね。甘酸っぱいな。


 しかしあの深澄ちゃんがね。小さくて可愛いくて、頭を良くて、男子にも人気のある子なのに。そうえば話しかけづらい雰囲気だったけど、最近は柔らかくなったって男子たちが話題にしていた。

 これは落ち込む人も多そうだ。


 深澄ちゃんにお題カードを返して、待機エリアに案内する。

 ふふ、いいものをみれた。


 

 

 




 ★


 続いて一年生の借り物競走だ。ちなみに、男子の借り物競走中は休憩している。流石にぶっ続けでやると倒れてしまうからだ。熱中症には委員長もめちゃくちゃ気をつけていた。


 先ほどと同様に、ゴール前に立ってお題を回収する。


 周囲がざわめく。

 何事かと思えば、次に九条さんが出るようだ。

 緑川の妖精。雪の令嬢。色々な呼び名で呼ばれている子だ。雪のように白い肌、プラチナブロンドの髪に、グリーンの大きな瞳。まるでファンタジー世界の住人のよう。


 そして不思議なくらい男性の影がまったくない。それが人気に拍車をかけ、ファンクラブも創設されている。かくいう私も入っている。

 仲良くなりたいけど、ファンクラブのルールで話しかけてはいけない。仮に破ってしまうと恐ろしいことになるとの噂だ。まあ私は見守りたいタイプなので問題はない。


「あの……」


 気付いたら目の前に妖精がいた。

 どうやらお題を持ってきたらしい。


「すみません、確認しますね」


 お題カードを受け取り、中身を確認――


 !!!!????

 

 「仲良くしたい異性」だと?

 ついにエルセちゃんにも男の影がきたのね。

 世の男は落胆するだろう。でも私は全力で応援するよ!

 

 その羨まけしからん男を確認しようと、顔を上げる。


 んんん?


 ……どこかで見たことある顔だ。


 あ、さっき深澄ちゃんに連れられていた男!


 エルセちゃんにお題カードを返し、怪しまれないように盗み見る。


 中肉中背で特に特徴はなさそうな風貌だ。

 人気があるようには見えないが……。強いて言うと優しそう。

 って私は誰かを評価できる立場ではないし、人の好みはそれぞれだ。


 彼はお題の内容に気づいていなさそうだ。もし私が彼の立場ならお題を知ったら挙動不審になる自信がある。むしろ自信しかない。


 羨ましいな。青春だなあ。

 彼がどちらを選ぶのか、もしくはどちらも選ばないのか。

 余計なことをせず私は遠くから見守ろう。





 


 ★


 借り物競走の最後は、三年生女子だ。

 そして私の最推しの人が出る。推しに会いたいがため、ゴール係に立候補した。お題カードを受け取る際に近くにいることができるからだ。


 まるで吸い込まれるような大きな目に、潤いを帯びた唇。触れるだけ傷がついてしまいそうな透明な肌。

 才色兼備で完璧超人。私の憧れ。


 冬月(そよづき)夜会長。


 一度だけ、話したことがある。取り留めない内容だったが、私はそこで惚れてしまった。何とかお近づきになりたいが、きっと迷惑になってしまう。会長は色々な人が周りにいるのだから。だからせめてこの程度の接触だけは許してほしい。


 周囲がざわめく。

 会長は次のレースだ。会長はいるだけで雰囲気が変わる。注目を浴びる。


 はぁ、足が長いな、肌が綺麗だな。白い陶器みたいで傷ひとつない。


 会長がお題カードを手に取り、校庭を駆けた。


 はぁ、走る姿もお美しい。

 

 そうえば一瞬お題カードを見て、動きを止めていたな。いったい何が書いてあったんだろう。


 会長はすぐに戻ってきた。


 て、てて、


「手を繋いでいる!?」


 会長が男の人と手を繋いでゴールしていた。ゴールしてすぐに手を離していたが、初めて会長が男性と肉体的接触をしているのを見た。


 どういうこと!?


 いったいその男の人は誰なの!?


 まさかの状況に心臓がバクバクする。


 彼氏!?

 いやそんな話は聞いたことないし、もしそうなら学校中がざわめくはずだ。


「お題カードのご確認お願いします」


 会長がお題カードを手渡してくれる。


 うわ、まつ毛長い。それに肌とてもきれい。どうして同じ女の子なのにこんなに違うのだろう。尊い。


 ってお題カード確認しないと。折り畳まれたカードを開く。


「…………!!」


 そこからの記憶がない。

 気づいたら、会長は待機エリアが移動しており、男の人はすでにいなかった。


 あれ?


「わ、私ちゃんと案内していた?」


 近くにいた待機エリアの案内係に聞く。同じクラスの友達だ。


「?? 普通に案内していたけど?」


「ほんと!?」


「う、うん。ことちゃん何かあったの?」


「い、いやなんでもない! ありがと」


 記憶はないようだが、どうやら案内はしていたらしい。あまりの衝撃に我を忘れていたようだ。


 せっかく会長が目の前にいたのにもったいことをした〜!


 思わず地団駄踏みたい気持ちに駆られてたが、人の目があることを思い出して堪える。


 しかし、会長のお題……。

 絶対誰にも言わないけど、誰かとこの驚きを共有したくなる。


 そうえば、男の人どこかで見たことあるな。

 中肉中背で優しそうな男……。


「あ!」


 深澄ちゃんとエルセちゃんと一緒にいた男だ!


 いったいどういうことなのだろうか。

 綺麗どころばかりと一緒にいて、なぜそんなにモテるのだろうか。


 彼よりもイケメンな人はいるはずなのだが……。

 って勝手に語るのは失礼か。


 よし、この恋愛模様を私は観察者として見守ろう。


 まるでラノベみたいな出来事が現実に起こるなんて!

 今日はいい日だ。





 

 



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