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十九 勉強会「首席」×「首席」③

 ゲーセンはオススメのところがあるということで、伊野さんが案内をしてくれた。

 店舗の入り口には太鼓型の筐体が複数あり、奥にはエアホッケーや格闘ゲーム、クレーンゲームなどもあった。初めて来たが――


「めちゃくちゃ対戦ゲームあるな、ここ」


「でしょ? ここら辺で一番大きいゲーセンだし、対戦ゲームやクレーンゲームがたくさんあっていいの!」


 伊野さんが得意げな表情を浮かべる。

 確かに、他のゲームセンターと比べても、伊野さんが言うだけあってよく見るものから初めて見るようなものまで様々な種類がある。


「麻胡! これをやろうぜ」


 いつの間にか離れていたのか、純平が遠くから声をかけてくる。

 純平が呼ばれて行くと、そこにはバスケットボールのゲームがあった。ゴールに制限時間内にたくさんボールを入れる、いわゆるフリースロー対決であり、至ってシンプルなものだ。


「勝負は単純。たくさんゴールに入れた人の勝ち。どうだ? やるか?」


「おっけ。賭けはどうする?」


「まずは飲み物にしよう。序盤だし」


 快諾し、手の準備体操をする。

 純平がそれを見て目を細める。


「ほお、麻胡、本気だな?」


「……まあな」

 

 準備体操なんて不要かもしれないが気の持ちようだ。別にジュースぐらい奢ってもいいのだが、純平は一度勝つとずっと調子に乗るのだ。それは可能な限り避けたい。


 百円を入れて、勝負を始める。

 ブザー音とともに、ボールが手前に射出される。両手でしっかり抱えると、膝を曲げ手を離す。


「スカッ」


 ボールがゴールに入った音が聞こえる。

 うん、幸先いいぞ。

 その調子でどんどんボールを投げる。


 純平をチラッと見ると、器用に片手でボールを掴むとゴールに放っていた。右手と左手それぞれ使い、絶え間なくボールを投げる。


「うおおおおお!」


 どうやら質より量重視らしい。

 ゴールが外れても構わずひょいひょい投げる。


 って純平のことを見ている余裕はないな。

 集中しよう。こっちは量より質で勝負だ。純平に惑わされず落ち着いてゴール目掛けてボールを放つ。

 しばらくして、


「ピー!」


 タイムアップを告げるホイッスルのような音が鳴り、勝負は終わった。

 結果は、純平が120点、俺が180点だった。


「はあはあ、マジか。マジか」


 純平が荒い呼吸とともに膝に手をつく。

 なぜこんなに疲れているんだ……?


