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二十九 折田深澄_リバース

 折田友梨(ゆり)。私の双子の姉であり、今や飛ぶ鳥を落とすほどの人気を誇るアイドルグループ「ホッピングアワー」のセンターでもある。


 そして、昔から何をしても叶わない人。


 姉は本当に子どもの頃からなんでもできた。夏休みに書いた絵画はコンクールに入賞し、球技大会などがあれは必ず大活躍。テレビ企画のカラオケ大会では初出場で最年少優勝。これはあくまで一例だ。

 

 必然的に姉に対して、周りの期待は大きくなり、同時に私も双子の妹ということで期待される。


 だけど、残念ながら私はそんなに上手くできなかった。


 周りはそんな私に失望して距離を置いた。


 でもそんな私が唯一姉に勝ったことがある。それは勉学だ。何気ないただの小テストなのだが、姉に勝ったのだ。もっともその時、姉は芸能活動で忙しく、あまり勉強できていなかったのも裏事情はあるけど。


 でもそれから死ぬ気に勉強した。私が姉に勝てるのは勉強しかない。

 私の存在意義だ。私の存在価値だ。

 毎日朝から晩まで勉強した結果、テストは学年一位をキープし、緑川高校には主席で入学することができた。


 私はすごい。


 そう思ってたほくそ笑んでいたが――


「はー」


 思わず深いため息が出る。


 高校二年生の最初の中間テスト。

 私の順位は二位だった。今回だけではない。昨年の冬から二位が続いていた。

 原因は明らかだ。


 麻倉麻胡。


 あいつが転校してから私の順位は二位なのだ。


「はー」


 再度深いため息が出る。

 負けないようにテストも死ぬ気で勉強した。それだけでは勝てなかったので、麻倉麻胡についても調べた。

 

 緑川高校の転入試験を歴代最高得点で合格し、私とも同じ特待生の同級生。普段は佐藤純平と一緒におり、放課後はよく遊んでいる。体育はテニスが得意で持久走は苦手。得意科目は全教科で、苦手科目はなし。強いていうなら家庭科が苦手。でもそれは相対的だ。

 彼女はいない。学年一位で、顔も整っているほうだと思う。ただあまり純平以外と交流しているのを見ない。私の周りでも麻倉麻胡と仲良くしたいと話す子も多くいるから、もったいないな。絶対声かけるだけですぐに彼女なんて作れるのに。彼女はいらないのだろうか。

 

 …………?


 …………!


 もしかして私ストーカー?


 ……いやそんなことはない。ただの(ライバル)の分析だ。


 より詳しく調べたい。そう願っていたら、今年は同じクラスになった。(ライバル)をより知るために、ひなにお願いして、勉強会に入れてもらった。色々勉強方法を聞いて実践してみた。


 でも勝てなかった。

 また二位だ。私は一位になることはできないのだろうか。ずっと誰かの二番目なのだろうか。


 私の唯一の存在価値と言っていい、勉強でも叶わない人がいる。いったい私は何のために生きているのだろう。


「……」


 目が霞む。雫が太ももを濡らす。

 ここは校内の中庭だ。時間的には誰もいないはずだけど、仮に見られでもしたら大変なことになる。

 慌てて目を拭って周囲を確認したが――


「……!」


 目が合ってしまった。しかもあの麻倉麻胡だ。

 なんていうタイミング。そしてなぜ麻倉麻胡なの。今一番会いたくないのに。


 慌てて目線を下げる。どうか気付かれていませんように。


 しばらくして、


「お疲れさま」


 そう声がして顔を上げると麻胡がそばに立っていた。


「今期新作のココアだよ、ぜひ」


 差し出されたココアを受け取る。

 

 ……温かい。


「そうえば深澄、明日提出の宿題やった?」


「宿題?」


 何の話だろう。


「そう、英語の」


 そうえば明日提出の宿題があったな。


「やったわよ。麻胡は?」


「俺は――」


 と、取り留めない話を続ける。


 泣いていた理由を聞いてこない。きっと気付いていただろうに。その配慮がありがたかった。

 

 しばらく話したところで、麻胡が立ち上がり、帰ろうとする。


「……麻胡」


 そのまま別れの挨拶を口に出そうとしたが――


「聞かないの?」


 思わず意図しない言葉が口に出てしまった。

 え、何を言っているの私は。


 慌てて何でもないと言おうとしたが、麻胡は辺りを立ち去った後だった。


 よかった。聞かれていなかったみたいだ。


「ほら」


 気付けば麻胡がまた近くにいた。

 また缶を手渡してくれた。

 お礼を言って口をつける。今度はココアではなくカフェオレだった。


 …………。


 私はなんで口に出してしまったのだろう。

 もしかして誰かに聞いて欲しかったのだろうか。でもよりによってあの麻倉麻胡に対してだ、なんて。

 

 いや、でも知っている。きっと彼は私の話を真摯に聞いてくれることを。それでいて誰にも話さないで秘密にしてくれるはず。伊達に一年生の冬から見続けたわけではない。麻倉麻胡の人柄についてはその辺の人よりもよく知っていると思う。

 彼は人付き合いが多いわけではないが、人が真面目に相談していたら真摯に受け答えするし、誰かの秘密や悪口をおいそれ話す人ではない。


 …………。

 

 少しの間沈黙が支配する。


 意を決して口を開いた。


 双子の姉がいること。その姉が有名人で、昔から何でもできたこと。妹の私も期待されたが失望されてきたこと。姉との関係性。そして私がなぜ勉強を頑張るか。今まで親にすら秘密にしていたことを話した。

 話しすぎたかな。途中後悔の気持ちが出てきたが、全部話すことで少し胸のつっかえがとれた気がする。

 やはり私は誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。


 でも口に出して思う。


「はー。ただくだらないわよね。こんなことで落ち込んでいるなんてね」


 他の人にとってはくだらない理由なのだろうな。

 それでも私にとっては――


「……くだらなくない」


 思わず麻胡の顔を見る。茶化すような雰囲気はなく、真剣だった。


「それは本気でやった証拠だよ。それに俺も――」


 麻胡が自分のことを話してくれる。


 あの麻倉麻胡も緊張するのが意外だった。いつも冷静で、テスト結果もさも当然のように確認している印象だった。

 それに勉強を頑張っているにはそんな裏事情もあるなんて。


 私だけじゃない。みんなそれぞれ事情があるのだ。


「話してくれてありがとう」


「いや大した話じゃないよ」


「そんなことないわ。特に勉強部屋の話とても気になるし、今度呼んでよね」


「……」


 何となく気恥ずかしくて思わず茶化してしまう。


 麻胡と話すことで、なんとなく心が軽くなった気がする。


 でも、面と向かって話すのは恥ずかしかったから、帰り際にお礼を言う。

 聞こえなかったかな、と思ったが、麻胡は片手をあげることで返事をしてくれた。


 ありがとう、麻胡。



 



 

 

 

 

 

 

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