三十五 後輩と借り物競走②
「エルー! ごめんね? 話しかけちゃって」
借り物競走を終え、クラスの待機エリアに戻ると、莉子ちゃんが話しかけてくれる。
「とんでもないよ、私がよそ見していただけだから」
「大丈夫? 怪我はない?」
莉子ちゃんが心配そうに覗き込んでくる。
莉子ちゃんは少しのことでも心配してくれる。ありがたいけど、この前は壁に肘をぶつけただけで、保健室へ連行されそうになった。私はそんなにやわに見えるのかな。
「うん、大丈夫だよ。転びそうなところを麻倉さんに助けてもらった」
その言葉を聞くと、莉子ちゃんは心配そうな顔から一転ニヤニヤし始めた。
なんだか嫌な予感がする。
「抱きしめてもらってよかったね!」
「莉子ちゃん!? 違うよ、転びそうなところを助けてくれたんだよ」
「でも結果的には同じようなものでしょ? どうだった?」
「どうだったって?」
「麻倉さんの感触」
「……そんなの覚えていないよ。無我夢中だったし。それに変な言い方しないでよ」
「でもわかりやすいでしょ? 腕は固かった?」
「固かったけど……って、あ」
「ほら! やっぱり覚えているんじゃん! もしかしてちょっと顔が赤いのは走ったんじゃなくてそれが原因かー?」
「ち、違うよ。暑いだけだもん」
片手を団扇にして仰ぐ。
「照れちゃってー! 可愛いな、エルは!」
莉子ちゃんが猫みたいにくっついてくる。
女の子らしく柔らかい感触だ。否応なしに先程麻倉さんに支えられた感触と比較してしまう。
初めて男の人に触れたけど、思ったよりも固かったな。筋肉なのだろうか。
「エルー? 大丈夫? 顔赤いよ? ごめん、くっつきすぎた?」
莉子ちゃんが離れて、心配そうな顔をする。
「うんうん、大丈夫、走ったからちょっと暑いだけ」
「そう? 無理しないでね? はいお水」
莉子ちゃんが私のお水を渡してくれる。お礼を言って飲む。太陽のせいで、少し温くなったけど、美味しい。
「顔も戻ったし、その様子だと大丈夫そうね」
原因はそれではないけど、頷く。わざわざ自分で墓穴を掘る必要はない。
「そうえばエルー? なんで麻倉さんと走っていたの? まさかお題?」
「うん、お題が麻倉さんだったからお願いして」
「ほうほう。それで?」
「それだけだよ」
「ふーん、お題カードにはなにが書かれていたの?」
「二年生の男子」
「本当?」
「本当だよ」
莉子ちゃんが疑いの目で見てくるが、平常心で答える。
「ふーん。……とりゃ」
莉子ちゃんはそう言うと私のズボンのポケットからお題カードを取り出した。
「莉子ちゃん!?」
慌てて取り戻そうとしたが、莉子ちゃんに防がれる。
「エル待って! お題確認するだけだから」
「お題言ったでしょ! 私のことを信用していないの?」
「いつもは信用していけるど、今はしてない!」
莉子ちゃんがお題カードを広げて確認した。
「あ……」
「あれれ、あれれれれ、エルー? なんかお題の内容違うんですけど? 二年生男子じゃないんですけど?」
莉子ちゃんがお題カードをヒラヒラして、ニヤニヤしてこちらを見る。
だから言いたくなかったのだ。
「莉子ちゃんからかうでしょ? そんな深い意味ないのに」
「ふーん。深い意味、ね。『仲良くしたい異性』っていうのは深い意味じゃないのかな?」
莉子ちゃんがずっとニヤニヤしている。
「麻倉さんには勉強会で助けてもらっているし、それに図書委員活動でも関係しているからだよ」
莉子ちゃんには図書委員の活動で生徒会と連携していることは話している。
「そっかそっか。そう言うことにしとこう。これ以上言うとエル拗ねるからね」
「莉子ちゃんー?」
「ごめんごめん、これありがとう」
莉子ちゃんがお題カードを丁寧に折りたたんで渡してくる。
「あ、今ちょうど借り物競走の三年生女子の部が始まるよ!」
莉子ちゃんが校庭を指差す。
色々言いたいことはあるけど、このまま話が終わらせてしまおう。このままだとずっとからかわれそうだし。
莉子ちゃんからお題カードを受け取り、大事にポケットに入れて、莉子ちゃんが指差す方向を見た。