「勝者、アサアサ〜!」


 伊野さんがラウンドガールのように俺たち二人の手を掴み、俺の腕を上げた。


「ち、ちくしょう!」


 純平ががっくり肩を落とす。


「じゃあ純平、俺はアイスココアで」


「……へい」


 純平が肩を落としながら自動販売機まで向かう。


「サトジュン、私はミルクティーで!」


「私はレモンティーで」


 伊野さんに折田さんも続く。


「こら、どさくさに頼むな! 勝負で負けたら買ってやるよ」


 ぶつぶつ呟いたまま純平は買いに行った。

 そんな純平をみて、伊野さんと折田さんが笑っていた。


「ミッスー、私たちも何か一緒にやろ!」


「うん、あれとかどう?」


 折田さんが指差す先には、レーシングゲームの筐体があった。実際に運転席型の筐体に座り、レーシンガーに乗ったデフォルメされた可愛いキャラクターを操作するゲームだ。


「いいね! やろやろ!」


 伊野さんと折田さんが運転席に座り、お金を用意する。

 折田さんが小さい身体を精一杯伸ばしてペダルに足をかける。


「麻倉麻胡、お金ないの?」


 折田さんがキョトンとした顔で声をかけてきた。


「俺? いや俺は見ているよ」


「えー! アサアサもやろうよ! このゲーム三人でもできるよ!」


「え、いや見ているよ」


「麻倉麻胡……あんた勝負の約束を忘れたの? 勝ち逃げは許さない」


 純平っぽいことを言うなあ。


「お金がないならあげるわよ、ほら」


 と、本当にお金を渡してきた折田さん。


「え? あ、いや、あるから大丈夫だよ」


 小銭を入れて座席に座る。


「そう。やる気になってよかった。本気でやりなさいよ」


 睨みつけてくる折田さん。

 こええな。


 キャラクター選択画面で、操作キャラを選ぶ。特に選びたいキャラがないので赤帽子の髭おじさんにした。

 伊野さんは、水色のプリンセス。折田さんは、おっきい亀だった。

 折田さんが選択している画面を見ていたら目が合う。


「なにか?」


「……いや重量級のキャラを選ぶとは思わなくて」


「ぶつけて他のキャラを弾き飛ばすのが好きなの」


「……」


 こわ。殺意高すぎないか。


 三人ともキャラクター選択が終わったため、ステージの選択にうつる。ステージは特にみんなこだわりがないため、一番最初に表示されたものをそのまま選んだ。


 そしてカウントダウンが表示される。カウントがひとつになったところで、アクセルを踏む。このゲーム最初が肝心だ。


 ………………。

 …………。

 ……。


 勝負はあっという間に終わった。

 ゲーセン画面には表彰式が映り、下から三位の髭おじさん、二位がプリンセス、そして一位は大きい亀だった。

 つまり一位は折田さん。


「ミッスーすごい!」


 伊野さんが感嘆の声を上げる。

 折田さんは、見事なドライブ捌きで二位の伊野さんと半周違っていた。ちなみに俺は周回遅れ……。


「ありがと! こういうゲームは昔からやっていたこともあって慣れているの」


 昔から?


「もしかして折田さん、お兄さんがいたり?」


「いや、姉がいてよく付き合わされてい――って何でもない」


 しまったという表情で口をつぐむ。あまり姉妹の話をしたくないのだろうか。

 どうしようか逡巡していたが、


「おーい! 俺も混ぜてくれよ!」


 飲み物を買いに行っていた純平が戻ってきた。良いタイミングだ。

 片手にはしっかりココアが握られている。ココアを受けとる。


「じゃあ純平は何かしたいことあるの?」


 よく聞いてくれました、と純平は奥のテーブルを指差す。そこにはエアホッケーがあった。男女別に別れ、対決する。他にも格闘ゲームや、音ゲーなど様々な種類の対戦ゲームを順々に遊ぶ。

 時間はあっという間に経ち、辺り一面は暗くなっていた。そろそろ帰ろうかと身支度している最中、伊野さんがあたりを見渡して歩き出すと、みんなを呼び寄せた。


「最後にこれ撮ろうよ!」


 伊野さんが呼び寄せた場所は、プリクラだった。


「マジ?」


「マジだよアサアサ。おおマジ! せっかくみんなで集まったんだから記念に撮ろうよ!」


 プリクラは人生で一度も撮ったことない。そもそもどんなものか知らない。あれって写真撮影するだけだよな? どうやって猫耳とかの加工をしているのだろうか。


「ほら、麻胡来いよ!」


 いつ間にか撮影コーナーに入っている純平が手招きする。


「麻倉麻胡、ほら、早く行きなさいよ」


 後ろから折田さんに急かされ、中に入る。


「はい、お金入れたからもう始まるよ!」

 

