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三十二 後輩と緑風祭

 障害物競走は散々だった。

 障害物じゃない何でもないところで開始早々転けてしまったのだ。何とか気合いで挽回しようしたが最初の出遅れはカバーできず、六位でゴールした。


「もしかして麻胡しか見えない障害物があったのか?」


 と、からかってきた純平にパンチを入れて、先ほど会長に会った水道へ向かう。

 体操着は無事だが転んで拍子に腕が泥だらけになってしまったのだ。

 蛇口を捻り水を出す。幸いなことに怪我はしてなさそうだ。


「麻倉さん?」


 鈴を転がすような声がして振り返る。


「あ、九条さん」


 後ろに九条さんがいた。

 学校指定の体操着を着ており、そこから伸びた白い手足がまるで雪のようで眩しい。制服よりも露出がある分九条さんの白さが目立つ。


「先ほどは障害物競走お疲れさまでした」


「ありがとう。ってもしかして見てた?」


「はい。ちょうど次の競技に出る予定だったので近くにいました。最後は惜しかったですね」


 最後ということはもしかして最初に転んだところは見られてない?

 

「その怪我は初めに転んだときのですか?」


 心配そうな表情をして腕に目線を送る。

 あ、最初から見ていたのか。恥ずかしい。


「そうそう。汚れたけど、怪我なかったよ」


 腕を見せる。


「そうですか。それはよかったです」


 安堵の表情を浮かべる九条さん。

 人のことを心配できるなんて、なんていい子だ。

 純平なんてゲラゲラひたすら笑っているだけだ。実際にさっきバカにされたしな。


「九条さんも手を洗いに?」


「いえ、私はたまたま通っただけです。飲み物を買いに行っていて」


 と、片手に持っているペットボトルを見せてくれた。スポーツ飲料だ。


「麻倉さん、よかったらタオル使いますか?」


 九条さんが残りの手で持っていた白いタオルを差し出す。

 

「腕を拭くのによかったら」


「え。いやいや申し訳ないから大丈夫だよ」


「私は大丈夫ですよ。いくら暑くても乾くまで時間かかりますし」


 九条さんはそう言ってくれるが、流石に人のタオルは申し訳ない。


「……もしかして私の汗がついていると懸念していますか? 大丈夫ですよ、まだ何にも使ってないので」


 そう言ってタオルを渡してくれる。少し悩んだが、


「……ありがとう。遠慮なく使わせていただくよ」


「はい!」


 九条さんが微笑む。

 タオルを受け取ると、サボンの香りがした。

 水に濡れた腕を拭く。


「麻倉さんはこのあとまだ競技はありますか?」


「この後は借り物競走だけだよ。九条さんは?」


「私もあとは借り物競走だけです」


「お、同じだね。そうえば、借り物競走って去年ヤバいお題が混ざっていたらしいよ」

 

「ヤバいお題?」


「そう。校長先生のカツラとか」


「え! そんなの混ざっているんですか?」


 九条さんが目を開いて驚く。


「去年それを引いた知り合いがいてさ。めちゃくちゃ困ったらしい」


 その知り合いとは純平のことだ。


「そ、それでその方はどうしたんですか?」


「校長先生の頭を掴みにいったらしい。ただ――」

 

「ただ?」


「校長先生はカツラじゃなかったんだ」


「え」


「どうやら一部の緑風祭委員がふざけて書いたらしいんだ」


 呆然とした校長先生と怒り狂った生活指導に囲まれたって純平は言っていたな。

 

 ただ借り物競走のお題の紙を見せたら、純平のせいじゃないと言うことがわかり、お咎めなしになったそうだ。代わりにその緑風祭委員がめちゃくちゃ怒られたらしいが。

 

 でも純平はそれ以来借り物競走にトラウマがあるそうで、二度と出ないと決めているらしい。可哀想な話だ。


「それもあって今年からはお題はすべて緑風祭委員長が最後に目を通すことが決まったらしいから、そういうお題はないかな」


「そうなんですね。それはよかったです」


 ふーと息を吐く九条さん。


「エルー?」


 遠くで九条さんを呼ぶ声が聞こえる。

 二人して目線を向けると、そこには莉子ちゃんが大きく手を振っていた。


「何してるのー? もう玉入れ始まっちゃうよー!」


 どうやら九条さんを呼びにきたらしい。


「あ、では麻倉さんもう行きますね。借り物競走応援しています」


 一礼して、九条さんが急いで莉子ちゃんの方に向かう。


 離れる九条さんに手を振って気付いた。

 

 ……タオル借りっぱなしだった。

 

 いや流石に使用したタオルを返すのはないか。洗ってからで。でももし九条さんが必要だったら早く返したほうがいいよな。


 あとでティートで連絡するか。






 

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