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二十五 先輩と中間テスト最終日

 中間テスト三日目。ついに最終日だ。

 心なしか教室が浮き足立っている。皆んなテストが終わったことを考えているのだろう。


「なあ、麻胡」


 筆記用具を出していたら、純平がふらっと席に来た。


「中間テストって家庭科と保健体育ないんだな」


 …………。


「ん? なんだって?」


 聞き間違いか?


「いや、だから中間テストって家庭科と保健体育ないんだな」


「まあそうだけど、それがどうした?」


「……最終日にあると思って昨日勉強してたわ」


 …………。


「なぜそんな勘違いを?」


 前、家庭科と保健体育も勝負に含めるって言っていたのは冗談じゃなかったのか……。


「俺もそう思う。今日黒板見て、初めてないことに気付いたわ」


「……純平って一年生からいたよな?」


 不安になってきた。一緒のタイミングで転校してきたとこかじゃないよな? いやそれだとしてもおかしい。


「ああ、普通に一年生の四月から登校して、中間テストを何回も受けているわ」


 はー、とため息をつく純平。

 

 どうやら聞くところによると、夜遅くまで家庭科と保健体育の勉強をしていたらしい。ただ幸か不幸か、本来の最終日のテスト科目も一緒に勉強していたらしいが。

 しかし、どうやってテスト範囲もわからない科目を勉強したのか。そして仮に家庭科も保健体育も含めると五科目だぞ。疑問に思えよ純平……。


「知っていたら、もっと英語に時間をかけられたのになあ」


 純平が天を仰ぐ。

 純平は英語が不得意なのだ。


「まあ勉強会でも英語を中心に勉強したし、それを覚えていたら大丈夫だよ……たぶんな」


「だな、あとはまあ家事馬鹿の馬鹿力に頼るわ」


 そう言い残すと純平は去っていった。

 

 カジバカ?

 聞き間違いか?

 そもそも大前提として、この場面でも使うのは正しくない気はするが……。

 

 いやそんなことに意識をさいている場合ではない。今日はテスト最終日。そして三科目ある。今日少しこけただけでも特待制度からは外れてしまうだろう。


「バシッ」

 

 自分の頬を叩いて集中する。


「痛っ」


 思わず耳も叩いてしまい悶える。


 ……隣の席からは変なものを見るような目で見られたが気にしない。








 

 キーンコーンカンコーン。


 中間テストの終わりを告げるチャイムが鳴る。

 先生が答案用紙を回収すると、皆んな一斉に今までの鬱憤を晴らすかのように喋り出す。


 ついに中間テストの終わりだ。変わらず勉強は今日もするが、今日一日が一番気が抜ける。

 ベストは尽くした。あとは結果がついてくることを祈る。


「ま〜こ〜!」


 遠くから名前を呼ぶ声が聞こえる。

 視線を向けると、ゾンビのように身体を揺らした純平がやって来た。


「疲れたぜ。まじで疲れたぜ。本当に疲れたぜ。死ぬ」


 純平は近くの空いている席に勢いよく座ってきた。


「純平テストどうだった? 補習?」


「微妙な感じだ、だが手応えは合った」


「それはよかったな」


「本当だせ! もし家庭科と保健体育を間違えて勉強したから補習になんてなったら笑えないな」


 俺は笑えるぞ。


「で、麻胡。飯いこうぜ」


「オッケー」


 快諾して、荷物をまとめる。


「どこ行くよ。野々宮でついでにゲーセン行かね?」


「あー。このあと生徒会の用事があるんだ」


 確か議題は、図書館のリニューアルについてだ。

 なので会長はもちろんだが、図書委員の窓口でもある九条さんもいるだろう。


「マジ? せっかくのテスト終わったっつーのに難儀なことやな」


 純平が呆れたような顔をする。


「なんで学校近くか、もしくは学食か」


「オッケー。ただ学校にはもういたくないから適当なファミレスがいいわ」


 純平と二人、昨日九条さんと莉子ちゃんと一緒に行ったファミレスに入る。

 純平は肉大盛り定食だった。昨日も見たが、見るだけでお腹いっぱいになりそうだ。

 男二人なのもあってパパッと食べた。

 

 純平と別れて、生徒会室に向かう。


 校内は、生徒はもうまばらだったが、部活動を再開している生徒がいた。早いものだ。

 グランドを走る陸上部が目に入る。すごいスピードだ。

 よく見ると、莉子ちゃんだった。

 きっと食べないとどんどん痩せていくというのは本当なのだろう。そのぐらいの運動量はありそうだ。


 生徒会室の扉を開けて中に入る。

 