 伊野さんが外の投入口にお金を入れると、暖簾?をくぐり撮影コーナーに入ってきた。


「え? え?」


 戸惑う俺を無視して、みんな各々ポーズを決める。

 カシャ、カシャとどんどん写真が撮られていく。


「おおっと!」


 純平が移動した際、伊野さんにぶつかった。


「きゃっ」


 弾き飛ばされた伊野さんがバッグを引っ掛け、荷物置き場から落とす。


「す、すまん。大丈夫か? 日向」


「もー。サトジュン気をつけてよね!」


 二人が体勢をなおしている間も撮影までのカウントダウンは止まらない。


「お、おい。二人とも早く戻ってこい」


 折田さんとのツーショットになってしまう。


「もう間に合わないからミッスーと二人で撮って!」


 伊野さんが親指を上げて言う。

 純平はというと、落としたバッグを拾っていた。


 仕方ない。撮るしかないか。折田さんを見ると、


「麻倉麻胡、ピースをして。ただし上げるの人差し指だけで」


 注文が入る。


「?」


 よくわからなかったがもう時間もないので、とりあえず言われた通りにする。

 どんな意味があるんだ。このポーズには?

 折田さんを見るとピースしていた。とりあえず横に並び撮影を待つ。

 カシャと音がし、最後の撮影、とのアナウンスが流れた。


「最後は四人並んで撮ろ!」


 戻ってきた伊野さんが配置を指示する。俺の隣には純平。前に、折田さん、その横に伊野さんで撮影した。

 

 無事すべてを撮り終え、落書き?コーナーに移動する。伊野さんがペンを持ち、画面に映った写真に日付やら場所なら記入している。猫耳もつけていた。

 なるほど、こうやって加工しているのか。


「ふーんふーん。ふーん♪」


 伊野さんは鼻歌を歌いながらすごい勢いで落書きする。

 落書き画面は二台あるがもう一台は、折田さんが編集していた。横から覗き込むと、俺とのツーショットのカットを選択していた。

 折田さんは日付を記入し、続いて文字を書いていた。


「ん? 学年順位……?」


 なぜその文字を?

 そして、俺の上げた人差し指と、自分がピースした部分をそれぞれ丸で囲っていた。

 何の落書きなんだ?

 

 俺の視線に気付いた折田さんが一旦落書きをやめ、


「なに? 麻倉麻胡」


「いやなんでもない」


 わかってしまった。俺に通常のピースではなく、わざわざ人差し指だけ上げさせた理由を。そして自分だけなぜピースにしたのかを。

 俺は数字の一、自分は数字の二を表しているのだ。

 もしかしてテストの順位か?

 

 俺のこと恨んでいないとかいいながら、恨んでいるのではないだろうか……。むしろ嫌っているのかもしれない。


 そのまま観察していると、折田さんが追加の落書きをしていた。俺の頭あたりに何か書いている。

 えーと。なになに、俺の勝ちだね、二位すごいね(笑)って――


「……折田さん何だこれ?」


 こんなこと言ってもないし、思ってもないぞ。しかも最後に(笑)をつけているのは煽っているように思える。


「自分への戒めよ」


 戒め……?


「毎朝このツーショットを見るたびに、自分が負けたことを忘れないようにしたいの。……学年二位だから、てっきり少しは意識されているとは思っていたのに、まさか認識されてないなんて、ね」


 折田さんは、ビジッと俺の方に指を向けると、


「いい、覚悟しなさい? 次の中間テストでは私が一位をとるわ! 私と言う存在を目に焼き付けることね!」


 おほほほほと、笑う折田さん。


 …………。

 

 何か最初の印象とは異なる。こんな人がクラスメイトにいたのか。

 他にもこんな人がいるのだろうか。友達を作ろうとしなかったが、もしかして俺はもったいないことをしていたのかもしれない。


「ってほら、折田さんもう時間になるぞ」


 落書きタイムの残り時間は残りわずかだった。


「しまった! 早く言いなさいよね! 麻倉麻胡」

 

 慌てて折田さんが落書きに戻る。


 落書きタイムを終え、プリントされたシールを伊野さんがハサミで切り分けてみんなに配る。


 時間も時間なのでまた勉強会を実施する約束をして、今日は解散した。


 

 




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