十七 勉強会「首席」×「首席」
加能電鉄。
緑川市やその近辺をカバーする電鉄は、市内を行き来する人にとっては最もメジャーな交通手段である。
海沿いにあり観光客が多く訪れる蒼海駅や閑静な住宅街である逢月駅、飛行場跡地の広大なスペースに作られた公園がある空守公園駅、そして先日訪れた振宮駅などが特に有名だ。
しかし純平たちと約束した勉強会の集合場所はそのどれでもなく、野々宮駅である。野々宮駅は、振宮駅ではないにしろ、多くの飲食店が並び、ファストフードやファミレスが多いことから学生比率が多い。
今日の勉強会はファミレスに集まることもあり、野々宮駅改札が集合場所として純平に指定された。
「次は野々宮駅、野々宮駅。お出口は――」
車内のアナウンスが次の駅が目的地であることを告げる。
駅に降り立ち、出口に向かう。改札にはすでに純平がいた。
「おはよう、純平」
「ん? ああ、おっす麻胡」
純平はトートバッグを肩にかけていた。勉強道具が入っているのだろう。
かくいう俺も勉強道具をトートバッグに入れて持ち歩いている。
「日向やもう一人はまだ来てないぞ」
「……結局伊野さんは誰を連れてくるか教えてくれなかったな」
食堂で勉強会の約束をしたあと、何度か会う機会はあったが、誰を誘うのか頑なに教えてくれなかった。聞いても、お楽しみに、と言って誤魔化された。
「まあ、女の子だろう。冬月会長かエルセちゃんだと嬉しい」
「それは残念ながらないだろうな」
会長がファミレスで勉強会しているイメージがまったく思い浮かばないし、九条さんはファミレスというよりも図書館で勉強していそう。図書委員のイメージが強いだけだが。
というか、そもそも学年が違う。
「夢見てもいいじゃないか! 麻胡と違って俺はまともに話したことないんだぜ」
「はいはい」
俺も別にそんなに話したわけじゃないけどな。
改札近くのベンチに座り、しばらく純平と他愛もない話をしていたが、
「……お、着いたみたいだぞ」
純平の言葉に改札を見ると、ちょうど伊野さんが出てきたところだった。
肩まで伸ばされた金髪にピンクの髪留めをつけ、肩が出ているトップスにミニスカートを合わせていた。
「ごめん、お待たせ! 二人とも早いね!」
俺たちの姿を見て伊野さんが少し駆け足で来た。
揺れるスカートから覗く白い太ももが眩しい。
「いや、俺たちは来たばかりだよ。なあ麻胡?」
純平が目配せしてくる。
言いたいことはわかる。
「そう、ちょうど来たばかりだから気にしないで」
「本当にー? ならよかった! ってそうそう。連れてきた子を紹介するよ!」
伊野さんは笑顔を見せると、後ろを振り返った。
じゃーん!
と言いながら後ろに立っていた子を紹介する。
その子は、まるで日本人形のような髪型(尼削ぎと言っただろうか)をしていた。綺麗な黒髪の下には、形の良い眉に、勝気な雰囲気を感じさせる綺麗なアーモンド形の目が見え隠れしていた。
紺のワンピースを着た小柄で華奢な身体は、触れただけで壊れてしまいそうだ。
よくテレビで見るアイドルにどことなく似ている気がする。
「折田深澄こと、ミッスーで〜す!」
その子――折田さんは、伊野さんの紹介に少し笑うと、
「折田深澄です、今日はよろしく!」
そう言って俺と純平に頭を少し下げる。
同じく自己紹介をして頭を下げる。
「おお、深澄じゃないか!」
純平は片手を上げて挨拶を返していた。知り合いのようだ。
折田深澄。
同級生で同じクラスだ。しかし今まで特に接点がなく、一度も話したことがない。名前と顔だけしか知らず、本当にただのクラスメイト、というだけの関係だ。
「まさか俺たちの代の入試トップが来るなんてな」
純平がぼそっと呟いた。
入試トップ?
「マジか。頭良いんだな」
ジロッと折田さんから見られた気がした。
……?
