十八 勉強会「首席」×「首席」②
「疲れた〜!」
目の前で純平が大きく伸びる。伊野さんや折田さんも一緒に身体を伸ばしていた。
「もう、いい時間だね〜」
伊野さんが外を見ながら言う。陽光が差していた窓からは夕陽が指していた。
勉強会は思いのほか順調に進み、特に大きな問題はなく、この時間まで四人とも集中できた。
純平はふざけると思ったが、どうやらよほど補習が嫌らしく、真面目に勉強していた。ただ大前提の知識がないこともあり、今日は基礎の基礎を固めた形だ。俺や折田さんが教えることを実直に聞いて問題集を解いていた。伊野さんから教えてもらう時は複雑な表情をしていたが。
「結局俺ばかり教えてもらった形になっちゃったな。ごめん」
純平が両手を合わせて謝る。
「サトジュン気にしすぎ! それに人に教えるのってけっこう自分の勉強になるんだよね。ね? アサアサ」
「だな。なんとなくわかっていたことを言葉で形にすることでよりしっかり理解できたし」
「そうよ、麻倉麻胡の言う通り。言語化することによって曖昧に覚えていたことが頭の中で整理できたから。純平、気にしなくて大丈夫よ!」
折田さんが同調してくれる。
……しかしなぜ俺はフルネーム呼びなんだ?
「深澄……! 日向、麻胡ありがとう!」
純平がお礼を言う。
「はい! 勉強はこれで終わり!」
伊野さんがバンっと手を叩くと立ち上がり、
「これからは遊びの時間だよ! だよ!」
周りの人に迷惑をかけないぐらいの音量で叫ぶ。
「お、そうだよそうだよ! 日向いいこと言うじゃねえか! やっぱり学生の本分は遊びだよな!」
純平が伊野さんの言葉に同調する。
さっきまでスライムのように溶けていたくせにどこからその元気が出たんだ。
「にゅしし。流石サトジュンよくわかっているねえ。アサアサも参加できるっしょ?」
「……カラオケ以外ならいいよ」
カラオケは苦手だ。というか行く機会がなさすぎて一度も行ったことがない。人前で歌ったこともないし、絶対嫌だ。恥ずかしすぎる。
「麻胡はカラオケ嫌いだよな」
嫌いではないけど、おそらく歌っても後悔することが目にみえている。
「そうなの? ならゲーソンとか行こうよ! 野々宮は大きいゲーセンたくさんあるし」
「ゲーセンなら」
「よし、麻胡。何か賭けて対戦しようぜ」
純平は本当に賭けごとが好きだな。なのに別に強くないからいずれ破産しそうだ。
「ミッスーは行けそう?」
折田さんは伊野さんの言葉に、うんと頷くと、俺の方を向き、
「麻倉麻胡。私とも勝負よ!」
…………。
「にゃは♪」
折田さんの言葉に伊野さんが笑う。
伊野さん、面白がっているな。
「勉強で負けた借り。少しでも返さないと死んでも死に切れないわ!」
ゲーセンで勝てばその借りは消えるのだろうか……。
いや何も言うまい。話したのは今日が初めてだけど、多分余計なことは言わないほうがいいだろう。
「麻倉麻胡。無視するとは余裕ね。流石学年一位。流石編入試験歴代一位ね」
折田さんがこっちを睨みながら言う。
め、めんどくさい。
「えー! そうなの? アサアサ編入試験歴代一位なの!?」
伊野さんが目を開いて驚く。
純平は、口をぱくぱくさせていた。なんだその顔は。
「先生にはそう言われたけど、得意分野がけっこう出ていたから、たまたまだよ。でもそもそもなんで折田さんがそれ知ってんの?」
「先生から聞いた。ほら、私って学年一位じゃない?」
ドヤ顔でこっちを見て、
「麻倉麻胡が来るまでは」
キッと睨みつけてきた。怖い。
「……で、先生から編入試験歴代一位が転校してくるぞって発破をかけられたわけ。余裕そうな顔で流した自分を殴りたい」
「……」
言っていることが過激すぎる。
よく見ると拳も握っているし。
折田さんに順位の話はやめよう。
「ま、まあとりあえず、ゲーセン行こうよ」
ずっと立ち上がっている伊野さん、相変わらず睨んでくる折田さん、そして口をぱくぱくさせている純平に声をかける。っていつまでそんな変な顔しているのか。
「そ〜しよ!」
伊野さんが荷物をまとめる。折田さんも合わせて片付ける。
「ほら! そんな惚けた顔してんじゃない!」
伊野さんがいまだ呆けている純平の背中を叩く。
「お、おっと。そうだった! ゲーセンが待っている!」
正気に戻った純平が片付けながら、
「よし、麻胡。何か賭けて対戦しようぜ」
…………。
それさっきも同じこと言っていたぞ。
記憶がないのか。
呆れて無視しようとしたが――
「麻倉麻胡。私とも勝負よ!」
…………。
付き合ってられないので、無視して片付ける。
「おい! 麻胡無視するな!」
「麻倉麻胡! それが勝者の余裕なの?」
うるさい二人だ。
「むむ、二人ともうるしゃい! はよゲーセン行くよ。置いていくよ!」
伊野さんが二人を一喝、とまでは言えない程度に言うと、二人も急いで片付けを始める。
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