二十 麻倉麻胡
自宅に戻り、食事やシャワー浴びた後、いつものようにココミツ飲みながら参考書を開く。
今日の勉強会や昨日の買い出しなど、休日は多くの人と関わった。いつも勉強だけして一日が終わる。こんなに忙しい休日は初めてかもしれない。
そのせいか、自分しかいないこの家がいつもより寂しく感じる。
――家には俺しかいない。
父親は――いない。小学二年生の頃亡くなったのだ。父親の記憶は僅かばかりあるが、まるで全て箱に詰めて蓋をしたかのように、亡くなった頃の記憶が思い出せない。思い出そうとすると、頭痛がしてしまう。一度病院に行って話を聞いたことがあるが、思い出したくないものとして自分で封じ込めている可能性か高いとのことだった。
それからは無理せず思い出そうとしていない。
母親は、海外にいる。仕事の関係で、緑川に引っ越しした後、すぐに海外転勤になったのだ。流石に編入試験も終わったばかりですぐについていくことはできなかった。そのため、一人で住んでいる。
一人で住むのは寂しかったがそうは言ってられない。母親は俺を産んだ時は仕事を辞めていたが、父親が亡くなった時に再開したのだ。稼げる仕事として今の会社に就職した。全国どころが海外にも転勤する仕事に、当初渋っていたが、結局就職した。転勤がある分給料が高かったこと、そして母親が語学が堪能だったこともある。
女手一つで俺を成長させてくれた母親には頭が上がらない。転勤が多いため、転校もそれに比例して多かった。せっかく仲良くなった友達と別れることは寂しかったが文句は言えなかった。毎日夜遅くまで仕事をして、家に帰ってきても疲れているのにも関わらず、必ずご飯を作ってくれた母親。いつも俺より遅く寝て早く出かけていた。
迷惑をかけたくない。その気持ちもあって部活は入らなかった。きっと時間やお金がかかるだろうから。
お金を少しでも浮かせるために、勉強をした。小学生の頃特待生というものがあることを知った。それは学校側が成績優秀者に向けて、学費を免除・補助する制度。子どもの俺が少しでもお金を浮かせることができたのはそれしかなかった。
それから毎日のように勉強をした。毎日毎日、朝起きて寝るまで、空いてる時間があれば勉強した。それは同時に、自分は物覚えがよくないこともわかった。でも諦める選択肢はなかった。それ以上に頑張っている人を近くで見ていたから。
だから人の倍時間をかけた。幸か不幸か、部活にも入らなかったから時間はたくさんあった。
そして、下から数えた方が早い学年順位は、だんだん遠くなっていった。最終的には一番遠い――つまり学年一位になった。
緑川高校と、その前の高校では特待生になることができた。
しかし、特待生になった今でも安心はできない。成績を維持する必要がある。前よりは落ち着いたが勉強は空いた時間があればしている。俺から勉強をとったら何も残らない。
リビングには何も置いていないが、自室は勉強部屋だ。いたるところに付箋、教科書のコピーを貼り付け、自分を鼓舞する言葉を書いた紙を飾っている。……これは誰も呼べないだろうなあ。ドン引きされるだろう。そもそもこんな広い家に一人で住んでいるを知られたら怪しまられるだろうな。
「♩♩♩」
携帯が鳴る。
着信は母親からだ。毎週日曜日の夜にはアプリで連絡をくれる。内容は当たり障りのないもので、ご飯をしっかり食べているか、しっかり寝ているかなど。
ちゃんとやっていると入力し、送信する。
ふと机に置きっぱなしにしていたプリクラが目に入る。今日撮ったものだ。
人生の初のプリクラ。伊野さんが器用に人数分にわけて切ってくれたもの。
手に持って照明に翳す。
その行為には何も意味はない。ただなんとなくしたかった。
もし、また転校しても、もしくは何かの理由で離れ離れになったとしても、これがあればこのあの時間は夢でなかったと思えるだろう。
大切に生徒手帳に挟む。
少し残ったココミツを飲み干すと、開きっぱなしだった参考書に目を戻す。この休日あまり勉強ができていない。少しでもやらないといけない。
勉強は短針が2を指すところまで続けた。
長くなりましたがこれにて導入部分である一章は完結です。
二章からは物語が動き始める予定ですので、引き続きお付き合いいただけますと幸いです。