「よし、じゃあみんな揃ったし行こうか!」
純平が先頭切って歩き出す。
遅れないよう着いていく。
★
純平が連れてきた場所は、緑川では有名なファミレスチェーン店だった。
名前は「フルシェ」。お店の名前の由来は、フランス語のフォークが由来とのことらしい。
純平が道中教えてくれた。なぜこんなことを知っているのだろう。
店内は一般的なファミレスの内観ではあるが、座席スペースが広く、席数も多めだ。
窓際の席に案内され、男女に分かれて座る。
各々注文を終え、ドリンバーを手に席に戻る。みんなが座ったのを見て純平が口火を切った。
「しかし、豪華なメンバーが揃ったな。学年一の秀才の深澄に、特待生の麻胡、そして意外に頭がいい日向が揃うなんて」
「こら、サトジュン! 意外には余計だぞ!」
伊野さんが純平の言葉に憤慨する。
「いやいや、やっぱり日向が頭良いキャラなのは違和感あるって。俺と同じお馬鹿キャラだと思うじゃん?」
「あー、そんなこと言うなら勉強会なしにしよっかなあ」
「げ! それは勘弁! ごめん、日向、日向さま。私めに勉強を教えてくださいまし!」
純平が伊野さんを拝み倒す。
伊野さんは純平をチラッと見ると、はあーとため息ついて、
「仕方ないなあ」
「流石日向さま! 天才! 思いやり! すごい!」
純平がよくわからないことを言う。
「テキトーだなあ」
伊野さんは呆れ顔だ。
折田さんは二人のやりとりをみて笑っていた。
「あ、でも、よく深澄を連れて来れたな。勉強会に参加するのを初めて見たぜ。日向もしかして脅した?」
純平が思いついたように言う。
確かに、入試トップの人をよく勉強会に連れて来れたものだ。仲良いのだろうか。
「なわけ! アサアサたちと勉強会する話をしたらミッスーが興味を示してね」
「へえー。折田さんは勉強会とか好きなの?」
流石入試トップ。すごいな。
折田さんは、その発言に眉を顰めると、
「いや、それは……麻倉麻胡。あんたがいたからよ」
ん?
「どういうこと?」
思わず口に出る。
「麻倉麻胡。あんたが参加すると聞いたから、私は参加したってこと」
え、なんで?
「……まさか麻胡が好きとか、あ、いやなんでもない……です」
折田さんの顔が険しくなったのを見て純平が黙る。
「一年生の冬、編入してすぐの期末テストで一位をとったでしょ? ……編入して間もないテストにも関わらず」
転入してすぐに期末テストがあったのだ。なんていうタイミングで入ってしまったのか、後悔しながらあの時は勉強していた。
「あれは……たまたまだよ。前の学校での勉強範囲が少し進んでいたのもあるし」
「謙遜はいらないわよ。一位なんてたまたまで取ることはできないし。それにそのあとの学年末テストでも一位をとったのを知っている」
「マジ?」
純平が驚きの声をあげる。
「……まあ、一応ね」
「俺がテスト結果に掲載されることないからマトモに見たことないけど、麻胡そんなに頭良かったんだな」
「私は……いえ、麻倉麻胡。その二つのテストの二位は実は同じ人物なんだけど、名前わかる?」
名前……。
「いや、ごめん。わからない、かな」
特待生の維持には、普段の生活態度に加え、テスト結果で全体順位の上位十五パーセントに入る必要があるのだ。一応、各学期の中間・期末テストのいずれかに入っていればいい。
なので順位表に関して自分の順位のみ確認し、他は見ていない。伊野さんに関しては順位表をみて喜んでいたのを二回とも目にしていたから知っていたのだ。
「でしょうね。……二位は私よ、麻倉麻胡。私はずっと学年一位だった。入学テストはもちろん、中間・期末テストも。……ただあんたが現れる前までだけど」
な、なるほど。
「……じゃあ麻胡を恨んでいる形?」
純平が恐る恐る折田さんに聞く。
……その質問の返答は怖いぞ、純平。
「まさか! カンニングならまだしも正々堂々戦っての負け。悔しがるならまだしも恨むのはお門違い」
少しホッとする。
「今日参加したのは、私が一位をとるために足りないものを、麻倉麻胡、あんたから吸収したかったから。そして――」
折田さんは言い淀むと、
「――いえ、なんでもない。それだけ」
「にひひひ。というわけだ! アサアサも次の中間テスト油断すると抜かれちゃうよ〜」
ずっと黙っていた伊野さんが口を開く。
さては、この感じ、知っていて黙っていたな?
「っておいおい! 今日の勉強会が俺の赤点対策が発端であること忘れるなよ!?」
純平が焦って捲し立てる。
「学年トップとかそんな高次元のことを話すなよ! もし俺が赤点とったら夜な夜な枕元に立って睡眠の邪魔をしてやるからな」
「うわ、サトジュンさいてー! 女の子の部屋に入るなんて。ミッスーもそう思うよね?」
伊野さんが自分の肩を抱きながら純平から距離をとる。
「うん、純平、それはちょっと……」
折田さんも心なしか純平から距離をとる。
「おおい! そういうことじゃなくてだな……」
柄にもなく純平が焦る。
「あはははは」
「ふふ」
二人がその反応をみて笑う。
「麻胡〜。助けてくれ〜」
純平が助けを情けない声をあげて助けを求めてくる。
任せろ、と親指をあげて伝える。
「よし。そろそろ勉強会はじめよう。……赤点になると部屋に入っちゃう純平のためにも」
「おおい、麻胡!?」
純平の反応に三人で笑いながら勉強会を始める。
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