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十六 会長とデート?③

 目的の場所はお洒落なカフェだった。木目調の店内は、ピアノが流れ、陽の光が店内を照らす。よく見ると奥には実物のピアノも置いてあった。

 店員に案内された席に腰掛ける。荷物を横に置き、対面に会長、澄川先輩が座る形だ。


「こんなお洒落なところがあったんですね」


「でしょ! 夜と一緒にこのあたりを散策していたら見つけたの。店内も広くてオススメだよ」


「澄川先輩と会長って仲良いですよね。何かきっかけとかあったんですか?」


「聞く? 聞いちゃう? それはねー」


 澄川先輩がニヤニヤしながら言う。


「ちょっと由奈? その話はあまり楽しくないと思うのだけど?」


 会長が少し焦った顔で止めようとする。


「いいのいいの」


 澄川先輩が続ける。

 

「入学した当初、私の澄川と、夜の冬月で席が前後だったの。それが出会い。まあ、最初はただ席が近いだけで、私の芸能活動も忙しくて関わりがなかったんだけど――」

 

「――でも、ある日下駄箱に手紙が入っていたの」


「手紙?」


 手紙なんてもらったこともあげたこともない。

 流石澄川先輩だ。


「そう、手紙。よくファンから手紙とか貰うことはあったんだけど、その手紙は差出人なしだったんだ。それ自体は珍しくないんだけど――」


「けど?」

 

「手紙一面が『応援しています』の文字で埋め尽くされていたんだ。びっしりと」


「そ、それは……」


 怖いな。それはもらっても素直に喜べない。


「しかも毎日のように下駄箱に入っていて。直接何か危害があったわけじゃないんだけど、差出人不明の手紙が毎日入っていたら怖くて。だから、誰なのか突き止めようとある日、授業終わったら全力で下駄箱に向かったんだ」


「入れた瞬間は見れたんですか?」


「いやもう手紙は入っていたの」


 怖すぎるな……。


「警察や学校に言わなかったんですか?」


「もちろん考えたんだけど。その時大きな仕事が入っていたから、余計な時間をとられたくなくて、言いたくなかったんだ」


 澄川先輩はそう言うと水を飲んだ。


「……でね、多分悩んでいたのが態度に出ていたのか、ある時夜に声をかけられて」


「……あの時の由奈は放課後に近づくにつれて顔面蒼白になっていたのよ。ほぼ毎日そんな形だったし、流石に気付くわ」


「すごく悩んでいたからね。誰にも言えなかったし。で、それで夜に相談して、色々助けてもらって解決したってわけ! あの時の夜はかっこよかったなあ。私が男の子じゃなかったら間違いなく惚れてたもん」


 会長はやはりすごいな。

 

「会長はなにしたんですか?」


「それはね、まずは手紙の――」

 

「ほら、由奈。ご飯来たわよ」


 澄川先輩の言葉は会長によって遮られた。

 店員が注文した料理を持ってきていた。


「おっと。麻倉くん、じゃあこの話はまた今度ね! 夜の活躍を余すことなくお伝えするよ」


「はい!」


 会長はどう解決したのか。そもそも結局犯人は誰だったのか。めちゃくちゃ気になる。


「もう……そんな面白い話ではないのだけど? ほら、おふたりさん。冷めないうちに食べましょう」


 会長の言葉に頭を切り替えて目の前の料理に集中する。まあ生徒会で会う機会がも多いし、その時また聞こう。

 注文した料理は三人ともパスタで、俺はボンゴレだ。


「うまぁ……」


 思わず声が出る。

 麺を噛むたびに、アサリの旨みがギュッと口に広がる。とても濃厚だ。それでいて後味はすっきりしている。

 こんなに美味しいパスタがあったのか。


「ふふふ。麻倉くんどうよ」


「めちゃくちゃ美味しいです!」


「でしょ? 全部美味しいんだけど、特にパスタは絶品なのよ」


「由奈は本当にここのパスタ好きよね」


「ここ食べたらもう他のお店のパスタじゃ満足できないくらい! ここでバイトして味を教えてもらおうかな」


「由奈? 放課後モデル活動あるのにこれ以上忙しくしてどうするのよ」


「それもそっか! 残念」


 会長と澄川先輩のやりとりを見ながらパスタを口に運ぶ。うん、美味しい。


 しかしそれにしても、二人は仲良いな。目の前で話している二人を見て思う。

 親友というか感じがして羨ましい。

 俺には親友は……純平か? いや親友というよりも悪友な気がするな。










 

