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三十三 同級生と借り物競走

 借り物競走のお題は筆箱だった。簡単なお題なため、一位でゴールテープを切ることができた。

 他の走者の様子を見ても特におかしいお題はなさそうで、みんな無事お題の品物を手に入れ、ゴールしていた。


「お疲れー」


 純平が出迎えてくれる。


「お題はなんだった?」


「筆箱」


「筆箱!?」


 純平が驚く。


「おいおい、今年のお題はそんなに簡単なのか!?」


「いや今年とかじゃなくて去年の純平のお題だけおかしかったんだよ」


 校長のカツラなんて無理ゲーだ。


「ちぇ、第二の俺が生まれることはないのか」


 なんだ、第二の俺って。


「今年から緑風祭委員長がお題はチェックしているから、去年みたいなことはないよ」


「……いやもしかしたら一個だけ入れているかもしれない!」


 純平がそう言って絶賛競技中の校庭を眺める。


「二年男子が終わって今は二年女子の借り物競走だな」


「そうえば深澄も借り物競走出てるって」


「まじ?」


「確かそう言っていたよ」


 朝勝負の話をする際にお互いの参加種目の話をしたのだ。


「うーむ。深澄、深澄」


 そう呟いて目を凝らす純平。


「あ、いたぞ。ちょうど今のレースだ」


「よく見えるな。俺まったく見えないぞ」


「ふふ。ここの出来が違うのさ」


 不敵な笑みを浮かべて純平は自分の頭を指差す。

 無性にムカつく。


「ん、んん? おいおい」


 純平がいきなり焦ったように呟く。


「どうした?」


「いや深澄がすごい勢いでこっちに来るぞ」


「……?」


 確かに、日本人形のような髪型をした小柄な女の子がこっちに向けて走ってきていた。肩まで伸ばした毛先が揺れる。深澄だ。

 

「お題がこっちにあるんじゃないか?」


 俺のお題も筆箱だったし、自分の荷物を取りに来たのかもしれない。


「いや、ピンポイントで来ているんだよ。目がなぜか合うし」


 純平が訝しげに言う。


「気のせいじゃないか?」


「いやいや、ってほら」


 純平が言うように深澄が目の前にいた。


「どうした?」


「麻胡。ちょっと来なさい」


 深澄が腕を引っ張り走り出す。


「うおっ」


 いきなり勢いよく引っ張られたため、バランスを崩し小柄な深澄に覆い被さるようにぶつかる。


 男子とは異なる柔らかい身体の感触だ。


「ご、ごめん」


「いいから、早く!」


 胃に介さず深澄が腕を引っ張って走る。

 とりあえず合わせて一緒に走る。


「……いったいなんなんだ」


「借り物競走よ」

 

 思わず呟いた声に深澄が反応する。

 借り物競走?


「なんのお題なんだ?」


「そう言うのはあとに! いいからゴールするわよ」


 深澄が引っ張る力を強くする。いつの間にか手首を掴まれていた。


「お。おけ」


 全力疾走もあり、一位でゴールすることができた。

 ゴール脇で息を整える。


「はあはあ。……で、いったいなんのお題なんだ?」


 深澄が手に持っているお題カードを覗き込もうとしたが――


「ダメ!」


 隠された。


「おいおい、なんで隠すんだ?」


「う、うるさいわね。男なのに細かいこと言わないで」

 

 深澄がお題カードを後ろに持って見えないようにする。


「協力してくれてありがとう。おかげで一位になれたわ。ではまたね」


 深澄が焦ったように言う。そしてゴールした人の待機エリアに向かっていった。


「……」


 いったいなんだったんだ。

 なんのお題だったのだろうか。

 

 そうえば、ゴールするときお題カードの提出も一緒にするのだが、お題カードを確認した係の人がこっちを見て微笑んでいた。


 なんの笑みだったのだろうか。


 深澄に聞きたいがこの感じは教えてくれないだろう。あっという間に遠いところにいるし。


「ま、いっか」


 無事にゴールも出来たことだし、純平のところに戻ろうか。








 

 待機エリアで私は心臓を落ち着かせていた。順位を確認したら一位だった。あることがきっかけで、以前よりは順位に拘らなくなったがやはり一位というのは嬉しい。でも――


「くしゃ」


 ――いったいなんなのよ。なんでこんなお題があるのよ!

 

 思わず握りしめたお題カードが音を出す。

 慌てて広げる。

 

 ピストルの音ともに走り出して我先に受け取ったお題カードには「気になる異性」との文字が記載されていたのだ。


「こんなもの麻胡に見られなくてよかったわ」


 もし見られたらなんて言われるか。

 

 そもそも何故私は麻胡にしたんだろう。お題を確認した時、一番に麻胡の顔が浮かんだから一目散に探しにいったのだが、別に個人名は書いていないのだから、異性であれば誰でもいいはずだ。


 …………。


 あのことがあったからよね。先日中庭で話したことを思い出す。

 

 転入試験から今まで全てのテストで学年一位の麻倉麻胡。いつも冷静で、容易に高得点をとっているものだと思っていた。でもそんなことはなかった。麻胡も人並みに緊張すること、勉強を頑張っているには裏事情があったこと。

 なんでもそつなく対応するクールな印象を持っていたので本当に意外だった。

 それもあってすぐに顔が浮かんだんだろう。

 それに――


「私のライバルだしね」


 うん、ライバルだ。私のライバル。

 以前よりは順位に拘りはなくなったが、麻胡には勝ちたい。勝って私がすごいというところを見せたい。


 しかし――


「係の人ニヤニヤしていたわね」


 ゴールした時に、しっかりお題を持ってきたのか、お題カードを渡すのだが、係の人はお題を確認しながら私と麻胡のほうを見て微笑んでいたのだ。


 絶対変な勘違いをされた。


「そんなんじゃないのに!」


 ただのライバルで、連れてきたのには深い意味はないのに。


 まあ、ただわざわざ否定しにいくのもおかしいことだ。むしろ変に疑われそう。


 仕方ない。ここは静かにしといたほうが最善だろう。


 お題カードを丁寧にたたみ、体操着のポケットに入れ、他の走者がゴールするのを待った。





 


 

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