「……あら麻倉くん」


 生徒会室には冬月会長しかいなかった。会長はいつものように綺麗な黒髪をストレートに伸ばし、学生指定の制服に着ている。黒のタイツに包まれている足がチラッと見える。

 挨拶して、部屋に入る。

 

 会長は生徒会長用のデスクに座り、何やら書類の整理をしていた。

 それとは別の大きい作業用デスクの方に座る。


「麻倉くん、早いわね。お昼は食べたのかしら?」


 会長が作業の手を止めて、声をかけてくる。


「はい、近くのファミレスで。会長はもう?」


「いえ、ちょうどこれからなの」


 会長は何を食べるのだろうか。学食のイメージはないし、コンビニとかで惣菜パンを買っているイメージもない。強いて言うなら――


「お弁当ですか?」


「あら、よくわかったわね」


 会長が驚きの顔をする。

 お弁当を食べているイメージだったが、予想通りだった。

 

 すっと、会長が傍の手提げを持ち上げる。

 手提げから出てきたのは高そうな風呂敷に包まれたお弁当だった。


「まさか会長が作ったんですか?」


 会長が頷く。


「料理が好きなの。いい気分転換になるのよ」


 そう会長は言うと、お弁当を広げる。

 中は彩鮮やかで、お弁当に定番な卵焼きやミートボール、魚、そして煮物も入っていた。


 すごい、まるでお店で売っているような色とりどりのお弁当だ。


「めちゃくちゃ美味しそうですね! 見るだけで食欲をそそります」


「そう? ありがとう」


 会長は微笑むと、


「……もしよかったら一口いかが? あ、でももうお昼食べたのならお腹いっぱいかしら」


「いただきたいです!」


 食い気味に言ってしまった。

 会長の手料理なんてこのタイミングを逃したら一生食べれないだろう。例えお腹いっぱいでも食べたいくらいだ。

 それにこのお弁当を見るだけでお腹が減ってきた気がする。


「本当に? 無理していない?」


「してないです、今めちゃくちゃお腹減っています!」


「そう? それはよかったわ。何が良いかしら?」


 会長がお弁当の中身を見せる。

 しばらく悩んだが、これにしよう。二つあるし。


「ミートボール食べてもいいですか?」


「ええ、もちろん、どうぞ」

 

 会長からプラスチックの爪楊枝をもらい、ミートボールに刺して口に放り込む。

 じゅわ。まるで音が鳴っているんじゃないか、そのぐらい濃厚な肉汁が噛むたびに口内に溢れる。


「噛むたびに肉汁が出てきて、めちゃくちゃ美味しいです」


「お気に召してなによりです」


 会長が笑顔を見せる。

 

 会長の手料理を食べたなんて知られたら、純平に怒られそうだ。

 まあ会長は深い意味もなく、物欲しそうにしている後輩にあげたくらいだろうけど。


「それもらってもいいかしら」


 会長に爪楊枝を返す。

 会長はそのまま残りのミートボールに()()を刺すと口に放り込む。


 あ、間接キス。


「……うん、我ながら上手くできたわね」


 会長が呟く。


 うん、俺が気にしすぎか。会長から俺なんてそういう対象ではないだろうし、特に気にしないんだろう。


「一応俺も自炊するのですが、絶対この味出せないですね」


 味ももちろんだが、仮に俺がお弁当を作ったら肉野菜炒めしか入れられない。こんなにレパートリーはない。


「ありがとう。褒めても何も出ないわよ。でも人に褒めてもらうというのは嬉しいわね」


 会長が続けて煮物も食べる。


 ずっと目の前にいたら食事に集中できないだろう。

 元いた席に戻ろうと離れようとしたが、


「あ、麻倉くん、ついでに窓開けてもらってもいいかしら?」


 会長の言葉に従い、生徒会室の窓を開放する。

 五月にしては少し涼しい空気が外から流れ込んでくる。


「ありがとう。少し暑くなってしまって」


 さっきまで真っ白だった会長の頬は少し赤みを帯びていた。

 

 個人的には、むしろ少し涼しかったのだが、会長はずっと部屋にいたからだろうか。


「そうえば麻倉くん、テストはどうだったの?」


「やれることはやり尽くした感じですね。会長はどうでしたか?」


「私も同じよ。……しかしまさか最終日に会議なんて入ってしまってごめんなさいね」


「あ、いえ、どうせ特にやることもなかったですし。あははは」


 あ、これ友達いないと思われるのだろうか。実際ほとんどいないけど……。


「そう? なら今度慰労会でもしましょ」


 二人でですか?

 と気になったが流石に聞けず、


「はい、ぜひ」


 まあ生徒会メンバーだろう。前回の買い出しで勘違いしてえらいことになったことを思い出す。変なこと言わなくてよかった……。


 会議まで会長と雑談に興じた。




 

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