 パスタを食べ終え、食後のティータイムを楽しんでいた。

 目の前には澄川先輩一人で、会長は電話をする用事があるとのことで席を外していた。


「で、麻倉くん、一つ聞いてもいいかな?」


 澄川先輩が気持ち前のめりになって口を開く。


「はい。なんでしょう?」


「麻倉くんって、夜の知り合いだったりする?」


 知り合い。おそらく生徒会に勧誘されるよりも前に知り合いだったかどうかを聞かれているのだろう。なぜ聞かれているのか不明ではあるが隠すことではない。


「いや、生徒会に勧誘された時に初めて会ったと思います」


「本当に?」


 澄川先輩に目を覗き込まれる。大きな目がじっと俺の目をみる。まるで自分のすべてを見透かれそうだ。


「ほ、本当です。まあ、もっとも全校集会とかで俺が一方的に会長の顔は知っていましたが」


 澄川先輩は俺の返答を聞くと、一転背もたれに身体を預けた。


「そっかー。当てが外れてたなぁ」


 ……宛? いや当て?


「なんのことですか?」


「いや夜が誰かを誘う、それも特に男の子を誘うなんてめちゃくちゃ珍しいのよ」


「そうなんですか?」


 そういえば純平もそんなこと言っていた気がする。


「そうそう。珍しいというか私は初めてみたね。だから聞いてみたんだけど、そっか、例の子だと思ったんだけど、違ったかぁ」


 例の子……?

 会長と会ったとのはあの時が初めてのはず。なにせ、緑川に来たのは数年ぶりだ。何年も立ち寄っていない。

 もしかして、転校する前に会ったりしたのだろうか。


 ズキン。


 突然鋭い痛みが頭を襲う。


「いって」


 思わず頭に手を当てる。


「大丈夫?」


 澄川先輩が心配そうに見つめてくる。

 

「あ、大丈夫です。ちょっと頭が痛かっただけです。一瞬だったので大丈夫です」


 そうは言っても澄川先輩は心配そうな表情のままだった。


「本当に? 頭痛薬なら持っているけど、よかったらいる?」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。もう痛くなくなったので」


 澄川先輩には丁寧にお礼を言いつつ、話を変える。


「そうえば会長は遅いですね。まだ電話しているんですかね」


「……確かに。ちょっと遅いね。もしあれだったら念の為確認してみようか。カフェの外にいると思うし」


 少々強引な気もしたが、澄川先輩は話に乗ってくれた。

 澄川先輩が席を立ち上がろうとしたところで、


「チャリン」


 入り口の鈴がなる。

 視線を向けると会長がちょうど外から戻ってくるところだった。


 会長が席についたと同時に帰り支度をする。

 今日買った備品を置くためにこのあと学校に寄る必要があるのだ。


 レジで財布を出そうとして止められる。


「麻倉くん、それはよくないわ」


「そうだよ。ここは先輩たちに任せなさい」


 優しい声音だがよく見ると二人の目が怖い。

 何か悪いことをしてしまったのだろうか。


「え、でも自分の食べた分は――」


「ここは私たちが払うわよ」


「そ、後輩は黙って奢られなさい!」


「あ、ありがとうございます」


 好意に甘え、ご馳走になることにした。もちろん、お礼の言葉は忘れずに。


 そしてその足で高校に向かい、荷物を置いて解散した。



 



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