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三十四 後輩と借り物競走

「お疲れ」


 借り物競走から戻った俺を純平が出迎えてくれる。


「お題はなんだったんだ?」


 デジャヴを感じる。


「いや教えてくれなかった」


「マジ?」


「マジ」


「隠すなんて、もしかして好きな人とかじゃね?」


「いやそれはないだろ」


「いやいや昨年校長のカツラをお題にしたんだぞ? そういうお題もありえるだろう」


「今年から緑風祭委員長が最終確認することになったからないでしょ」


「じゃあ、実は嫌いな人とかか?」


「なんでだよ!」


 もしそうだったならショックだ。

 お題は見せてくれなかったが流石にそうではないと信じたい。


「流石にそれだと落ち込むけど、転校生じゃないか?」


 そうであってほしい。


「あーそうかもな」


 純平が納得したように頷く。


「しかし羨ましいぜ。俺も女子に連れていかれたい」


「……」


「なんだよ?」


「……いやなんでもない。じゃあ借り物競走に出ればよかったじゃん」


「麻胡、なにもわかってないな! 俺は女子に連れていかれたいんだよ! 連れて行くんじゃなくて連れていかれたい! わかるか?」


 純平が力説する。


「……」


 わからない。

 というかわかりたくない。


 こんな話をしていては不毛なので校庭に目をうつす。


「今は一年女子の番だな」

 

 純平が呟く。

 二年男子、二年女子に続いて一年男子が終わり一年女子の番が始まっている。


「お、緑川の妖精が出ているぞ」


 純平の視線の先を追うと、九条さんがいた。

 ハーフということもあり、日本人離れした容姿はよく目立つ。

 

 次のレースに出るようだ。

 合図と一緒に走り出す。


「しかし、麻胡いいよなあ」


「なにが?」


「緑川の妖精と知り合いなんだろ?」


「知り合いというか、生徒会関連で関わっているだけだよ」


「本当か?」


 純平がジロッとこっちを見る。


「本当だよ」


「……ネタは上がってんだぞ、麻胡」


「ネタ?」


「放課後、九条さんと二人で図書館で勉強していたらしいじゃないか」


 純平が再度ジロッと見てくる。


 放課後?

 ああ、もしかして中間テストの勉強会のことを言っているのか。

 

「いやそれはそもそも二人じゃなくて――」


 そう言いかけたところで、純平が人差し指を自分の口に当てる。

 思わず黙る。


「見ろ、緑川の妖精が近くに来ているぞ」


 俺の後ろの方を見ているので、振り返ると九条さんが近くにいた。

 辺りをキョロキョロしており、何か探しているようだ。借り物競走の最中だし、お題を探しているのだろう。


「くー! やはり可愛いな!」


 純平が口に出す。

 

 よく見ると、周りの生徒がみんな九条さんを見ていた。

 純平のように、可愛いと呟いている人も男女問わず多くいた。


「お題は佐藤純平ってないかな?」


 純平がソワソワしながらそう言う。


「何をアホなことを言っているんだ」


「いやだってさ……って……え?」


 純平が途中で言葉を区切るといきなりアホ面で呆ける。

 

「どうした、純平。暑さでついにヤラれたか」


「い、いや、妖精が」


「?」


 純平が俺の後ろを見たまま固まる。


「どうしたんだ、いったい」


 後ろを振り向くと、


「……麻倉さん」


 九条さんがいた。


「え? ああ、九条さん。お疲れ」


「お疲れさまです、麻倉さん」


 九条さんが一礼する。


「今借り物競走だよね? もしかしてここら辺にお題が?」


 先程からこの辺りをうろうろしていたのだ。お題は何か二年生の持ち物だったりするのだろうか。


「はい。探しにきました」


「お題はなに? 何でも貸すよ」


「ありがとうございます。ただお題は品物じゃなくて――」


 少し言い淀む九条さん。


「じゃなくて?」


「――麻倉さん、借りてもいいですか?」


「もちろん。何を渡せばいい?」


「……いえ、ものではなくて、麻倉さんを借りたいです」


「……俺?」


 こくん、と頷く九条さん。


「お題が俺……?」


 こくこく、と頷く九条さん。


「一緒に来てもらえませんか?」


 九条が伏目がちに言う。


「え、いやもちろん俺で良ければ」


「ありがとうございます」

 

 九条さんが笑顔を見せる。花が咲いたような笑顔だ。


「うう!」


 周りで胸を押さえて呻く男子たち。


「可愛い……」


 口々に呟く声が聞こえた。


 九条さんは気付いていなさそうだが、ここら一帯の視線を独占している。周囲を見渡すと視線がぶつかる。


 早く移動したほうがいいだろう。


「よし、じゃあ行こうか」


「はい」


 ゴールに向けて二人走り出す。

 視界の端に純平がうつる。純平はサムズアップで見送ってくれた。

 ただ顔を見る限りにこのあと事情を話す必要があるだろう。事情といってもたまたまお題に合っただけなのだが。


「そうえば、お題ってどんな?」


 走りながら横にいる九条さんに聞く。


「えっと、色々です」


「色々?」


「あ、いえ。ゴールしてからお話ししてもいいですか?」


「了解」


 確かに今話す必要はない。ゴールして落ち着いてから話そう。

 ゴールを見るとほとんどの人が到着していた。


 九条さんと顔を合わせ、ペースを上げる。

 と、その時――


「エルー! 頑張れ!」


 遠くから声が聞こえた。莉子ちゃんだ。手をブンブン振っている。


「あ、莉子ちゃん」


 九条さんが手を振って反応する。

 が――


「きゃっ」


 よそ見していたこともあり、九条さんがバランスを崩して転ぶ。


「おっと」


 間一髪で間に合った。

 両腕を伸ばし九条さんの身体を支える。柔らかく、それでいて少しひんやりした感触が伝わってきた。


「きゃっ!」


「ご、ごめん。思わず掴んじゃったけど、大丈夫だった?」


 九条さんから手を離す。


「いえ、ありがとうございます。こちらこそすみません」


「怪我はなさそう?」


「はい、おかげさまで大丈夫です」


「よし、では行こう」


「はい!」


 特にそれから転ぶようなこともなく、無事にゴールができた。

 深澄の時と同じように、係の人に九条さんがお題カードを渡す。あ、深澄の時と同じ女性だ。体操服の色からして三年生だろう。

 女性は、お題カードを確認し、九条さんを見て微笑むと、俺の顔を見て目を見開いた。


 ……なんか驚いているな。

 もしかしてお題に沿わなかったんだろうか。

 

 そわそわして待っていたが、すぐにゴール待機エリアに案内された。

 なんか背中に視線を感じるな。さっきの係の女性の人だろうか。


「麻倉さん?」


 九条さんの声にハッとする。

 まあ気のせいだろう。


 急いで九条さんのもとに向かった。



  

 

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